
実は、仲介手数料無料には「いい仲介手数料無料」と「悪い仲介手数料無料」があります。
この記事では、仲介手数料が無料になる仕組みを理解し、本当におトクな場合に限って「仲介手数料無料」を利用する自己防衛のノウハウを紹介します。
不動産業界ではこういった裏事情はは常識となっています。しかし、一般にはなかなか知らされることはなく、主体的に情報を探す必要があります。
そもそも仲介手数料とは何か
不動産を賃貸する場合でも売買する場合でも不動産会社(宅地建物取引業者)に仲介を依頼すると、手数料を支払う必要があります。
仲介手数料の上限は、以下の表のように定められています。
売買の仲介手数料物件価格 | 仲介手数料の上限 |
400万円超 | 取引物件価格(税抜)×3%+6万円+消費税 |
200万~400万円以下 | 取引物件価格(税抜)×4%+2万円+消費税 |
200万円以下 | 取引物件価格(税抜)×5%+消費税 |
本則 | 大家から | 家賃の0.5か月分+税 |
入居者から | 家賃の0.5か月分+税 | |
実際 | 入居者から | 家賃の1か月分+税 |
これらの金額はいずれも法令で定められた上限ですが、上限の金額を請求することが一般的です。
なお、2024年の法改正で800万円以下の売買に関する仲介手数料が、実質引き上げられました。詳しくは筆者が寄稿した以下の記事で解説しています。
不動産仲介手数料の最新ルールと具体的計算方法|トーマ不動産マガジン
仲介手数料に含まれているものは?
仲介手数料には、宣伝広告にかかる費用や、契約書・重要事項説明書などの書類作成費用、調査費用などが含まれています。
不動産売買であれば、買主を探す業務や、賃貸物件の入居者を探す業務、場合によっては物件清掃などを含める場合もあります。
また、仲介手数料は成功報酬なので、がんばって広告したり物件をきれいに清掃しても、買主や入居者を見つけられなければ請求されることはありません。
不動産会社が最も儲かる仲介手数料は「両手」
売買の場合

仲介不動産業者は売買時の仲介手数料を、売主と買主、それぞれから受け取ることができます。
売主買主双方から仲介手数料をもらうことを「両手」と呼びます。
しかし自社が仲介契約(媒介契約)をもらっている物件に、他社が客付け(買主を見つけること)すると、売主からしか手数料をもらえません。
これを、片方から仲介料をもらうという意味で「片手」と呼んでいます。
これを業界では売主買主の両方から手数料をもらうという意味で両手仲介と呼んでいます。
賃貸の場合

賃貸の場合は大家さんと入居者の両方からもらう仲介手数料合わせて家賃の1か月分+消費税と定められています。
賃貸の場合、もし自社管理物件に他社が客付けした場合、1カ月分の家賃を半分ずつ分けることになります。
仲介手数料無料のカラクリ
では不動産業者が最も重要な収入源である仲介手数料を無料にできる理由は何でしょうか。売買の場合と賃貸の場合で内容が異なるので、それぞれのケースに分けて見ていきましょう。
仲介手数料が無料になるカラクリ(不動産購入時)
不動産売買の仲介で、売主からも買主からも仲介手数料をもらわず完全無料にしたとすると、不動産業者の収入源がなくなり経営が不可能になります。
そこで、仲介業者は以下のどちらかの仕組みを作り利用することになります。
- 売主からのみ仲介料をもらい買主を無料にする
- 買主からのみ仲介料をもらい売主を無料にする
危険なのは②の売主が無料のパターンです。
買主の仲介手数料無料は比較的問題になりにくい
物件を探している時「仲介手数料無料」をうたっている広告を目にすることがあります。この場合、売主から仲介手数料をもらっており、なおかつ売主が業者というケースがよくあります。
新築の建売住宅や不動産業者が売主となっているリフォーム済み物件で、このパターンの仲介手数料無料物件がよくあります。
こういうケースでは、さほど問題がおきるわけではなく、利用してもよいと判断できます。
仲介手数料が無料になるカラクリ(不動産売却時)

