シロアリは何年生きるのか? 結論からいうとシロアリの女王アリは、自らのクローンを産むことで……
遺伝的には死なない!!
では、王アリが何年生きるのか? 京都大学の松浦健二先生の推論では……
100年生きてもおかしくない!!
驚くほど長生きするシロアリについて語ります。
もし「今シロアリ駆除が必要かわからず不安だ」という場合は、「シロアリ駆除が必要ない家vs必要な家の違いとは? 住宅の種類別に危険度を解説」という記事を読んでみてください。
記事内LINK100年生きるとされるナスティテルメスシロアリの女王アリの写真はここから。
サクッと解説! シロアリの寿命って長いの?
「シロアリも虫なのだから、寿命はせいぜい1~2年」。そう考える人も多いと思いますが、間違いです。
シロアリ、とくに王アリや女王アリの寿命は非常に長く、少なくとも10年単位で生き続けます。
京都大学の実験室で20年飼育されていた記録がありますし、自然環境ではさらに長く生きると考えられています。
そのため、一度シロアリが出たのに放置しておくと、20年以上は家が食べられ続けるということになります。
この記事で紹介していますが、最近の研究では「ヤマトシロアリの女王アリは遺伝的には死なない(不死)」と考えられていますし、王アリの寿命もひょっとしたら100年くらい……という説もあります。
ポイント
シロアリの寿命はとても長いので、放っておいたら死んでしまうわけではありません。見つけたら、必ず駆除する必要があります。
実際に駆除してみた時の様子は、以下の記事でレポートしています。
実際にシロアリ110番の防除工事をお願いしたレポート|関連記事
なお、このジャンルは最近の研究で過去の常識が塗り替えられています。
シロアリの巣は何十年も存続し、その間家は食い荒らされる
シロアリの巣の寿命はざっくり数十年。シロアリの種類によっては80年間巣が存続したと報告されているケースもあります。
イエシロアリを実験室で飼育した事例としては、京都大学木質科学研究所で20年という記録があります。また森林総合研究所でも15年間にわたってイエシロアリの巣を飼育しました。
ポイント
シロアリの巣を放置しておくと何十年にわたって家が食い荒らされていく! 被害は広がり続けることになります。
このあたりまでは昔から分かっていたことですが、最新の研究で驚くべき事実が明らかになっています!
シロアリの繁殖力が強い理由「なぜ増え続ける!?」
下の動画は海外のシロアリなので、日本のシロアリとは桁が違いますが、1日に3万個の卵を産んでいます(動画提供元:ナショナル・ジオグラフィック)。※虫が苦手な人は見ない方がよいです。
動画の女王アリは4インチ(10cm)くらいの大きさらしいですが、さすがに日本のシロアリにはそこまでのパンチ力はありません。しかし日本のシロアリも、相当な繁殖力をもちます。
シロアリの繁殖力が強い理由としては、以下のような点があげられます。
- シロアリは社会性昆虫であり、産卵に専念する女王アリが大量の卵を産み続ける。
- ヤマトシロアリ等の研究では、女王アリは自分自身のクローンを作り、複数の女王アリが産卵することで、よりたくさんの卵を産み続ける。
クローンというのは科学的な用語ではなく、正確には「単為生殖で自分と同じ遺伝子を持つもう1頭の女王アリを産んでいる」ということです。
ポイント
たくさんの職アリが木材を食べ続け、複数の女王アリが卵を産み続けるというシロアリの社会システムが、住宅に大きな被害をもたらします。
王アリと女王アリの寿命は巣の寿命とだいたい同じ
女王アリの寿命はどれくらいでしょうか? さまざまな文献から、シロアリの女王や王は10年以上生きると考えて間違いないようです。オーストラリアに住むナスティテルメスシロアリ(nasutitermes termites/上の写真)の女王アリは100年程度生きるといわれています。
CONEHEAD TERMITE NASUTITERMES CORNIGER|University of Florida
さらにヤマトシロアリの場合、先ほど述べたように、女王は自分自身のクローンを作ることでほとんど半永久的に卵を産み続けることができます。
北海道大学大学院の長谷川英祐氏は「シロアリの女王は遺伝的には死なない」と説明しています。
