島村楽器でアコースティックギターのナットを交換してもらうと料金は10,560円~。材料代や工具代を考えると、自分でナット交換するのはコスパが悪そうです。
しかし、ナット交換は、思っているよりひんぱんに行う作業です。
筆者は「演奏したら毎回弦をゆるめる派」ですが、毎回巻き弦がナットを削るので、いつか必ず弦高が低くなりすぎる日が来ます。
また、弾きたい曲が変われば、ナットを少し削ったり、逆に高さを上げたい(交換したい)ということも出てきます。
そこで、この記事では最もベーシックかつ失敗の少ないナット交換方法をガイドします。
自分のギターにあったナットの選び方
ナットの材質は牛骨、タスク(TASQ)、プラスチックなどがあります。世間では「素材によって音が変わる」など、いろいろな意見がありますが、とりあえず牛骨を選んでおけば問題ないと思います。
材質の違いより、加工の違いの方が音に与える影響が大きく、ものすごく高い素材を使ってもヘタな人がナットを削れば音は微妙です。
普通の牛骨をていねいに削る!
というのがベストチョイスだと思います。そもそもナットがギターの音に与える影響はそこまで大きくありません(もちろんナットによって音は変わりますが…)。どっちかというと、演奏性に影響する点が大きいです。
それよりも、ナット購入時に注意したいのはサイズです。
自分のギターの高さ、幅、奥行き(トラスロッドカバーとのすき間ができないように)を確認し、それよりも大きな物を選んでください。
ナット調整に必要な道具
ギターのリペアでは、ちゃんとした道具を揃えることが大前提です。ナット調整・ナット交換に必要な工具に高価な物はありませんので、ぜひ全て揃えてから作業に臨んでください。
ただし、ナット溝要のファイル(ヤスリ)だけは少しいいものを揃えてください。
- 交換用のナット
- シャープペンシル
- ノギス
- ミニスコヤ
- 定規
- ナット溝用のヤスリ(ナットファイル)
- ヤスリ(粗目中目油目)
- サンドペーパー(#150、#320、#600、#800、#1000、#1200)
- コンパウンド
- ノミまたは彫刻刀
- 瞬間接着剤
- マスキングテープ
- カッターナイフの刃
交換用のナットは、すでに述べたようにサイズに注意して選んでください。昔のギターは最近のものと幅や奥行きが違っている場合があるので、実測した数値を元に交換用ナットを選びましょう。以下の商品は52mmと幅が大きく、だいたいの指板に合うはずです(その代わりだいぶ削る必要があるかもしれません)。
スコヤは一定の角度(ここでは直角)にケガキ線を入れるときに使う道具です。ナットの作業ではミニスコヤがおすすめです。スコヤが手元にない場合は小型のL字定規(直角定規)で代用してください。
ノギスはある程度しっかりしたものが必要です。筆者は測定時にはデジタルノギス、ケガく時にはアナログのノギスを使っています。1本ですませるなら、シンワ測定のミニノギスがおすすめです。ただし、シンワ測定でも安いポケットノギスは簡易的なものなので、以下のモデル以上にしてください。
コンパウンドは金属磨きの「ピカール」で問題ありません。また瞬間接着剤は100円ショップの物でも十分です。
カッターナイフの刃はナット溝の深さを見る時に使用します。筆者は刃先が切れないようにサンドペーパーで丸めた物を使用しています。
また、ナット溝用のファイルはHOSCOのものがおすすめです。筆者はアコギのリペアに、エレキギター用の以下の商品を使用しています。ナットファイルは表示よりも若干太めの溝が掘れることと、通常エクストラライトゲージ弦を張ることがその理由です。

ナットの交換と調整方法

ナット交換では、購入した新しいナットを取り付けて削り、概ね上の図のような状態を目指します。
ギターによって状態はバラバラなので、この通りの数値にはなりませんが、ていねいに作業をすると、結果として近い数値になっているはずです。
まずは、以下の手順通に沿って作業してみてください。
古いナットを外す(当て木+ハンマーで叩く)

ナットを外す時は、基本的に当て木をかませてからハンマーで叩きます。筆者は家の倉庫にあったツーバイフォー材の切れ端を使っています。
勢いよく叩いていい、という説もありますが、慎重に少しずつコツコツ叩いていった方が安全です。グリーンラベル時代のヤマハFGなどは、勢いよく叩くとヘッドの塗装が一部持って行かれてしまうので、特に注意が必要です。

