更新情報
筆者が寄稿している「トーマ不動産マガジン」では、自分で土地価格を査定できるEXCELのワークシートを配布しています(フリーソフト)。無料なので、こちらもダウンロードしてみてください。
2021年6月、一般の人が使える不動産価格査定用のフリーソフトがなかったので、当社で独自開発した「アップライト不動産簡易査定」の配布をはじめました。
以下のリンクからダウンロードできます(Windows用)。
アップライト不動産簡易査定|Vector
一般の人は? | 宅地、農地、林地、一戸建てなどに利用してください |
不動産業者は? | これまで査定ソフトで出せなかった農地や林地の査定に使えます |
このように用途を使い分けると、一般消費者の方だけでなく、プロの不動産業者さんにも使ってもらえると思います。ソフトの使用方法について、詳しくは以下のページで解説しています。
参考ダウンロード……ソフトウエアと各種ひな形ダウンロード
ただし、マンションの査定には対応していません。マンションはネット上で、比較的精度の高い相場が公表されているからです。
参考マンションナビ……マンションならここを利用
マンションについてすぐに自己査定したい人は、「この査定ソフトで出せないマンションの価格はマンションナビで」にジャンプしてください。
開発環境がWindows11に対応していないため、更新が滞っています。FileMakerをお持ちの方は「日本中のあらゆる土地の価格を、ざっくり査定できるファイルを公開」を参照してください。
「アップライト不動産簡易査定」はどんなソフト?
これまで一般消費者向けの不動産価格査定ソフトが存在しなかったのは、プロの不動産業者でないとレインズ(指定流通機構)の「取引事例データ」にアクセスできないからです。
「価格査定には過去の取引データが必要なのに、一般消費者はデータを持っていない」 という点が問題でした。
そこで、当社では国土交通省の土地総合情報システムに着目しました。
上記サイトでは2005年7月以降の膨大な取引事例が閲覧できます。そのうち2017年第1四半期から2020年第4四半期まで約120万件のデータを取得し、それをあらかじめソフトウエアに内蔵することで、一般消費者でも価格査定を行えるようにしたのが、「アップライト不動産簡易査定」です。
このソフトは誰でも無料で使用することができます。ただし、リンクウエアとして配布しており「役に立つ」と思われた場合は、当サイトへのリンクをお願いしています(詳しくはソフトウエアの圧縮ファイル内にある、マニュアルの末尾に記載しています)。
国土交通省土地総合情報システムのデータは商用利用を含めた再配布(複製、公衆放送、翻案など)が自由に認められています。そこで、「アップライト不動産簡易査定」を使った査定結果を第三者に配布することも、著作権上問題ありません。
「アップライト不動産簡易査定」はフリーソフトとしては(おそらく)唯一の不動産(土地)価格査定ソフトです。
この査定ソフトは不動産業者の査定書を検証するのに役立ちます
このソフトウエアは「高すぎるウソ査定書にダマされないようにしてほしい」という思いで公開しています。
実際の相場より高すぎるウソ査定書が流行している背景は、下記の記事で詳しく解説しました。
参考不動産の査定方法。「もっと高い査定額が欲しい」人がハマるワナってなに?
簡単にまとめると、イエイ、イエウール、リビンマッチなどネットの不動産査定サイトが増えすぎたため、不動産屋の過当競争が起きていることが原因です。
不動産の一括査定サイトを利用すると、一般消費者が入力した情報は、6社(最大9社)の不動産業者に送信されます。不動産業者は、その情報におおよそ15,000円の料金を支払います。
当然ですが、不動産業者間で競争が起きます。もし1社しか仲介を取れない専任媒介契約だとしたら、1/6の狭き門をくぐり抜けて競争に勝たないと、15,000円がムダになるからです。
そのウソ査定書にダマされないためには、たとえ概算であったとしても、自分自身で不動産の価格を把握しておく必要があります。
そこで、イエイやイエウール、リビンマッチなどの不動産査定サイトを利用するとき、必ず前もって、物件価格を自己査定しておくことをおすすめします。
この査定ソフトを使ううえでの注意点
このソフトには2つの誤差が考えられます。その点を知って、上手に利用してください。
- レインズデータでなく、国土交通省が独自にヒアリングしたデータ
- 厳密な取引事例比較法ではなく、補正しない相場を表示している
レインズデータと、この査定ソフトのデータの違い
「レインズ(REINS)」は、国土交通大臣から指定された不動産流通機構が運営している、不動産情報システムです。「Real Estate Information Network System(不動産流通標準情報システム)」の頭文字を取ってレインズと呼んでいます。
全国の不動産業者のほとんどが加入しており、専任媒介や専属専任媒介で仲介依頼を受けた場合、情報を登録する義務があります。そこで、膨大な量の取引データが蓄積されています。
ただし、レインズは不動産業者(年会費を払っています)しか使うことができません。そこで、「アップライト不動産簡易査定」では国土交通省自身が蓄積しているデータを利用することにしました。
国土交通省の土地総合情報システムで検索できるデータは、不動産を売買したときに必ず送られてくるアンケートを集計したものです。
レインズデータとは異なりますが、実際に不動産を取引した事例、という点に変わりはありません。また、膨大な量のデータが蓄積されているので、査定価格の信憑性という点もある程度担保されていると考えています。
厳密な取引事例比較法でない、とはどういう意味?
