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Enya EUT-X1レビューと「HPLとは何か?」について

この記事のテーマは2つあります。

1つめは、Enya EUT-X1ウクレレのレビュー。驚きのコスパに迫ります。

2つめは「HPLとは何か」という疑問

楽器店やメーカーサイトには「HPLとは木材の繊維を樹脂で固めたもの」と解説されていますが、それは間違いです。

HPLは樹脂の塊で、完全な人工物です。

そんなHPL製のEnya EUT-X1はクセが強いものの決して音が悪いわけではなく、HPLが人工物ではあっても「ウクレレに使ってはいけない」とは感じませんでした。

記事本文では、EUT-X1のサウンドを分析し、HPL製ウクレレの正体に迫ります

Enya EUT-X1Cのコスパは高い…

EUT-X1C(なみのおと音楽教室撮影)

Enyaウクレレはどれも高いコスパが印象に残りますが、このEUT-X1も15,900円で驚きのクオリティ(注)。しかもパッケージには、ストラップ、チューナー、交換弦、カポタスト、クロス、フィンガーシェイカーが付いてきます。附属ケースのできもよく、2,000~3,000円程度で市販されているソフトケースと変わらない品質でした。

付属品を別途購入すると、それだけで数千円してしまいそうです。

しかも仕上げが非常にきれいで、演奏しやすく、一見すると非の打ち所がない楽器です。

それなのに、手放しですべての人に勧められないほどのクセがあります。

注……イシバシ楽器楽天店で購入した時の価格。もう少し安い場合も、高い場合もあります。

EUT-X1の音程と音量・音声スペクトル

まず、オクターブピッチを測定してみましたが、かなり正確でした。3弦開放のCと12フレットのCで、誤差は約10セントほどです。価格を考えると、十分以上の精度だと思います。

次に音量を測定しました。いつも「大人のウクレレ入門(ゆるレレ)」で測定している条件(1.5m離れた場所でクレイジーGを弾いた時の音量のピークを測定)で測ると、平均して83.1dBでした。これは平均を少し下回るやや平凡な数値です。

なみのおと音楽教室にあるすべてのウクレレの平均は約84dBで、詳しくは以下の記事で解説しています。

音声スペクトルを見るとかなり特徴的でした。

左がEUT-X1、右がFish

左がEUT-X1で、右がLehoのFish(ピンカド単板/テナーサイズ)です。木材で作られたFishにくらべて、HPLでできているEUT-X1は妙に整然とした音の出方です(いずれも3弦開放のCを弾いた時のもの)。

一方で倍音の出方は複雑でした。

左がEUT-X1、右がFish

これもCを弾いた時の比較ですが、EUT-X1は押弦した瞬間には倍音以外の音も鳴っており、徐々にCの倍音とGが残るのが特徴です。Fishでは最初から、主にCの倍音とGの音が鳴っています。

EUT-X1の音を耳で聞いた時、何となく感じる違和感の正体はこのあたりにあるのかもしれません。やはり通常の木材ではない違和感はどうしても残ります。樹脂を一体成型したNova Uのほうがより普通のウクレレに近い音に聞こえました。

ポイント

EUT-X1の音をひと言でまとめると「少しギターっぽい」感じです。ウクレレにしてはサスティーンが長く、ボディーの内部でしっかり反響しているように聞こえます。

EUT-X1の演奏性

EUT-X1は演奏性が高いウクレレです。重量バランスがよく、Enyaウクレレの中でも弾きやすいと感じました。ストラップをつけて弾いた場合も、ウクレレが傾くことなく自然に演奏できました。

テナーサイズということもありネックはやや太めです。しかし、極端に太いわけではなく、違和感は感じませんでした。手が小さい人でも十分演奏できると思います。

うちに来た個体の弦高は、12フレット付近で2ミリ強でした。数値的には適正ですが、実際に弾いてみると、意外と弦高が低いように感じました。しかし、どのポジションでも音がびびるようなことはなく、快適に演奏できました。

フレット回りの処理もよく、全体に演奏しやすいと感じます。

また、マシンヘッド(ペグ)のできが非常によく、チューニングしやすいと感じました。ただし、一部のペグは到着時からグリスが漏れており、その点ツメの甘さも感じました。

EUT-X1の質感

質感は楽器というより家具

ネットで買う場合には注意したいところですが、EUT-X1などHPL製のウクレレは質感がよくありません

画像で見ただけでは普通のウクレレと変わらないように思えるのですが、届いた製品を見ると「家具っぽい…」というのが第一印象でした。

木目は印刷されているもののやはり不自然で、家具やシステムキッチンの、あの感じです。

その点を買う前に把握しておかないと、現物が届いてからがっかりすることになるかもしれません。

EUT-X1が向いている人、やめた方がいい人

キャンプのお供などには最高のウクレレ

まったくの初心者には、EUT-X1をおすすめしません。それよりも2台目以降「ちょっと変わったウクレレが欲しい」といった場合におすすめします。

たとえば、こんな人に向いていると思います。

  • キャンプなどアウトドアで弾きたい場合
  • 普段ギターを弾いている人がたまにウクレレを弾く場合
  • 子どもが弾くなど耐久性が必要な場合
  • 正確な音程の楽器を安く手に入れたい場合

