2024年(令和6年)4月1日から、相続登記が法律上の義務になりました。不動産を相続した場合、その事実を知った日から原則3年以内に登記申請をしなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(行政上のペナルティ)の対象となります。過去の相続分も例外ではありません。
この記事では、不動産と相続に関わる手続きの全体像を、義務化された相続登記を中心に解説します。相続が開始したとき、あるいはそれに備えて準備を進めるときに、ブックマークして活用していただけるよう、主な手続きを網羅しています。
まず、相続開始後に必要な手続きを時系列でまとめます。これをチェックリストとして活用してください。
| タイミング | やること(不動産・相続関連) |
|---|---|
| 早めに | □遺言書を探す(公正証書遺言または法務局保管の確認 → 自筆証書遺言なら検認手続き) |
| 早めに | □相続財産を把握する |
| 3年以内(義務) | □相続登記の申請(相続を知り、かつ不動産取得を知った日から3年以内) |
| 3か月以内 | □相続放棄・限定承認の検討 |
| 10か月以内 | □相続税の申告・納付 |
| 1年以内 | □遺留分侵害額請求権の行使(必要な場合) |
不動産とは直接関係しませんが、対応が必要な手続きも以下にまとめます。
| タイミング | やること(その他) |
|---|---|
| 早めに(7〜14日) | □死亡診断書の取得 → 死亡届・火葬許可申請 |
| 早めに | □健康保険・介護保険の資格喪失届、年金受給停止手続き |
| 4か月以内 | □準確定申告(故人に確定申告義務があった場合) |
準確定申告とは、確定申告が必要な人が亡くなった場合に、故人の所得の申告と納税を相続人が代わりに行う手続きです。故人がアパートを経営していた場合などは該当することがありますので、注意してください。相続開始から4か月以内と期間が短い点も要注意です。
以下、各手続きについて詳しく解説します。なお、今回は法律上の聞き慣れない用語も登場しますので、記事の最後に用語解説をまとめました。
遺言と遺産分割協議

まずは遺言書を探す
相続手続きの出発点は、遺言書の有無を確認することです。遺言書があれば、その内容に従って遺産を分けることができ、手続きが大幅に簡略化されます。
遺言書には主に2種類あります。
公正証書遺言は、公証役場で公証人が関与してつくる遺言書です。専門家が内容を確認するため、遺言が無効になる可能性が低いというメリットがあります。家庭裁判所での検認も不要で、すぐに手続きに使えます。
自筆証書遺言は、本人が手書きで作成する遺言書です。通常は、家庭裁判所で「検認」という手続きを経なければ有効に使えません。検認には時間がかかりますので、遺言書は早めに探しておくことをお勧めします。
ただし、2020年7月1日から自筆証書遺言書保管制度が始まりました。法務局で自筆証書遺言を保管してもらっている場合は、検認が不要になります。法務局の窓口で確認してみてください。
複数の遺言書が見つかった場合は、日付の新しいものが有効です。
法定相続分とは?
相続とは、被相続人(亡くなった方)の財産が、相続人に引き継がれることです。では、誰が相続人となり、どのくらいの割合で相続するのでしょうか。この点は民法で定められています。
順位は第1順位から第3順位まであり、先順位の相続人がいる場合、後順位の相続人には相続分がありません。ただし、配偶者は民法第890条で「常に相続人となる」と定められており、順位はありません。
第1順位:直系卑属(子・孫)
被相続人の子どもが第1順位の相続人です。子どもが亡くなっていれば孫、孫も亡くなっていればひ孫へと、相続権が引き継がれます。これを「代襲」といいます。養子も実子と同様に扱われます。
第2順位:直系尊属(親)
第1順位の相続人がいない場合、親が相続人となります。子どもが早くに亡くなったケースなどで発生します。
第3順位:兄弟姉妹
直系卑属も直系尊属もいない場合、兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹が亡くなっている場合はその子(甥・姪)が代襲しますが、それ以上の再代襲はありません。
注意すべき点として、「夫婦ふたりだから、自分が死んだら財産はすべて配偶者にいく」と思っていても、両親が亡くなっていれば兄弟姉妹に相続分が発生することがあります。ただし、兄弟姉妹には後述する「遺留分」はありません。
各相続人の法定相続分は以下のとおりです。
| 相続人の組み合わせ | 配偶者 | その他 |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 全部 | — |
| 配偶者+子 | 1/2 | 1/2を人数で均等割 |
| 配偶者+親 | 2/3 | 1/3を人数で均等割 |
| 配偶者+兄弟姉妹 | 3/4 | 1/4を人数で均等割 |
| 子のみ | — | 全部を均等割 |
| 親のみ | — | 全部を均等割 |
| 兄弟姉妹のみ | — | 全部を均等割 |
なお、配偶者がいない場合は、子・親・兄弟姉妹がそれぞれ全部を相続します。
遺産分割協議とは?
