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Gigazine倉庫問題の論点は、たった1点に絞れる

2021年11月補足

この記事は2019年に作成した物です。現在でも役に立つと思われるのは、訴訟の相手方である日新プランニングについて調査した部分です。日新プランニングについて知りたい方は、以下のリンクをクリックすると当該か所にジャンプします。

日新プランニングは控訴審でも勝訴していますので、Googleマップで星1つのひどい評価をつけている人たちは、早めに訂正しておいた方がよいと思います。名誉毀損にあたらないか、やや心配です。

控訴審判決についての解説は、弁護士ドットコムの記事が簡潔でわかりやすいと思います。


2019年の春から、ネット(の一部)をにぎわせてきた、いわゆるGigazine倉庫問題。かなり発信力のあるインターネットマガジンだけに、当初はGigazineの主張だけが流布し、全体像がつかめない状況でした。数ヶ月たち、様々な立場の人がこの問題をまとめていることもあり、ある程度横断的につかめる状況になっていると思います。そこで、不動産屋からみたこの事件の論点を整理しておきたいと思います。

まず、Gigazine倉庫事件とは何か? Gigazineの記事へのリンクを貼っておきます。

参考Gigazine 「ある日突然自分の建物を他人がショベルカーで破壊しても『建造物損壊』にはならないのか?」

なるべく詳細に、かつわかりやすく検討してみます。

登記簿からわかること

登記簿からわかること

構図としては、私たちもよく取り扱う借地権者と土地所有者の確執です。時系列を追った「まとめ」はいくつも公開されているので、ここでは借地法(借地借家法)上の論点に絞ってみてみましょう。以下は登記簿で確認できる事実です。

  • 大阪市西淀川区大和田四丁目某所の土地上に、床面積31.23㎡の木造建物が立っている。
  • 土地、建物の名義人は異なっている。
  • 建物は昭和56年、売買を原因としてK氏に所有権移転登記が行われている。
  • その後同建物は平成17年に、遺贈を原因としてGigazine編集長に所有権移転登記が行われている。
  • 土地登記簿には地上権等は設定されていない。
  • 土地について、平成31年3月28日に、Y氏から日新プランニングに所有権移転登記がなされている(売買を原因とする)。

以上は私が取得した登記簿謄本搭載事項であり、事実と認めてよいと考えられます。ここから先は、一部推測を交えて考察することになります。

旧法借地権

1992(平成4)年に借地借家法ができる以前は、借地法と借家法は別々の法律でした。その旧借地法に基づく借地権を、旧法借地権と呼んでいます。Gigazineの倉庫は、旧法借地権付きの建物と考えられます。

旧法に限らず、借地権は建物の所有を目的とします。建物所有を目的とする限り、借地人がかなり手厚く保護されているわけです。この「建物所有を目的とする」という点は、後でみるように重要な論点のひとつといえます。ごくおおざっぱにいって、建物所有を目的としてきちんと地代を納めている限り、土地を返さざるを得ないことはほとんど考えられません。

この記事の一番最後で、借地権についてまとめています。借地権について知ると、この問題をより深く知ることができます。

何が問題だったか?

日新プランニングは見た感じ怪しい会社ではありませんでした

Gigazineの記事によれば、日新プランニングは建物所有者に無断で、重機により建物を破壊し始めました。建物所有を目的とする限り借地権者が保護される、という点に着目すると、背景には「建物を滅失させることで借地権を消滅させよう」という意図がうかがえます。

この点、日新プランニングは法律で禁止されている自力救済という手段をとり、自力で建物を壊すことで建物を滅失させようと考えた可能性があります。

Gigazineには相手方の主張として「わざとでなく、うっかり壊した場合は建造物損壊にならない」と書かれていますし、Gigazineもその説明を信じている節があります。確かに故意の存在は建造物損壊罪の構成要件のようですが、本件では、いわゆる構成要件的故意の立証が不可能ではないように思えます。さまざまな証拠から「わざとやってるだろ」という主張は可能ではないでしょうか?

日新プランニングの行為は、やや乱暴で、同業者の立場でいえば「もう少しやり方があったはず」とは思います。

第709条【不法行為による損害賠償】  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法に規定されているとおり、不法行為責任は過失による損害賠償責任をも含みますから、少なくとも民法上の不法行為責任が問われる可能性は残ると思います。

借地借家法第10条2項には、「土地上に一定の掲示をすることで、建物が滅失しても2年間は借地権は効力を有する」という内容の規定があります。建物が滅失しても2年間は対抗力が維持される、救済的な措置です。その点について誰も触れていない理由も気になります。

Gigazineに問題はないのか?

Gigazineに問題はないのか?

