スマートフォンに通知が届く。すぐに電話をかける。しかし返ってきたのは「もう他社に決めました」のひと言。
そんな経験が続いているとしたら、それはあなたの営業力の問題ではありません。
不動産一括査定サイトのビジネスモデルそのものに、構造的な「落とし穴」があるのです。
この記事では、一括査定サイトの媒介受託率(反響から媒介契約に至る確率)が3〜11%にとどまる理由と、媒介1件を獲得するための実際のコスト(CPA)が50万円にのぼる実態を、データで解説します。
そのうえで、わたしたちアップライト合同会社がなぜ一括査定サイトに頼らない集客を選んでいるのかをお伝えします
反響1件2万円:1媒介契約あたり50万円という実態

多くの一括査定サイトは「反響課金」を採用しています。ユーザーが査定を申し込んだ時点で費用が発生するモデルです。イエウールなど主要サービスの相場は、1件あたり1万5,000〜2万円程度です(インターネット上の情報を分析)。
資料請求のCPAが1万〜3万5,000円、展示場への来場誘導が5万〜10万円であることを考えると、「査定依頼」という成約に近いアクションに2万円は、理屈のうえでは妥当な水準といえます。
しかし問題は、反響1件の価格ではありません。「媒介契約1件を取るためのトータルコスト」が問題なのです。すなわち、不動産一括査定サイトからのリードはコンバージョン確率が極めて低い点が問題なのです。
受託率3%(業界の下限値)の場合、媒介1件を取るには33件の反響が必要です。
1万5,000円 × 33件 = 約50万円
つまり、媒介契約1件につき約50万円。1500万円の物件を片手で成約したら吹き飛んでしまいます。
受託率が10%まで上がると、必要な反響は10件に減ります。
1万5,000円 × 10件 = 15万〜20万円
さらに見落とされがちなのが「成約CPA」です。媒介を取得しても、そのすべてが売買成約に至るわけではありません。最終的に1件の仲介手数料を得るために、SUUMOなどのポータルサイトへの支出を行っているのが現状ではないでしょうか。
つまり、物上げから成約までのコストに100万円ちかくを費やし、実はタダ働きだったということも珍しくありません。
データで見る「受託率」の現実

サイト別の受託率
ミカタ株式会社の2021年実績データ(総査定数13,631件)をもとに、各サイトの訪問査定率と推定受託率(訪問査定率×60%)を整理すると、次のような傾向が見えてきます。
| 媒体名 | 訪問査定率 | 推定受託率 |
| LIFULL HOME'S | 31.4% | 18.8% |
| HOME4U | 19.7% | 11.8% |
| すまいステップ | 19.0% | 11.4% |
| おうちダイレクト | 14.4% | 8.6% |
| リビンマッチ | 11.3% | 6.8% |
| マンションナビ | 10.5% | 6.3% |
| イエウール | 8.9% | 5.3% |
| イエイ | 6.6% | 4.0% |
表中のイエイ、イエウール、マンションナビ、リビンマッチなどは推定受託率が低く「宅建業者には不利なサービス」といえそうです。少なくとも、LIFULL HOME'Sの18.8%やHOME4Uの11.8%と比べると大きな開きがあります。
反響の「数」は最大級でも、受託率という「質」の面では必ずしも効率的とはいえない。これがデータが示す実態です。
一方で、注目したいのはイエウールと同じ会社(株式会社Speee)が運営するすまいステップです。こちらは推定受託率11.4%という高い水準にあります。イエウールは短期的に利益を追求する戦略、すまいステップは宅建業者と共栄をはかり長期的な利益を優先する戦略……と見えなくもありません。
参考までに別のデータも紹介
別の調査(kajicon.jp掲載、1,331件の反響実績)では、各サービスの媒介受託率は以下の通りです。
| サービス | 媒介受託率 |
| LIFULL HOME'S | 16.28% |
| リビンマッチ | 11.79% |
| イエウール | 11.76% |
| HOME4U | 10.74% |
| イエイ | 9.42% |
| マンションナビ | 8.33% |
こちらの調査によると受託率は約8%~16%程度。ただし、この数値は追客体制が整ったコンサルティング事例に基づいており、一般的な不動産会社の実態はさらに低いと考えるのが妥当でしょう。
地域によって数字はどう変わるか
都市部と地方では、受託率の構造が大きく異なります。
都市部では1件の査定依頼に最大10社が競合します。統計上の勝率は10%以下に低下し、「高コスト・高リターン」のハイリスク勝負になります。一方で、仲介手数料の単価が高いため、多くの会社が広告費を投じるチキンレースとなっています。
地方では競合が1〜3社程度にとどまるため、受託率が20%を超えることもあります。ただし、売却完了までの期間が長くなりやすく、「ローリスク・スローリターン」の展開を覚悟する必要があります。
地方の不動産会社が高い受託率を実現するカギは、
- 反響から5分以内の初回コンタクト
- 地元の取引事例や地域特有の需要を盛り込んだ提案
- 早期の訪問査定
上記の3点といわれています。都市部よりも「人間関係の信頼」が取引を動かす地方では、こういった施策が今も効果的だとされます。
なぜ決まらないのか?3つの構造的欠陥