シロアリの女王もそう。王はとても長生きするけど、女王は卵を産んだダメージで先に死んでしまう。そこで女王は自分の遺伝子をよりたくさん残すために、死ぬ前にクローン(自分)を産み、そのクローンがまた王との子どもを産む。そして死ぬ前にまたクローンを産む。だから女王は遺伝的には死なないんだ。
出典:不老不死の生きものは存在する?「寿命」のふしぎ(Honda Kids)
ただ、この書き方だと女王は死ぬ前に1頭だけ自分のクローンを産んでいるように思えます。しかし、実際にはもっとたくさんのクローンを産んでいます。
では、女王は自分のクローンを何頭産むのか、という調査は京都大学の松浦健二氏が行っています。野外で採取したヤマトシロアリのコロニーの中に、676頭の女王アリが確認されたこともあるそうです。
ポイント
女王アリは1頭だけではなく、数百頭になることがある。1匹1匹は死んでも、全体としては死ぬことがなく巣はどんどん大きくなる。
これに対して王アリは自分自身のクローンのような存在を作ることができません。それでも王アリは何十年単位で生きますから、その間ずっとシロアリのコロニーは活発に活動を続けます。
王アリの寿命については、昆虫生態学界の推しメン松浦健二先生のこの動画が熱いです(虫が苦手な人でもOK)。
王アリには100年生きるものがいる、と松浦氏は推測しています。たった17分でシロアリ研究最前線を味わえるので、ぜひ見てみてください。
シロアリを駆除してもまたすぐシロアリが出る理由は?
シロアリを駆除してもまたすぐにシロアリが出た、という話はよく聞きます。
イエシロアリの場合は、職アリが今食べている場所(食害箇所)とは別の場所に巣を作ります。そのため巣を発見すること自体が難しいといわれています。なので、実は巣を駆除できていなかったから、またシロアリが出ているということです。
ヤマトシロアリの場合は今食べている場所に巣を作っているので、やや見つけやすいといわれてきました。しかし、その場所の木材を食べ尽くすと別の場所に移動していきます。これを「複数箇所営巣性」といいますが、このおかげで「今どこに巣があるのか?」はかなりわかりにくくなっています。
しかもたくさんの女王アリがいてたくさんの巣があることも多く、ヤマトシロアリの巣を見つけるのにも熟練が必要です。
そこで「シロアリをやっつけた!」と思っていても、全滅させられていないケースがよくあります。
ポイント
シロアリを駆除したと思っても、またすぐにシロアリが出てくる理由としては、実はシロアリを全滅させられていなかったことが考えられます。
シロアリの社会と階級
シロアリの巣(コロニー)は、親である女王アリと王アリを中心とした、ひとつの大きな社会を作っています。
その社会の中で、シロアリは特定の仕事をするためのグループ(カースト)に分かれています。
シロアリの巣の中で約95%を占めるのは職アリ(働きアリ)です。兵アリは全体の3~4%くらいです。
その他には将来羽アリになるニンフとよばれる個体が少しと、女王アリと王アリがいます。女王アリは卵を産むことに専念し、食事も職アリから口移しでもらいます。
職アリの寿命は普通の昆虫並み?
女王アリや王アリの寿命が15年から20年と長いのに対して、職アリ(働きアリ)の寿命は普通の昆虫クラスです。シロアリの種によりますが、職アリの寿命は数ヶ月から数年程度と考えられます。
以前は、女王アリは栄養豊富な餌を与えられているので長生きするのに対して、働きアリは餌も粗末で、常に働きづめだから早く死ぬ、と考えられてきました。しかし、それだけが原因ではないという研究もあります。
イリノイ大学の研究で、シロアリの職アリは歳をとると遺伝子発現が変化する……ということが突き止められました。老齢の職アリの染色体だけに、細胞を老化させるトランスポゾン(転位因子)が多く見られたのです。
そこで、働きアリの寿命が短いのは、栄養状況が悪いからだけではなく、一定年齢で細胞を守る仕組みが働かなくなるからではないかと考えられました。女王アリや王アリ、兵アリでは働いている、トランスポゾンの増加を抑える仕組みが、職アリでは働かなくなっているからです。
働きアリは歳とともに顎がすり減るなど、体を酷使していることがわかります。自然界は、年をとると働きが悪くなる職アリを早く死なせることで、シロアリの社会を効率化している可能性があります。
シロアリの女王フェロモンとは何か?