遺言書がない場合、相続人全員で「遺産分割協議」を行い、遺産の分け方を決めます。全員の参加が必須で、一人でも欠けると無効となる可能性があります。相続人の中に未成年者や認知症の方がいる場合は、後見人や特別代理人が参加します。
協議がまとまると「遺産分割協議書」を作成します。この書類がなければ、不動産の相続登記や銀行預金の払い戻しができません(遺言書がある場合を除く)。
協議がまとまらない場合は、法定相続分で分配するか、家庭裁判所での調停手続きに進むことになります。
誰に相談すべきか?
遺産分割協議書の作成や登記手続きは、通常は司法書士に依頼します。戸籍の収集から所有権移転登記まで、一手に引き受けてもらえることが多く、費用面でも弁護士より安いケースが多いです。相続税については、税理士への相談をお勧めします。
何らかの争いが生じている場合は、弁護士への相談が適切です。
遺留分とは?
遺言の内容がどれほど偏ったものであっても、相続人には「遺留分」として最低限の相続財産が保障されています。
遺留分の割合は以下のとおりです。
| 相続人の組み合わせ | 配偶者の遺留分 | その他相続人の遺留分 |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 1/2 | — |
| 配偶者と子 | 1/4 | 1/4を人数で均等割 |
| 配偶者と親 | 1/3 | 1/6を人数で均等割 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 1/2 | なし |
| 子のみ | — | 1/2を人数で均等割 |
| 直系尊属のみ | — | 1/3を人数で均等割 |
| 兄弟姉妹のみ | — | なし |
平成30年(2018年)の民法改正により、遺留分の請求は「遺留分侵害額請求権」として金銭請求権に整理されました。内容証明郵便などで意思表示をし、双方で協議のうえ金銭で受け取ります。話し合いがまとまらない場合は弁護士に相談することになります。
この権利には時効があります。相続開始を「知った」ときから1年以内、または相続開始から10年以内に行使しないと消滅しますので、注意が必要です。
相続放棄と限定承認
相続財産には、借金などのマイナスの財産が含まれることもあります。その場合、以下の3つの方法から選択できます。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 単純承認 | プラス・マイナスすべての財産を相続(3か月何もしないと自動的にこうなる) |
| 限定承認 | プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き受ける |
| 相続放棄 | プラス・マイナスを含め、一切の相続財産を受け取らない |
相続放棄は、家庭裁判所への申述により行います。期限は、自分のために相続があったことを知ったときから3か月です。相続放棄をしても、死亡保険金・死亡退職金・遺族年金は受け取れます。ただし、放棄すると相続権は次順位の相続人に移ります。借金のある親族が亡くなった場合、相続権が回ってくることがあります。念のため確認しておくとよいでしょう。
限定承認は、プラスとマイナスの財産のどちらが多いかわからない場合に有効な方法です。相続人が複数いる場合は、全員が共同して申述する必要があります。
不動産の相続登記【2024年から義務化】

相続登記は義務です
2024年(令和6年)4月1日から、相続登記が法律上の義務になりました(不動産登記法第76条の2)。以前は任意でしたが、現在はそうではありません。
義務の内容は以下のとおりです。
- 期限: 相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内
- 違反した場合: 正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象となります(行政上のペナルティ。前科にはなりません)
- 過去の相続も対象: 2024年3月31日以前に発生した相続も義務化の対象です。この場合の期限は2027年(令和9年)3月31日まで
「すぐに過料になるのか」という点については、まず法務局が催告(申請するよう促す通知)を行い、それでも申請がない場合に初めて裁判所への通知が行われます。催告に応じれば過料は科されません。
正当な理由として認められるケース(一般的な例):
①相続人が極めて多く、戸籍書類の収集に時間を要する場合
②遺言の有効性が争われているなど、不動産の帰属先が確定しない場合
