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ヤイリギター工場見学「ヤイリのウクレレはどこまで進化したか」

ヤイリギターの工場は、岐阜県可児市にあります。

可児市役所が出している資料によると、約30人の職人が1日わずか20本ほどのギター・ウクレレを製作している、手工品のイメージが色濃い工場とのこと。

たった30人で世界的なブランドを維持し続けている現場とはどんなものなのか、興味津々で出かけてきました。

ヤイリの工場見学に行くべき理由とレビュー

ウクレレ弾きやギター弾きは全員、ヤイリの工場を見学しておくべきだと思うレベルでおすすめです。

その理由は、以下の2つです。

  • ギターやウクレレの製造工程を理解すると楽器選びがはかどる
  • ハンドメイドギターの製造工程をくまなく見せてもらえる

まず、ウクレレを選ぶうえで、自分が買おうとしている楽器がどう作られているのかを知ることは大きいと感じました。

また、現在は中国のEnyaなどが、工業製品としてのウクレレ・ギターを大量に販売しています。

それに対して、ハンドメイドの楽器は何が違うのかを知ることができます。

ぜひ一度、工場見学に出かけてみてください。無料でこんなに勉強になることはめったにないと思います。

ギター・ウクレレ製作の全工程と弦楽器の仕組みがわかる

オーダーメイドギターの製作風景

工場見学では、まず最初にオーダーメイドのギターやウクレレを作る、マスタークラフトマン・クラフトマンの工房を見学します。

マスタークラフトマン小池さんの作業風景

工場見学時、超有名なマスタークラフトマン小池さんがボディにインレイを入れていました。

その手つきを見学できるのは、ギター・ウクレレ好きとしては貴重な体験でした。

サイドの材を曲げる工程

次に、サイドの材を曲げる工程を見学。板が折れないように加熱した後、機械でプレスしていきます。

その後は、トップの材にブレーシングを取り付けている工程を見学しました。写真左がアコギで多用されるXブレーシング。右はナイロン弦ギターでよく使われるファンブレーシングです。

このブレーシングは、楽器がよく鳴るように不要部分を削るのですが、この作業をスキャロップと呼びます。

ヤイリギターでは、トップの板の木目や特徴にあわせて、一本一本削り方を変えているそうです。

量産ギターでは画一的に、あらかじめスキャロップされたブレーシングを取り付けていますが、ヤイリではトップの板に取り付けた後、職人の経験を元に最適な削り方でスキャロップしていきます。

ネックの取り付けも手作業で行われていました。ボディとのアタリをみながらノミで削っていき、ぴったりとあわせます。

ネックが取り付けられると、この写真のような状態になります。ネックに掘られた溝は、トラスロッド用です(ウクレレでは通常、トラスロッドは入れません)。

その後はボディの仕上げ、指板の取り付け、ナットやバインディングの取り付け、フレットの打ち込みなどの工程を見学します(このあたりはやや駆け足)。

驚いたのは指板のアールを手作業で出す工程でした。

写真のようにベルト状に回っているサンダーを使って、手作業でアールを出していましたが、これは地味に難しい作業だと思います。

筆者は現在、ESPのギタークラフトアカデミーでメンテナンスを学んでいますが、指板調整でアールを出すのは治具を使ってもかんたんではありません。

それを手作業で的確に行っていく姿は、ちょっと感動的でした。

その後、ヤイリギターの職人さんによるミニライブを聴き、工場見学が終了します。職人さんとはいえ、写真の方はギター講師もされており、聴き応えのあるライブでした。

最後に、集合場所となっていた事務所2階のショールームに戻り、そこで解散となります。解散後は、自由に試奏することができます。

そこで、筆者は飾ってあるすべてのウクレレを試奏してきました。

ヤイリのウクレレはソプラノが秀逸!

