シロアリに強い木材、弱い木材はどれか? 結論としては、以下の表の通りです。
シロアリに強い木 | ヒバ、イヌマキ |
中程度の木 | ヒノキ、スギ、カラマツ |
シロアリに弱い木 | アカマツ、クロマツ、ベイツガ、ベイマツ |
一般にいわれるように、建築用の木材としてシロアリに強いのはヒバで、逆に弱いのはベイマツやアカマツなど。うわさ通りと考えて、一応は間違いはありませんが、ヒノキはそこまで強くありません。
また、シロアリの生態や習性を調べていくと、結局は「どんな木材でもシロアリに食べられてしまう」ということがわかります。
外来種のアメリカカンザイシロアリに関する調査では、スギやヒノキは比較的好んで食害され、逆にベイツガは耐性があることがわかりました。意外なことに、ヤマトシロアリとは好みが違っていたのです。
「ヒバやヒノキだから、絶対安心」ということはありません。どんな木材を使っている住宅でも、以下の記事を参照して、最低限の予防をしておきましょう。
また、建物構造別や築年数別のシロアリ危険度は以下の記事で解説しています。
ヒノキが最強! とは限らない

「ウチはヒノキの柱だからシロアリに食われないんだよ!」という人がいます。
ヒノキに含まれるヒノキチオールがシロアリを寄せ付けない、というのは実は俗説で、ヒノキにはあまりヒノキチオールが含まれていません。
むしろヒノキチオールはヒバに多く含まれており、その結果ヒバはかなりシロアリに対して耐性(抗蟻性)があります。

シロアリはどうして木を食べることができるのか?

通常の昆虫や動物は木材の主要成分であるセルロースを分解することができませんが、シロアリは消化吸収することができます。
シロアリはどうして普通の動物が食べられないものを食べることができるのでしょうか?
実はシロアリのお腹の中には特殊な微生物がいて、木材の消化を手伝ってくれています(注1)。これについて詳しくは以下のリンクを参照してみてください。
生まれたばかりのシロアリはまだ体の中に微生物を持っておらず、他のシロアリの肛門に口をつけて、必要な微生物を分けてもらいます。
シロアリは1頭だけでは生きていけず、社会性昆虫として繁栄してきました。その背景には、生きていくために必要な微生物を他のシロアリから受け継がなければならないという事情があったのです。
注1……高等シロアリの中には微生物の助けが必要ないものもいます。2億年の歴史を持つ昆虫だけに、かなり奥が深いです。
シロアリに強い木と弱い木では何が違うのか?

冒頭でも少し解説しましたが、シロアリに強い木材としてあげられるのはヒバやイヌマキが代表例。シタン、チークなどもシロアリに強い性質があります。
このシロアリに対して強い性質を、耐蟻性といいます。もう少し詳しく樹種ごとの耐蟻性を見ていくと、以下の表のようになります。
耐蟻性 | 樹種 |
---|---|
高 | ヒバ、クルイン(アビトン)、シタン、チーク |
中 | ヒノキ、スギ、カラマツ、ブナ、ラワン(メランチ)、カメレレ |
低 | アカマツ、クロマツ、ベイツガ、ベイマツ、ベイスギ、バルサ |
シロアリに強い木は、なぜ強いのか?
シロアリはもともと熱帯や亜熱帯に住む昆虫なので、暖かいところで繁栄してきました。熱帯性で現在も生き残っている樹種は、実はシロアリの食害から生き延びてきた種なのだといわれています。進化の過程で、シロアリに対して抵抗性を持つ物質を生合成する能力を身につけたから、今も生き残っているのです。

耐蟻性をもつ物質の中でも有名なのは、精油成分のヒノキチオール。ヒバの木などから採取することができます。こういった精油成分は、多くの細菌や真菌に対して抗菌作用を持つため、化粧品や日焼け止め、育毛剤など様々な製品に応用されています。もちろん、ヒノキチオールはシロアリの駆除剤にも利用されています。
耐蟻性の高い樹木はシロアリが嫌いな成分を多く含んでいるので、少なくともその木が生きている間は、シロアリに食害されることがありません。しかし木が枯れてしまうと徐々にシロアリが嫌う精油成分が減っていきます。そして、最終的にはシロアリに食べられることになります。
同じ木材でもシロアリの好きな場所・嫌いな場所がある

樹木の中心部分を心材(しんざい)といい、周辺部分を辺材(へんざい)といいます。樹木は、樹皮のすぐ内側にある形成層が細胞分裂をして成長していきますが、そうやってできた細胞はしばらくして死んでしまい木化します。
樹木の細胞が死ぬときに、細胞内に蓄えていたデンプンなどを防腐効果や防虫効果がある成分に変えていきます。これを心材化といいますが、心材化することで耐久性をもつ木材となります。
ヒバなどの耐蟻性をもつ木材でも、辺材部分は防虫に有効な成分を含まず、水分もたっぷり含んでいるので、シロアリは餌として食べることができます。つまりシロアリに強いといわれるヒバ材やイヌマキであっても、本当に強いのは心材部分のみだということになります。
同じ材でも、どの部分かによって、シロアリに食べられやすいかそうでないかが変わってきます。また、木材のコンディションによっても、シロアリが好むかどうかが違ってきます。
廃朽とシロアリの関係。キノコもかなり怖い