③申請義務を負う相続人自身が重病の場合
④経済的に困窮しており、登記費用を負担できない場合
遺産分割協議が決まらない場合:相続人申告登記
遺産分割協議がまとまらず、3年以内に相続登記の申請ができない場合、2024年4月1日から新たに設けられた「相続人申告登記」という制度を利用できます。
この制度は、法務局の登記官に「自分が相続人である」ことを申し出ることで、相続登記の基本的な申請義務を果たしたとみなすものです。特定の相続人が単独で申し出ることができます(他の相続人の分も含めた代理申出も可)。
ただし、相続人申告登記はあくまでも応急措置です。遺産分割協議が成立したら、成立した日から3年以内に改めて正式な相続登記を申請する必要があります。
相続登記に必要な書類
実際の相続登記に必要な書類は、大きく「登記原因証明情報」と「住所証明情報」に分けられます。具体的には被相続人の出生から死亡まで遡る戸籍謄本、遺産分割協議書などが必要になります。書類の収集は煩雑になるケースが多く、司法書士に依頼するのが一般的です。法務局のウェブサイトでも申請書の様式と記載例が公開されており、シンプルなケースなら自分で申請することも不可能ではありませんが、ミスをすると訂正に手間がかかります。参考(法務局:不動産登記の申請書様式)
登記を先延ばしにするとどうなるか
相続登記の義務化以前から、登記を放置することにはさまざまなデメリットがありました。過料のリスクに加えて、以下のような問題が生じます。
売却・担保設定ができない
故人の名義のままでは売却できませんし、融資を受けるための抵当権設定もできません。売却する際は、まず相続を原因とする所有権移転登記を申請する必要があります。なお、故人の権利証(登記識別情報)は相続登記の申請には不要です。「権利証が見つからない」と焦る方もいますが、なくても手続きは進められます。
借地権を主張できなくなる可能性がある
相続した不動産が借地権付きの建物の場合、長期間登記を行わないでいると、借地権を第三者に対して主張できなくなる可能性があります。
時間がたつほど権利関係が複雑化する
登記を放置したまま世代交代が重なると、相続人が数十人規模に膨れ上がることがあります。そうなると音信不通の相続人が出てきて、登記そのものができなくなる事態に陥ります。筆者の自宅近くにも、こうした事情で何十年も誰も住まないまま放置されている戸建て住宅が実際に存在します。
差し押さえのリスク
相続人の一人が税金を長期間滞納した場合、行政が代位して所有権移転登記を申請し、その持ち分に差押の登記を入れることがあります。筆者が実際に経験したケースでは、別の相続人が税金を肩代わりして差押を解消するという事態になりました。また、資金難の相続人が自分の持ち分だけを第三者に売却することも法律上は可能です。こうなると、見知らぬ第三者が所有権の一部を持つことになり、その後の処分が極めて困難になります。
相続税の申告手続き

相続税については詳細な解説だけで膨大な量になりますので、ここでは不動産と関わりの深い部分を中心に概要をまとめます。
相続税がかかるかどうかを確認する
相続財産とは、金銭に換算できるものすべてが対象です。現金・預貯金、土地・建物、有価証券、家財、ゴルフ会員権、著作権なども含まれます。
まず、基礎控除額の計算から始めます。
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
たとえば夫が亡くなり、相続人が妻と子ども2人(計3名)の場合、基礎控除額は4,800万円です。相続財産の総額がこれを上回る場合に相続税が発生します。
なお、死亡保険金と死亡退職金は、それぞれ「500万円×法定相続人の数」まで非課税となります。
また、「小規模宅地等の特例」など不動産に関係する重要な特例もあります。計算は複雑になりますので、実際に相続が発生した場合は税務署の窓口や税理士への相談をお勧めします。
相続した空き家を売却する場合:3,000万円特別控除
相続した一戸建て住宅(空き家)を売却して譲渡益が出た場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります(租税特別措置法第35条)。空き家の発生を抑制するために設けられた制度で、相続財産を換価分割する予定がある場合は、ぜひ確認しておきたい特例です。
主な適用要件(2024年改正後):
①相続の開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
②被相続人が亡くなるとき、ひとりで居住していた住宅であること(同居人がいた場合は対象外)