傷つきにくくタフなウクレレなので、外で弾く場合に安心して持ち出せます。価格も安いので、メインのウクレレを傷つけたくない場合にも活躍してくれそうです。

EUT-X1は、驚くほどコスパが高く「自分の目的に合っている」と感じたら買いでしょう。

逆に、こんな場合は向いていません

  • ウクレレ本来のサウンドを求めている場合
  • ピックアップを取り付けるなど加工したい場合

本来のウクレレサウンドを求める場合は「ちょっと違うな」と感じるはずですし、加工がしにくいのでピックアップの後付けなどは高難度です。

そのため、はじめてウクレレを手にする人や、ウクレレらしいウクレレを求める人にはおすすめできません。一方で、どちらかというとギター的なサウンドを求めている人に向いていると感じました。音楽のジャンルでいうと、ブルースやR&B、フォークロック、カントリー、演歌などにも向いていると思います。

また、EnyaのラインナップにはコンサートサイズのHPLウクレレがあり、こちらはよりコスパが高く、驚かされます。

HPL(ハイ・プレッシャー・ラミネート)とは何か

HPLは、楽器店やメーカーサイトでも「木の繊維を樹脂で固めた素材」「木の薄板を何層も高圧で圧着した新素材」で、「マーチン社が開発した」と書かれている事が多いのですが、調べたところそれは間違いでした。

HPLは楽器に使用される以前から家具や住宅設備に使用されていた樹脂素材です。信頼できる情報源として米国の複合材協会(Composite Panel Association.)の解説を引用しましょう。

HPLは複数枚のクラフト紙をフェノール樹脂で飽和させ、その上に装飾用に印刷した紙を載せてプレスすることで製造します。そのサンドイッチ構造は1000PSI以上の高圧と高温下で結合します。(中略)高圧ラミネートは、最も耐久性のある装飾面材料の 1 つと考えられています。家具、キャビネット、フローリング、壁の処理に使用され、水平および垂直の両方の用途で優れた性能を発揮します。

簡単にまとめると、複数枚の紙を合成樹脂(synthetic resin)に浸し、高温下で1000PSI(1平方cmあたり70kg)以上の高圧をかけて固めたものであり、木材ではありません。

HPL材の顕微鏡写真(なみのおと音楽教室撮影)

木目をプリントした装飾層(Decorative layer)を顕微鏡で拡大すると、上の写真のように印刷の網点が見えます(約60倍)。場所によっては印刷の版面のキズらしき線が見えるなど、間違いなく「紙に印刷したものである」といえます。

複合材協会の説明では省略されていましたが、装飾層の上に透明や半透明のオーバーレイ層が配置され、合板を保護する役割を担っています。

HPLをマーチン社が開発したというのは誤りだと考えられますが、楽器用に使用したメーカーとしては先駆的な会社だったといえます。

結論として、HPLは木ではなく、紙を樹脂で固めた硬く薄い板です。木ではなくむしろ樹脂なので、ウクレレの材として使用した場合独特のサウンドになるのはしかたがないことなのでしょう。

MartinのHPL製ウクレレ

MartinはHPLを何と説明しているのか?

結論からいうと、MartinもHPLは紙と樹脂を固めた素材だと説明しています

いろんなサイトやYouTubeチャンネルで「木材の繊維を固めたもの」と解説していますが、そのような間違った解釈が広がった理由は謎です。しかし、Martin自身の解説を読むとはっきりします。

HPL stands for high pressure laminate. It is a composite material made from paper and resin that is pressed at very high pressure. The surface will have a wood pattern (Mahogany, rosewood, Koa, etc.) and a protective clear coating. It is not a wood veneer.

HPLとはハイ・プレッシャー・ラミネートの意味です。これは紙とレジンを高圧でプレスした複合材です。表面はマホガニーやローズウッド、コアなどのウッドパターンを貼り、透明なプロテクト層を重ねています。これは木材のベニヤ板ではありません。

FAQs - Martin Guitar

間違いなくHPLは木ではなく、木くずを固めたものでもなく、高圧で固めた樹脂だと確認できます。全米合板協会の説明と同じだと判断できる説明でした。

まとめと迷っている人におすすめのウクレレ

この記事をまとめると、HPLは木ではなく樹脂でできた硬い板であること、Enya EUT-X1は悪いウクレレでないものの、HPL独特のクセが強いことが結論でした。

結論
  1. 音は悪いわけではないが独特の傾向あり
  2. 音量はさほど大きくない
  3. 仕上げはよく、たいへん弾きやすい

また、システムキッチンの表面と同じような材で作られていますから、安くて気候の変化などに強いウクレレです。外で弾くためのウクレレとしては最適でしょう。

HPL製のウクレレ(X1)で、今入手しやすいのはスロテッドヘッドのモデルです。

また、後悔しないウクレレ選び全般について、もう少し幅広い解説をお探しの場合は、以下の記事がおすすめです。

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