湿気の多い場所に置いておくと木材は腐れが生じることがあります。腐れを廃朽と呼びますが、シロアリは廃朽した木材をとくに好みます。
木材にとって廃朽とシロアリの被害はセットでやってくるわけです(とくにヤマトシロアリなどの場合)。
廃朽を生じさせるカビやキノコなどの菌類は、それだけでも木材の強度を大きく低下させてしまいます。おまけに、シロアリが好む環境を作ってしまうため、住宅に大きなダメージを与える結果になります。
例えばキチリメンタケは木材のセルロースを分断することで知られていますが、それだけではなくシロアリが好むフェロモンに類似した物質を出しています。その結果、キチリメンタケがセルロースを分断して木材を弱くさせ、そのうえでシロアリを呼び込むということになるため、住宅にとっては非常に大きなマイナスになります。
そう考えると、湿気のない乾燥した環境を保つ事は非常に大切です。乾燥していれば廃朽を防ぐことができますし、シロアリに強いコンディションを保つことができるからです。
国産と海外産の建築用木材の性質や耐蟻性は?

国産の建築用木材は150種類以上あるといわれていますが、中でもよく利用されるのがスギやヒノキなどの針葉樹です。ただし最近では、材質が似ている輸入材を使用することも増えてきました。
ヒノキはそこまでシロアリに強くない

ヒノキといえばヒノキチオールが含まれておりシロアリに強い……と思ってしまいますが、実はそうでもありません。ヒノキチオールは1936年にタイワンヒノキから発見されたため、ヒノキチオールという名前が付けられました。
国産のヒノキには、ごく微量のヒノキチオールしか含まれていません。とはいえ、高級木材であるヒノキは販売価格が高いので、手間暇かけてしっかり乾燥させる余裕があります。そういった管理のよさで、シロアリが食害しにくく、長持ちする木材となっているのかもしれません。
スギは日本一メジャーな樹種。耐蟻性はヒノキと同程度

現在、日本の木材生産量のうち約4割がスギ。優秀な建材として幅広く利用されていますが、ヒノキに比べると価格が安く、生産過程でコストをかけられないため、品質面でのバラツキは大きめです。
元々の耐蟻性はヒノキと変わらず中程度ですし、構造材としても造作材としても使い勝手がよいため、現在も幅広く利用されています。防腐剤を加圧注入したスギ材は建物の土台などにも利用されます。
新築時の防虫処理については以下の記事で解説していますが、加圧処理された木材であれば相当長期間防蟻効果が続くと考えられます。
SPF材はシロアリにきわめて弱い

SPF材とは、北米産の針葉樹であるスプルース(Spruce)、パイン(Pine)、ファー(Fir)の頭文字を組み合わせた名称で、これらの木材を総称したものです。 どの樹種も成長が早く、材質が柔らかいため加工がしやすく、価格も比較的安価であることから、DIYやツーバイフォー工法(2×4工法)などで広く利用されています。
しかし、SPF材にはシロアリに対する耐性が低いというデメリットがあります。その理由は、SPF材が柔らかく、木材の密度が低いため、シロアリにとって食害しやすい環境だからです。また、SPF材の産地である北欧や北米にはシロアリが生息しておらず、耐蟻性が進化しなかったという事情もあります。ヒノキチオールやタンニンなど、シロアリが嫌う成分が少なく、シロアリにとってはごちそうといえるでしょう。
特に、ホワイトウッド系のSPF材は繊維質が柔らかく、対策を講じないとシロアリに簡単に食べられてしまう可能性があります。
SPF材の家具も要注意!

筆者はかつて住宅メーカーの社長さんに「お客さんには、絶対室内に北欧家具を置かないようにアドバイスして!」といわれたことがあります。
北欧にはシロアリがいないので、家具にホワイトウッドなどを使うことが一般的です。室内にそのような家具類を置いていると、シロアリがそこを足がかりに繁殖してしまうからです。こうなると、せっかく家の土台部分に防蟻処理を施していても、やすやすとシロアリに侵入されていまいます。
写真のようなDIY家具も、多くはホワイトウッドなどのSPF材を使用しますから、同じ事がいえます。
北欧家具はおしゃれで、手ごろな価格のものが多いのですが、シロアリ予防という面ではおすすめできません。
まとめ「ヒバやヒノキはシロアリに強いが予防は必要」
防蟻性の高い成分を含むヒバやヒノキはシロアリに強いといえますが、絶対安心というわけではありません。長年のうちに耐蟻性を持つ精油成分は抜けていきますし、食べる木材がなくなれば、シロアリは多少嫌いな樹種でも食害します。
どんな材であれ、住宅に木材を使っている限り、シロアリの害を絶対に受けないと断言することはできません。
念のためシロアリの無料調査などは受けておいた方がいいですし、予算が許せば防蟻工事も行っておくと安心です。
シロアリ110番|公式サイト
筆者の自宅にシロアリ110番を読んだときのレビュー記事は、以下のリンク先で読めます。
参考文献
吉田剛(2010)『シロアリの生態とその防除方法に関する研究』
藤田和彦(2017)「木材の生物劣化 シロアリ」雑誌『建築士』
今村祐嗣、角田邦夫、吉村剛(2000)『住まいとシロアリ』(青海社)ISBN4-906165-84-2