塗装がナットに乗っている状態なので、写真のようにカッターで切り込みを入れて、塗装が剥がれないようにしてからナットを外します。
ナット溝をクリーニングする

ナットを外した跡には接着剤が残っていたり、一部木材が剥がれたりしているので、ノミまたは彫刻刀で平らにします。
サドルスロットファイルで削るという方法もありますが、ノミのほうがキレイになるようです。
大まかに整形して瞬間接着剤で固定する

オリジナルと比較して、概ね近いサイズにざっくり整形します。この時、幅と奥行き(指板とトラスロッドカバーの間の寸法)はきっちり合わせて、高さは少しだけ余裕を持たせます。

整形できたら、瞬間接着剤でナットスロットに接着します。この時、接着剤はあまりたくさんつけず、底面と側面の各2か所に点々とつけるようにします。これで十分です。
6弦と1弦の位置に目印を付ける
まず最初に、6弦と1弦の位置を決めます(シャープペンシルでケガく)。元々ついていたナットが信頼できるなら、それに合わせてもいいですし、そうでない場合は6弦とナット端の間隔を4ミリ、1弦とナット端の間隔を3ミリにしてください。
6弦と1弦の間を5等分する

次に、6弦と1弦の間隔をノギスで測って5等分します。
たとえば間隔が36.5ミリなら、5等分すると7.3ミリなので、7.3ミリ間隔にケガきます。この時、0.1ミリ単位で測定できるアナログのノギスを使用します。
0フレットに対して直角に溝の線を描く

次に、上記でチェックした間隔に合わせて、0フレット(ナットの指板側端)に対して直角になるように、シャープペンシルでケガキ線を入れておきます。
ここで直角が出ていないと、正確にナット溝が切れません。
1弦用のナットファイルで全ての溝を軽く切る

上記でケガいた線に沿って、1弦用のナットファイルで軽く溝を切ります。
ノギスで等間隔になっているか確認する

軽く溝が切れたら、ノギスで本当に等間隔に切れているかを確認します。ここはアナログノギスの方が使いやすいです。
各弦の太さに溝を広げる

次に、各弦に対応したナットファイルで溝を掘り下げていきます。最初の溝を左右に広げることになるので、右か左に偏らないよう注意します。
少し余裕を残して作業をやめて弦をはる

ナット溝を切りながら、時々溝の深さをチェックします。写真のようにカッターの刃を2フレットと0フレット(ナット溝)に当てて、1フレットと刃の間のすき間が0.5ミリくらいになったら、いったん作業をストップし、弦をはります。
最後にちょうどいいナット高さまで追い込む

弦をはった状態で、本格的にナットの高さを調整します。一般的には「2フレットを押さえた時1フレットと弦の間に薄紙1枚ぶんのすき間があるくらいがいい」とされます。
しかし、実際にはネックのコンディションやサドルとのかねあいなので、本当にそれがいいかどうかは一概にいえません。
そこで、弦をはった状態で演奏してみながら、ぎりぎりの低さまでナット溝を追い込みます。
筆者は、12フレットで6弦の弦高が2.2ミリ、1弦の弦高が2.0ミリを目指して調整していますが、その前提としてネック調整やフレットのすり合わせができていることが必要です。
まとめ「ナット調整でギターの知識が深まります」

ギターのナット交換は、初心者にも不可能ではない作業です。また、ギターを弾く限り、時々は必要になる作業でもあるため、手順を覚えておいてソンはありません。
そこで、この記事では、自分でナット交換をするための手順とコツを詳しく解説しました。
ポイントをおさらいしておきましょう。
ナット選びの基本
サイズに注意が必要です。自分のギターのナット幅や高さ、奥行きを計り、それよりも大きめの物を選んでください。大きければ削れば問題ありませんが、小さすぎるとどうしようもありません。
必要な道具の準備
ナット溝用のファイルやノギス、サンドペーパーなど、必要な道具は揃えてから作業を行ってください。ノギスやスコヤなど、精密な作業を補助する道具は必須です。
仕上がりのチェック
弦をはる前にある程度余裕を残してナット溝を削り、弦をはってから目指す弦高に調整するようにしてください。仕上げの作業は音に影響するので、ていねいに根気よく作業してください。
ナット交換を自分で行うことで、費用を抑えられるだけでなく、ギターへの理解が深まります。ギターの音が悪い原因がナットにある場合もあります。ナット調整を経験しておくと「これはナットの調整で直るな」という判断ができるようになります。