③1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された住宅であること
④マンション(区分所有建物)でないこと
⑤売却価格が1億円以下であること
⑥売却時に現行の耐震基準に適合していること。または、売買契約に基づき、売却後翌年2月15日までに買主が耐震改修または取壊しを行う場合も対象(2024年1月1日以降の売却から適用)
⑦相続開始以降、事業・貸付・居住の用に供されていなかったこと
なお、2024年1月1日以降の売却で、相続人が3名以上の場合は、特別控除の上限が1人あたり2,000万円に引き下げられます。
適用期限:2027年(令和9年)12月31日まで
2024年の改正で買主による工事も対象になり、売却しやすくなりました。相続した古い空き家の売却を検討している場合は、税理士にこの特例を踏まえた相談をしておくとよいでしょう。

相続した不動産が負担になる場合

地方の不動産や利用価値の低い土地を相続したとき、維持管理コストや固定資産税の負担ばかりが重くのしかかるケースがあります。こういった場合の選択肢を整理します。
売却を検討する
まず現実的な選択肢として、売却があります。売れ残りリスクが高い物件でも、解体・更地化することで需要が出ることがありますので、地元の不動産会社に査定を依頼してみることをお勧めします。
前述の空き家特別控除の要件を満たす場合は、売却益に対する税負担が大幅に軽減される可能性もあります。
ただし、エリアや物件の状況によっては、更地化するとかえって売れにくくなる場合もありますし、固有のノウハウが必要なケースもあります。以下の記事を参考に「どうすればいいか」という状況の切り分けを行ってください。

相続土地国庫帰属制度(2023年4月27日〜)
活用の見込みもなく、売却もできない土地を相続した場合の選択肢として、2023年4月27日から相続土地国庫帰属制度が始まりました。一定の要件を満たすことで、相続した土地の所有権を国に引き渡せる制度です。
これまでは「すべての財産を相続するか、すべてを相続放棄するか」という二択でした。この制度により、不要な土地だけを手放すという第三の選択肢ができたわけです。
引き取ってもらえない土地(主な例):
①建物が存在する土地
②担保権や使用収益権が設定されている土地
③土壌汚染されている土地
④境界が明らかでない土地
⑤一定規模以上の崖がある土地など
費用:
- 審査手数料:土地1筆あたり1万4,000円(非返還)
- 負担金:承認後に国へ納付。原則として土地1筆あたり20万円(農地・森林は面積に応じて異なる)
審査には半年から1年程度かかる見込みです。また、制度開始前(2023年4月27日以前)に相続した土地でも申請できます。詳細は法務局の窓口、または司法書士・弁護士・行政書士にご相談ください。参考(法務省:相続土地国庫帰属制度)
相続放棄という選択肢
土地だけでなく相続財産全体にマイナスが多い場合は、前述の「相続放棄」も選択肢になります。ただし、相続放棄をすると相続権が次順位の相続人に移ります。関係する親族への影響も考慮したうえで判断してください。
用語解説
被相続人……亡くなった方
相続人……亡くなった方の財産を相続する人
代襲相続……相続人となるべき人が先に亡くなっていた場合、その人の子どもが代わりに相続すること
制限行為能力者……未成年者、成年被後見人(認知症など)、被保佐人および被補助人。法律上行為能力を制限され、一方で保護される立場の人
検認……自筆証書遺言の内容を家庭裁判所が確認する手続き。法務局保管の自筆証書遺言は不要
遺贈……遺言によって財産を第三者に贈ること
包括受遺者……財産を割合的に遺贈された人(例:「財産の1割を遺贈する」と遺言された場合)
法定相続分……民法で定められた相続割合
遺留分侵害額請求権……相続人が最低限相続できる財産(遺留分)が侵害された場合に、金銭で補填を請求できる権利
準確定申告……確定申告が必要な人が亡くなった場合、相続人が代わりに行う故人の所得税申告
相続登記……不動産の名義を故人から相続人に変更する登記手続き
相続人申告登記……遺産分割協議が未成立でも、自分が相続人であることを法務局に申し出ることで、相続登記の義務を果たしたとみなされる制度(2024年4月新設)
相続土地国庫帰属制度……一定の要件を満たした相続した土地を、国に引き渡すことができる制度(2023年4月27日施行)
本記事は2026年3月時点の法令・制度に基づいています。税務・法律に関わる判断については、税理士・司法書士等の専門家にご確認ください。