シロアリの階級を分化させているのはフェロモンです。シロアリの巣(コロニー)から女王アリを取り除くと、擬職アリやニンフから、女王アリに変化する個体が出てきます。
女王アリがいる間は、女王アリの出すフェロモンによって、副女王が出てくることが抑制されています。しかし、女王アリが出すフェロモンがなくなると、別の女王アリが現れます。新しく出てきた女王アリを副女王とか二次生殖虫といいます。
シロアリの社会は他にも様々な場面でフェロモンにより制御されています。例えばシロアリの職アリは目が退化して見えないのですが、整列して進むことができます。これには道しるべフェロモンと呼ばれる物質が関係しています。
また、シロアリの職アリは女王アリが産んだ卵を集めて世話をしますが、卵を認識するのにもフェロモンが関連していることがわかっています。目が見えないシロアリは、卵認識フェロモンと、卵の形などで「どれが世話をすべき卵か」を把握しているようです。
本当は怖いヤマトシロアリの話
イエシロアリの女王アリは1日に数100個の卵を産むといわれています。これに対してヤマトシロアリの女王アリが1日に産卵する卵の数は20から30個程度です。
この違いは、イエシロアリとヤマトシロアリの巣の作り方によります。イエシロアリは1カ所に巣を作り、そこから蟻道を伸ばして木材を食害していきます。そのため女王アリはその場を動かなくてもよく、どんどんと大きくなることができます。
そしてイエシロアリの女王アリは体長が4cmくらいまで巨大化し、その結果たくさんの卵を産みます。
一方、ヤマトシロアリは今食べている部分に巣を作り、食べ終わったら別の場所に移動します。そのため女王アリは自力で移動できる大きさにまでしか育つことができません。体長もおおよそ1.5cmくらいです。
この違いによって、ヤマトシロアリとイエシロアリの女王が1日に産卵する数に差がうまれます。
しかし、その代わりにヤマトシロアリの女王アリは自分自身の分身(クローン)を生むことで、産卵する数を飛躍的に増やすという方法を身につけました。ときにはひとつの巣に対して、女王アリが数百頭いる、ということもあります。こうなると、非常に速い速度でシロアリが増えていきます。
この記事の前半で「女王アリは自分自身のクローンを作る」といいましたが、それを少し詳しく考えてみます。
副女王の子は遺伝的に劣化するか?
2000年代以前の資料では、女王アリが副女王(副生殖虫)を産むと、その巣は遺伝的に劣化すると説明されています。
つまり女王と王の遺伝子を持った副女王アリが、王との子を産むと近親交配になり、それが進むとやがては巣が弱っていくと考えられたのです。
ところが、近年それは否定されています。
松浦健二氏よるヤマトシロアリの研究によると、シロアリの女王アリは単為生殖によって副女王(二次生殖虫)を生んでいることがわかりました。
これは従来の昆虫学の説明を覆すものでした。
シロアリの女王アリは職アリや兵アリを産むときには、王アリとの子供を産んでいます。しかし副女王を生む時だけは王アリの遺伝子を持たず、自分の遺伝子のみを持つ卵を、単為生殖で生んでいるということがわかったのです。
これによってシロアリは近親交配を完全に回避することができます。そして、女王アリはたくさんの分身たちによって巣を大きくすることができるようになったのです。
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参考文献
今井祐嗣・角田邦夫・吉村剛(2000)『住まいとシロアリ』海青社 ISBN4-906165-84-2
吉村剛・板倉修司・岩田隆太郎・大村和香子・杉尾幸司・竹松葉子・徳田岳・松浦健二・三浦徹(2012)『シロアリの事典』(青海社) ISBN978-4-86099-260-6
NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(2018)「6月1日:働けなくなった労働アリを殺す恐ろしいシロアリの遺伝的プログラム(米国アカデミー紀要オンライン掲載論文)」
岡山大学大学院環境学研究科(2008)「シロアリの卵に化ける菌 フェロモンでシロアリをだます仕組みを解明」
長谷川英祐「不老不死の生き物は存在する?『寿命』のふしぎ」HondaKids
松本忠夫、三浦徹(2001)「社会性昆虫としてのシロアリ」『化学と生物 Vol.39.No7』