Gigazineの記事にはもちろん自らに不利なことは書かれていないわけですが、一部ネット記事によれば「10年間地代を払っていなかった」とする記述がみられました。事実かどうか確認できませんでしたが、もし事実だとしたらGigazine側は自らの借地権を主張できない可能性があります。ただし、地代を払っていなかったとしても、地主側が他人の建物を勝手に壊していいわけではありません。

もし地代を10年間払っていなかったという事実があったとすれば、日新プランニングは法的手段によって土地の明け渡しを要求すればよかったはずで、事実、後々になって裁判所に訴えを提起しています。なぜ最初からそうしなかったのか? ちょっと理解に苦しむ点です。

日新プランニングについては記事の一番最後に追記しました。

論点は「地代」に絞られる

論点は「地代」に絞られる

以上から、もし「10年間地代を払っていなかった」という一部ブログ等の記述が正しければ、Gigazineは借地法上の権利を主張できず(もっとも、その判断には裁判等を要すると思われますが)、日新プランニングは、手順が問題だったものの、最終的には建物を収去せしめて土地を返還させることができそうです。

一方、Gigazineが地代をきちんと納めていたとすると、日新プランニングは法律上どこにも正当性のない行為を行ったことになり、その責任は重いといえます。

また、どちらにしても地主側が建物を勝手に壊した不法行為責任は問題になりそうです。

借地権についておさらい

少しややこしい問題ですが、記事の最後で「借地権とはどういうものか?」をおさらいしておきたいと思います。

借地権とは、建物所有を目的とした土地の賃借権(または地上権)のことです。

借地権は平成4年の借地借家法施行前か後かで、旧法借地権か借地借家法の借地権かにわかれます。

存続期間

いずれの場合でも存続期間を定めます。借地借家法であれば最短で30年と決まっています。また、存続期間が経過し満了した場合には更新が保証されています。つまり、建物を所有している借地人の権利が守られているということです。

対抗要件

法律上誰に対しても「これは自分の権利だ」と主張するために必要な対抗要件。これについても借地人有利な定めがあります。

借地上の建物の所有権登記が、対抗要件として認められています(借地借家法の場合は第10条1項)。

Gigazineのケースを見ると、この建物の所有権登記はされていますから、Gigazine側は対抗要件を備えている、ということになります。

立ち退きが認められるケース

借地人が保護されていることは、ここまで見てきたとおりです。では、地主側が「この土地を返してほしい」と主張できるケースはないのかというと、一応あるとされています(簡単ではありません)。

  1. 正当事由が認められる場合
  2. 信頼関係破壊の理論

まずひとつめは、地主に「正当事由」が認められる場合です。地主がどうしてもその土地を使う必要があると認められる場合に、立ち退き料などの支払を含めて総合的に正当事由が判断されます(といっても裁判所にしか判断はできないですが)。

もうひとつは、地代を滞納したなどのケース。これも簡単な話ではなくて「1カ月滞納したから立ち退け」といった主張はできません。契約書に「1カ月でも地代を滞納したら契約を解除する」と書いてあっても、認められることはありません。ではどれくらい滞納したら認められるのか、という点を考えるときに話題に上るのが「信頼関係」。信頼関係が破壊される程度に至った場合、契約の解除が認められるとされています(信頼関係破壊の理論)。

すでに述べたように、「Gigazineは10年間地代を払っていなかった」。という説があります(裏は取れていません)。もしそれが正しければ、信頼関係破壊の理論によると、Gigazineは相当不利ではないかと思います。

【補足】借地権の第三者対抗要件について、「借地権を相続したとしても、建物の相続登記を怠っていると、第三者が土地を取得したときに、借地権を主張できなくなる可能性があります。」とする説明もあります(参考文献『相続のプロが教える 遺言書のつくり方と手続きガイド』井上真之著・アニモ出版)。

まとめ

この問題の論点は?

Gigazineの事例でも、地代を払っていたかいなかったかが、最終的に判断を分けることになると思います。とはいえ、もしGigazineが10年間借地料を払っていなかったとすると、日新プランニングはどうしてこんな乱暴な手段をとったのか? そのあたりは補足的に検討する必要があります。

【付録】日新プランニングについて登記簿からわかること

日新プランニングが入居するビル(向かって右の別館)

「日新プランニング」で検索して、当サイトにたどり着いている方もけっこういるようですので、日新プランニングについても少しまとめておきます。登記簿から読み取れる内容が中心です。

登記簿からわかること

  • 設立は平成5年10月18日
  • 平成5年当時から宅建業(不動産仲介業)を営んでいた可能性が高い
  • 平成30年頃、民泊分野に参入しようとした可能性がある
  • 平成28年に神戸市に支店を出した
  • 令和元年に奈良市に支店を出した

登記簿謄本からは、特に問題点などは指摘できず、普通の不動産業者ではないかと思います。また、国土交通省のネガティブ情報等検索サイトでも、過去に日新プランニングが処分を受けた記録は見当たりませんでした。

登記簿や公開されている情報から、日新プランニングは普通の不動産屋ではないかと考えられます。

なお、国土交通省ネガティブ情報等検索サイトについては、以下の記事で詳細を解説しています。

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