実は……ヤイリが最初に発売したウクレレのできはイマイチでした。

それについて、日頃感じていた疑問を職人さんにぶつけてみることができたので、ここに共有したいと思います。

2016年頃、K.Yairiのウクレレが発売になった時、筆者はとりあえず飛びついて購入しました。AK0というソプラノウクレレで、しっかりしたつくりでしたが、全然鳴りませんでした。

「天下のヤイリが、なぜこんなに鳴らない物を作ったのかな?」と思うデキだったのです。

これは「ウクレレを研究せずに、ギターと同じように作ったからでは?」と、ずっと感じていました。その疑問を職人さんにぶつけてみると、まさにその通りでした。

彼は、

「最初、ギターと同じように作ってしまった」

とおっしゃっていました。

その後ヤイリギターでは、ウクレレらしいサウンドを作り出すために試行錯誤し「ウクレレはいかに弱く作るか」がポイントということで、ギリギリの強度を模索したそうです。

そして今回弾いてみたヤイリのウクレレは、驚くほど進化していました。

ヤイリらしいつくりの良さは健在で、なおかつ現代のウクレレらしい、伸びやかな音が鳴ります。

これはヤイリの職人さんたちが、自分たちにとっての理想のウクレレサウンドを探し求めた結果でしょう。

ここからは推測ですが、ヤイリのウクレレを弾いてみて「おそらくハワイ産などのウクレレよりも強度は強い」と感じます。

音の大きさやサスティーンにこだわりすぎたあまり、どこか破綻したウクレレも多数存在していますが、やはり「ヤイリはそういうことはしない」という安心感がありました。

サスティーンや鳴りで無理をしすぎないおかげで、弾き手に返ってくる音の心地よさは抜群です。

ずっと弾いていて飽きないし、疲れない音で鳴ってくれます。

コードを弾いた時に、まとまりのある美しいヴォイシングに聴こえることもあり、筆者としては「ヤイリのウクレレはソプラノがおすすめ!」と考えています。

一生もののソプラノウクレレを探している、という場合は、このUS-90も有力候補のひとつになるでしょう。

どんなに古くてもヤイリの楽器はメンテナンスを受けられる

さまざまなアーティストや一般ユーザーから送られてきた、メンテナンス待ちのギター・ウクレレが並ぶ工房も見学できました。

写真は令和6年能登半島地震で被災したギターを修理している様子。ギターの上に物が落ちてきたために、トップが割れてしまったようです。

この職人さんは「東日本大震災で被災したギターも、熊本地震で被災したギターも、ここで修理しました」と語ってくれました。

ヤイリのギターやウクレレは、いつ製造されたものであっても、本社工場でメンテナンスを受けることができます。

ヤイリギターの簡単な歴史とK.YairiとS.Yairiについて

多くの人が目にする「ヤイリ」は、量販店に並ぶS.Yairi製品かもしれません。でもそれは、僕たちがいう「ヤイリ」ではありません

K.YairiとS.Yairiは、別のブランドです。

1970年代から80年頃まで、K.Yairi(矢入楽器製作所)とS.Yairi(矢入楽器製造)は、どちらも人気のあるギターブランドでした。

創立者が兄弟であったことから、同じ会社かと思われることもありますが、別々の企業としてスタートした、まったく別の会社です。

その後、アコースティックギターの需要が落ち込んだことなどにより、S.Yairi(矢入楽器製造)は1982年に倒産。その後、2000年になって楽器卸販売などを手がけるキョーリツコーポレーションの1ブランドとして復活しています。

したがって、現在のS.Yairiは昔のS.Yairiとも違う別のブランドだ、と考えるべきでしょう。

そういった背景があり、「ヤイリギター」といえば、K.Yairiのことだけを指します

また、ウェブ上の記事では「A.Yairiという物もある」というコピペ的な内容が多いのですが、これはたぶん正確ではありません。

ヤイリギターの工場見学で「米国アルバレズ・ギターと提携して製造している」というギターを何本か見学できました。

ヘッドストックにAlvalez Yairiのロゴが入ったギター

アルバレズ・ギター(Alvalez Guitars)はアメリカのギター販売会社(運営母体はセントルイス・ミュージック)ですが、ここはロゴを2種類使い分けています。

そのうち、ロゴに「Y」の文字が入っている物が、おそらくヤイリギター製で、米国ではアルバレズ・ヤイリと呼んでいるようです(上記写真参照)。

共同開発というより、実態はおそらく、ヤイリギターの技術で製造したギターをアルバレズに供給しているということだと思います。

実際、日本国内のオーダーギターにアルバレズ・ヤイリのロゴが入っているケースもあり、米国主導ではなく、ある程度ヤイリ側で自由に使える商標なのではないかと考えられます。

「いや違うな」という情報をお持ちの方がいらっしゃったら、ぜひコメント欄でご指摘ください。

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