ここまでで、不動産一括査定サイトを利用した場合の受託率の数字が見えてきました。しかしなぜ、これほどまでに受託率が低いのでしょうか?
① ユーザーの75%は「価格調査目的」の初心者
一括査定サイトを利用するユーザーの約75%は、売却経験を持たない初心者です。そして多くの人は「まずは価格だけ知りたい」という動機でサイトを訪れます。
つまり、「今すぐ売りたい」人は全体の4分の1以下。残りの75%にかかるコストが、そのまま利益を圧迫しているわけです。
② 査定価格のインフレ(高預かり)競争
媒介を取るために、市場価格を大きく超えた査定額を提示する競争が起きています。しかしこれは、その後の成約率を低下させる「不毛なレース」でもあります。
筆者が実際に目にしたケースでも、強引な高預かりで受託した物件が1年以上売れず、最終的に大幅な値下げを余儀なくされた例が少なくありません。「お好きな価格で売り出しましょう。ただし、売れる可能性は低いですよ」という事実を売主に正直に伝えられるかどうかが、最終的な成約率(所有権移転率)を分けると考えられます。
③ 一般媒介の比率が高すぎる
媒介契約の種類に注目すると、全国平均では一般媒介契約が44.8%と最多(LIFULL HOME'S調べ)。一般媒介は複数社が並立するため、自社が投じた広告費・人件費を、他社に持っていかれるリスクもあります。
一方、東京23区では専任媒介(専任・専属専任)の合計が70%を超えます。都心の売主は「1社に集中して任せることで、広告予算を集中投下してもらう」ことの合理性を重視しているのかもしれません。
その点、エリアによる違いはあるものの、不動産一括査定に課金した上で一般媒介契約となってしまうケースが多いのが現状。効率という点では、けっして喜ばしい数字ではありません。
追客の質を変えなければ、一括査定は実を結ばない