不動産を売却する時、仲介手数料無料の業者に依頼するのはおすすめしません。
なかなか売物件を集められない不動産業者が「売主の仲介手数料無料」をうたって物件を集める場合があるからです。しかし売主の仲介手数料がゼロであれば、必ず買主に仲介手数料を払ってもらう必要があります。
そしてこの場合、売主にとって困った問題が隠されています。
- 物件の囲い込みが前提
- 売主より買主が大切な客である
仲介手数料無料物件は「自社だけで物件を囲い込んで売却する」必要があります。これは物件が売れるのに時間がかかったり、高値で売却しにくいということを意味します。
実際にレインズへの登録義務違反で処分を受けた事例
沖縄県で大々的に「売主の仲介手数料無料」というコマーシャルを打ち、売主を募集している業者があります。県内では有名な業者ですが、2025年1月22日に沖縄県から指示処分を受けています。
これは、国土交通省ネガティブ情報等検索サイトにも掲載されており、以下のリンク先で閲覧できます。
当該業者の処分内容|国土交通省ネガティブ情報等検索サイト
この会社は「売主仲介手数料無料」とうたっているため、どうしても物件を囲い込む必要があり、指定流通機構(レインズ)への登録義務違反で行政処分を受けたものです。
このように、「売主の仲介手数料無料」にはどうしても法令上の問題が生じます。
また、さらに深刻なのは、買主しかお金をはらわない以上、大事な客は売主でなく買主であるという点です。
不動産売却時の仲介手数料無料は不利な立場になりがち

このケースで買主は不動産会社に利益をもたらしますが、売主は1円も利益をもたらさない客です。そもそもお金を払わない以上「客」と呼んでいいのかどうかも微妙です。
そこで契約における条件交渉・価格交渉において、不動産業者にとっては買主の満足を優先して契約を求めたい、というバイアスがかかりがちです。
そうなると仲介手数料をケチったぶんよりも契約面でののマイナスが大きい……ということになりかねません。
本当は売主が有利なはずなのに……
本来、売買においては不動産会社にとってより重要な客は売主です。なぜなら売主がいないと仕事がスタートしないのに対して、買い手は後からついてくるものだからです。
売主の仲介手数料無料に惹かれてしまうということは、せっかく有利な売主の立場を放棄する事につながります。そこで売主の仲介手数料無料には惑わされない方がよいと判断できます。
賃貸の仲介手数料無料はそれほどリスクは高くない

賃貸で仲介手数料を無料にできる仕組みはシンプルです。入居者が仲介手数料払わないぶん、大家さんが支払っているということです。
賃貸物件の大家さんは、なかなか入居者が決まらないときに、仲介手数料以外に広告費(AD)名目でお金を払い不動産会社に頑張ってもらうことがあります。
逆に言えば入居希望者が多い人気のエリアの人気物件などでは賃貸の仲介手数料無料はほとんど見かけません。
このケースは「なんらかの理由でなかなか入居者が決まらずその分を大家さんが負担する」ということなので、立地条件や物件の条件が気にならない場合はおトクだと考えてよいでしょう。
ただしトータルでおトクかどうかはよく考えるべき
賃貸物件を契約する時にはさまざまな諸費用が発生しますが特に大きいものは以下の3つです。
- 敷金
- 礼金
- 仲介手数料
そこで仲介手数料をゼロにすると言われても、礼金を取られているようではお得ではありません。

そこで賃貸の場合は大きな危険こそないものの、仲介手数料無料だけに惑わされることなく、トータルでのコストを考えることが大切です
まとめ:賃貸や物件購入時の仲介手数料無料は利用してOK

この記事をまとめると、次の表のようになります。
売買の売却時の仲介手数料無料 | あまりおすすめしない |
売買の購入時の仲介手数料無料 | あまり問題はない |
賃貸の仲介手数料無料 | あまり問題はない |
この表のように整理して仲介手数料無料の業者を上手く活用するのがおトクです。ただし、仲介手数料が無料かどうかよりも、もっと大切なことがたくさんあります。
一見よさそうな「仲介手数料無料」に振り回されることなく、トータルで物件を評価しましょう。