一般の取引事例比較法も、「アップライト不動産簡易査定」も、過去にあった取引を元に査定物件の現在価格を求める点では同じです。
ただ、本来の取引事例比較法では、不動産それぞれの違いを考慮して、事情補正というものを行います。また、過去の取引と現在で相場が変わっていることもあるため、時点修正という作業も行います。
図のような、まったく同じ面積の架空の土地を査定ソフトに入力すると、1割くらい査定額が違ってきます。
それは個々の不動産の、個性の違いを補正しているからです。
こういった事情補正や時点修正を行っていないため「アップライト不動産簡易査定」の査定額は、概算査定ということができます。
では、何に気をつけてこの査定ソフトの査定結果を見ればいい?
アマチュアの方はまず、「取引事例の見方や選び方はけっこう難しい」という点を意識しておいてください。
本来は、すべての取引事例の中から「高くもなく安くもなく相場のどまんなか」という取引事例を1つ選び、その事例と査定地とを比較して査定額を出します。
このソフトでは、検索できたすべての事例の平均値=査定額、としています。
そのため事例の選び方は単純で、細かい調整はできません
事情補正や時点補正をしたら1割くらいの誤差は普通にでそうだな、という点も考慮してください。
また、国土交通省の「土地総合情報システム」には、仲介業者が仲介しなかった取引も含まれています。たとえば、裁判所の競売や、親戚間の取引なども含まれているのですが、これらはイレギュラーな取引であり、相場とは違う価格だった可能性があります。
この問題は「特殊事情除外」にチェックを入れると、ある程度回避することができます。
この査定ソフトで出せないマンションの価格はマンションナビで
このソフトでは、マンションの価格は査定できません。国土交通省土地総合情報システムのデータは、マンション査定に向いていないからです。
また、マンション価格については、ネットで有益な情報が提供されていますので、あえて機能を盛り込む必要はないと考えています。
参考マンションナビ……マンション価格がわかるサイト
上記サイトの上部にある検索窓に、知りたいマンションの名前を入力してください。
たとえば大阪府大阪市鶴見区の「エンゼルハイム鶴見」を検索すると、一発で以下のようなデータが表示されます。
レインズと比較しても、かなり正確なことがわかります。
マンションレビュー | 2250万円~2450万円 |
レインズの事例 | 1660万円~2600万円 |
と、レインズデータよりピンポイントに表示しています(レインズの1660万円の物件は66㎡の狭いタイプ)。マンションナビに登録すると、専有面積を変化させて相場を見たり、実際の売出し事例を閲覧することもできます。
その他にもある一般消費者が使うべき「価格査定」の情報源
不動産の価格はわかりにくいので、できれば複数の情報にあたって「相場の幅」を知っておくことをおすすめします。
誰でも利用できる情報としては、路線価がお手軽でわかりやすいでしょう。
路線価に加えて、地価公示・地価調査も閲覧できるサイトもあります。こちらは地図がわかりやすく、初めての人でも直感的に利用できます。
参考全国地価マップ(一般財団法人資産評価システム研究センター)
この図は横浜市栄区の大船駅周辺ですが、地図上にある□と△が、それぞれ地価公示と地価調査の基準値を表します。クリックすると所在地、㎡単価、面積、インフラ、法令上の制限、最寄り駅などのくわしい情報が表示されます。
こういった情報源を駆使して「自分の物件はこれくらいの価格だな」ということを把握するのが第一のステップです。
そして、「本気で不動産を売却しよう」と思ったら、次のステップに進んでください。
本気で不動産の売却をするなら、おすすめの査定サイトは?