IT企業が高度なテクノロジーで集めた反響を、旧来の電話営業体制で受け取ろうとすること自体に、根本的なミスマッチがあります。
デジタルで集客するなら、追客もデジタル化しなければ釣り合いが取れません。
では、どうすべきか。大きく分けて2つの選択肢があります。
①自社サイトで少数精鋭の反響を取る
SEOやコンテンツマーケティングを通じて、自社サイトに検索流入を作る方法です。反響数は一括査定サイトより少ないですが、「この会社に頼みたい」という意志を持ったユーザーが問い合わせてくるため、受託率・成約率ともに高くなる傾向があります。
②一括査定サイトを使うなら、MAツールの導入は必須
月に数件から数十件の反響を取るなら、CRM(顧客関係管理)やMAツール(マーケティングオートメーション)を使った追客の仕組み化が不可欠です。「電話が鳴ったらラッキー」という姿勢では、75%の「価格調査層」を育成する余裕は生まれません。
多少見込みの薄い顧客層であっても、長期的に態度変容をうながして受託する必要があります。具体的には、ステップメールなどで接触機会を増やし、ナーチャリング(契約意欲の育成)を通じて受託率を上げていくことで実現します。
コンプライアンス的に気がかりな点も
「最高値で売れる」「他社より高く査定」といった広告表現は、景品表示法(有利誤認)の観点から問題になる可能性があります。査定価格は成約価格を保証するものではないからです。
また、査定依頼のインセンティブとして提供できる金品にも制限があります。現在の業界では、抽選でAmazonギフト券を贈呈する程度が一般的な形態です。
私たち宅建業者にとっては、免許権者の処分を避け、社会的信用を維持するためにも、コンプライアンスの遵守は不可欠です。
なお、一括査定サイトの運営会社そのものについていえば、彼らは「機会」を提供しているプラットフォームであり、その機会を利益に変えられるかどうかは、不動産会社側の「出口戦略」次第です。プラットフォームを責めるより、自社の追客体制を問い直すほうが建設的かもしれません。
つまり、一括査定サイトで不動産屋はもうかるの?
データが示す答えは、明確です。
追客を「仕組み化」できている会社にとっては、今なお有力な仕入れツールです。
一方、仕組みがなく「電話が鳴ればラッキー」という体制の会社にとっては、媒介受託CPAが50万円近くになることもある「利益を食い潰すコスト」になりかねません。
会社全体としてIT化やマーケティングオートメーションに対応できているなら、不動産一括査定に取り組めばいいでしょう。
そうでないなら、立ち止まって考えるべきでしょう。
そして、もっと大きな変化が来る

一括査定サイトのコスト問題より、もしかするとこちらのほうが重要かもしれません。
AI検索の台頭です。
Googleはすでに「AIモード」や「AI Overview(AIO)」を導入し、検索結果の見え方を根本から変えつつあります。ユーザーは検索結果のリンクをクリックするのではなく、AIが要約した「答え」をその場で受け取るようになっています。
この変化は、これまでSEOで大きな存在感を示してきたサイトにも、すでに影を落とし始めています。
たとえば「マイベスト」。商品比較レビューの分野で圧倒的な検索流入を誇っていましたが、最近は以前ほど検索結果の上位で見かけなくなっています。「食べログ」も同様です。なぜかといえば、GoogleやAIがマイベストや食べログの「やっていたこと」を、自分自身でやってしまうようになったからです。
比較情報や口コミの要約なら、AIが直接答えてくれる。わざわざ専門サイトに飛ぶ必要がない。そういう時代になりつつあるわけです。
不動産一括査定サイトも、この流れと無縁ではないでしょう。
「信頼できる不動産屋を3社教えて」とAIに尋ねる時代が来れば、ユーザーは一括査定サイトを経由する必要がなくなります。AIが直接、地域ごとの評判の高い会社を推薦する。そうなると、一括査定サイトという「中間プラットフォーム」の存在意義は、大きく揺らぎます。
では、そのときどうするか。
答えはシンプルです。AIに推薦される会社になること、つまりAI検索への最適化(GEO:Generative Engine Optimization)に、今から取り組むことです。
AIはどの会社を推薦するのか。信頼性の高いコンテンツを継続的に発信し、専門性と実績がウェブ上に蓄積されている会社です。一括査定サイトへの課金を増やしても、AIには評価されません。自社サイトで誠実な情報発信を続けることが、次の時代の「集客の基盤」になるのです。
一括査定サイトの課金が重いという悩みは、今日の問題です。しかしAI検索への対応は、明日の生存に関わる問題です。やるなら、今しかありません。
わたしたちの選択:自社サイト集客という道

アップライト合同会社は、一括査定サイトへの出稿を行っていません。
わたしたちが運営するトーマ不動産マガジンは、自社サイトのコンテンツSEOを通じて、毎月安定して2件以上の査定依頼を獲得しています。反響の絶対数は一括査定サイトに及びません。しかし問い合わせてくるユーザーは、すでにわたしたちのコンテンツを読み、ある程度の信頼を持ってくれた方たちです。
「数を追う」よりも「信頼を積み上げる」。それがわたしたちの選んだ集客の方向性です。
一括査定サイトの活用を検討している方も、自社サイト集客を模索している方も、まずはご自身の追客体制の現状を見つめ直すことが、収益改善の第一歩になるでしょう。