2021年に入って、当サイトでさまざまな不動産一括査定サイトを実際に利用してみました。会社保有のマンションや、一戸建て物件を実際に売り出してみて、以下の結論を得ました。
- 登録不動産業者数が多いサイトが良いとは限らなかった
- 農地なら農地、マンションならマンションに強いサイトがある
- 都道府県、市町村によって強いサイト、弱いサイトがあるようだ
詳しくは、現在評価レビューをまとめているところですが、ざっくりと結論をまとめると以下のようになります。
どんなに規模の大きい査定サイトもオールマイティではない
たとえばイエウールという一括査定サイトは登録社数が1700社程度あるそうです。それに対して、リガイドというサイトは800社程度。でも、実際に見積り依頼をしてみると、イエウールがすぐれているとは限りません。
大阪府阪南市ではリガイドが圧勝の結果に……
この写真は、大阪府阪南市貝掛にある古いマンション。当社で保有しており実際に売却活動をしてみました。すると、対応している不動産業者数は以下の結果になりました。
査定サイト | 対応可能業者数 |
イエウール | 1社 |
リガイド | 3社 |
このようにメジャーなサイトだから常にたくさんの業者に査定してもらえる、ということはなく、そのエリアに強いか弱いかは、査定情報を入力してみないとわかりません。
どの一括査定サイトも「査定を依頼する」というボタンを押す直前、そのエリアに対応している不動産業者を表示します。この画面を見てはじめて、何社に査定してもらえるかがわかるのです。
ここでは、比較的規模の大きい一括査定サイトを一覧表にしてみました。査定依頼をするときはどれか1つのサイトを試してみて、査定対応してくれる業者があまりに少ない場合は、もう1つ別の査定サイトを使ってみる……という柔軟な対応がおすすめです。
サイト名 | 登録業者数 | 備考 |
---|---|---|
イエイ | 1700社以上 | |
HOME4U | 不明 | 900社と記載する第三者サイトあり |
イエウール | 1700社以上 | |
リビンマッチ | 2600事業所 | 1400社以上と記載する第三者サイトあり |
すまいValue | 6社 | 対応不動産業者に偏りあり |
マンションナビ | 1800社 | 2500店舗とも記載されている |
リガイド | 800社 | |
athome | 2093社 | |
SUUMO | 約2000店舗 | |
LIFULL HOME'S | 3078社 |
マンション専門の査定サイトは効率がいい!
もうひとつ、実際に保有マンションを売り出してみてわかったのは「マンション専門の査定サイトは対応エリアが広い!」ということです。
多少郊外であっても、対応してくれる不動産業者が見つかりやすい傾向がありました。
- マンション専門業者は広い範囲をカバーしていることが多い
- マンションの仲介は定型業務で難しくないため、遠くの物件でも手を出しやすい
といった背景があると推測しています。
そのため、マンション専門の一括査定サイトなら、少々立地が悪くても多くの業者に査定依頼をかけることができます。
参考マンションナビ……マンションの価格査定はここから
マンション売却時の価格査定は、ここをメインに利用してみて、対応できる不動産業者数が少なすぎる場合は別のサイトを利用してください。
実際に査定サイトを利用したレビュー記事を作成してみて、最低3社、できれば4社以上に査定依頼をしたいと考えています。
実際に査定サイトを利用するとどういう流れになるのか、以下の記事で解説しています。
-
イエイで実際にマンションを売ってみた!無料査定は役に立ったのか?
イエイが無料で利用できる背景には、不動産屋が高いお金を払っているという事情があります。そのことが分かると、いろいろな注意 ...
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プロの不動産業者が使う査定ソフトを解説。ここが違います
プロの不動産業者は、有料の価格査定ソフトを使用しています。価格はピンキリですが、一番安い(年間3,300円)の「価格査定マニュアル」でも十分使えます。
もっとも普及している「価格査定マニュアル」
価格査定マニュアルは公益財団法人不動産流通推進センターが販売する、オンラインの価格査定ソフトです。年間使用料は税込み3,300円と格安ですが、機能的には十分。そのため、多くの不動産会社が利用しています。
ただし価格が安い分、レインズから自分で取引事例を選び、自分で入力する必要があります。取引事例の選び方ひとつで査定の精度が変わってしまうので、経験が浅い担当者が査定すると不安が残ります。
上記のサイトで使い方の動画を見ることができるので「こうやって査定しているのかな」という感じはつかめると思います。
東京カンテイの価格査定システム
東京カンテイは日本最大級の不動産データベースをもつ調査会社で、業界ではものすごく有名で、信頼されている会社です。そんな東京カンテイの不動産査定システムも、実務でよく使われています。価格は非公開ですがそこそこ高めです。
その代わり査定に必要なデータは最初から搭載されていて、土地勘がないエリアでも査定することができます。
東京カンテイのシステムだと信頼感がある印象なので、最近よく見かけるようになりました。
東京カンテイでは、マンションに関する基本的な知識&情報を学び、納得のいくマンション選びをするための「マンションマエストロ検定」も実施しています。
プロでも完全な査定書が作れるわけではありません
結論として、不動産業者だから間違いのない査定書が作れるのかというと、そうでもありません。上記のようなイラスト入りの広告を見たことがあると思いますが、それが何よりの証拠です。
不動産屋の査定額もそこまで正確ではないことを前提に、自己査定した価格や路線価などから計算した価格を比較してみてください。
不動産売却成功のためには、たくさんのデータを見ておき、そこから相場観をつかんでいくことも大切です。