不動産の仲介を依頼する契約のことを、専門用語で媒介契約といいます。この媒介契約には専属専任媒介契約と専任媒介契約と一般媒介契約の3種類の類型があります(注1)。
専属専任 | 専任媒介 | 一般媒介 | |
---|---|---|---|
複数社へ依頼 | × | × | 〇 |
有効期間 | 3か月 | 3か月 | 決まりはない |
レインズへ登録 | 義務あり | 義務あり | 任意 |
業務処理状況の報告 | 義務あり | 義務あり | 任意 |
統計によると60%以上の人が専属専任媒介と専任媒介を選択していますが、それはおすすめできない不利な契約形態です。
専属専任媒介・専任媒介では、今も問題になっている不動産の「囲い込み行為」がかんたんに行えますし、消費者に不都合な情報を隠してしまうこともできます。
不動産売却で失敗しがちなポイントは
- ウソの高額査定を信じて売り出しをしてしまい、売却活動が迷走する
- 高く売れる方法や早く売れる方法があるのに教えてもらえない
……といった点があげられます。
一般媒介であれば複数の不動産業者に売り出しを任せられるので、常にセカンドオピニオンを聞きながら売却活動を進めることができます。また「囲い込み行為」や情報の隠蔽といった、不誠実な対応がしにくくなります。
この記事では
- なぜ一般媒介がいいのかを解説し、専任媒介を推す営業トークを全て論破
- 一般媒介のメリットを生かす方法を考える
という、2つのトピックを中心に解説していきます。
注1……その他に代理という類型もありますが、一般的ではないのでここでは割愛しています。
不動産売却で失敗する原因は「不動産屋対策」の不足
私は約10年間不動産仲介会社を経営してきました。その中で、イヤでも他社の不誠実な顧客対応、違法スレスレの行為を目にしてきました。
以下の記事でも解説していますが、不動産屋は「消費者が知らない」ということを利用して不当な利益を上げようとする傾向があります。
国土交通省が作った悪徳不動産業社リストと悪質業者を見抜く方法|関連記事
もちろんこういった悪質な業者は一部に限られますが、万が一にでも悪質業者に当たってしまった場合、不動産という高額商品を扱う以上、被害額・損害額も相当なものになります。
そこで不動産の売買においては、他のどのような取引よりも細心の注意が必要です。
不動産売却で失敗する理由の大半は不動産屋対策の不足にあります。そこで、いい不動産屋を見つけて、効果的にその力を利用する方法を考えていきましょう。
零細業者に依頼すると怖いのは「安く売り飛ばされる」こと
いまだに、最低限のIT化さえしていない零細中小不動産業者が全国に点在しています。私が見てきた事例では、こういった零細業者でしぶとく生き残っているところほど、一つ一つの物件に固執して、顧客の利益よりも「その物件からいかに自社の利益を上げるか」を優先する傾向がありました。
例えばおじいちゃんが一人だけで運営している零細不動産業者が、おばあちゃんのお客さんを口車に乗せて格安で物件を買い叩く、売り飛ばすといったことは実際に目にしてきました。
コンプライアンス意識のない零細不動産業者の場合、何をするのかわからない怖さがあります。顧客が無知と見れば、安くてもいいから売り飛ばしてしまう業者もいるため、ここは最大限の注意が必要です。
大手仲介業者で怖いのは「囲い込み行為」など不誠実な対応
一方で大手不動産仲介業者は囲い込み行為をしやすいということが報道されています。
ダイヤモンド不動産研究所「大手不動産仲介は「囲い込み」が蔓延!?」|参考リンク
老舗出版社のダイヤモンド社が報道をして、不動産業界に激震を走らせた記事です。
上記の記事はデータから大手仲介業者ほど囲い込み行為をしやすいということを明らかにし、大手だからクリーンだとか、大手だから安心できるという考え方に警鐘を鳴らしました。
もちろん大手不動産業者には営業マンがたくさんいるので良心的な人もいれば、囲い込み行為を辞さないダーティな人もいるでしょう。
いずれにせよ、万が一にでも囲い込み行為にあってしまうとダメージが大きく、ぜひとも避けたいところです。
不動産の囲い込み行為に関しては以下の記事で詳しく解説しています。
不動産の囲い込み行為と対策|関連記事
デメリットを打ち消し「セカンドオピニオン」を聞く体制
そこで専属専任媒介や専任媒介ではなく、一般媒介契約とすることで、複数の会社に仲介を依頼し「セカンドオピニオンを聞く態勢をつくる」ことをお勧めします。
そもそも一般媒介契約であれば原理的に囲い込み行為ができません。
そこで囲い込み行為を狙いたい業者は一般媒介契約を極端に嫌います。中には専任媒介でなければ引き受けないという不動産仲介業者もありますが、そういった会社にはそもそも近づかないのが正解です。
一般媒介のメリットをいかす仲介契約の方法
しかし一般媒介契約で複数社と契約できるからといって、5社や10社と媒介契約を結ぶのはお勧めしません。
中には一般媒介契約で「複数の不動産仲介業者を競わせることで、より高く売れる」といった説明をする人もいますが、仲介業者の立場で考えるとどこかピント外れな論点です。
不動産仲介業は成功報酬なので、成約しなければ利益ゼロです。
多数の業者を競わせると「成功報酬でこんなめんどくさいことをするのはバカらしい」「多数の業者が競っているから自社で成約させるのは難しい。手を抜いておこう」という方向に向かいがちです。
しかし、一般媒介契約であってもライバルが1~2社しかいない状況であれば、自社で成約する可能性が高いため、専任媒介と変わらずにがんばって営業することができます。
そこで多数の不動産業者を競わせるために一般媒介契約を選ぶのではなく、不正行為防止のために一般媒介契約を活用してください。
それよりもここまで説明してきた
- セカンドオピニオンを聞ける体制をつくる
- 囲い込み行為を避けてクリーンな営業活動を実現する
といった点を重視すると、不動産業者としても良心的に営業するしかありませんし、専任媒介契約と変わらない意識で営業に力を入れることができます。
一般媒介契約の結論!
結論として不動産の売却をする時は一般媒介契約を選びましょう。その上で、情報量豊富な大手仲介業者と、地域の事情に詳しい地域密着型の地場業者の2社を組み合わせるというのがおすすめです。
長所 | |
---|---|
大手業者 | 情報量と瞬発力 |
地場業者 | 粘り強い営業 |
もしよさそうな不動産業者がもう1社あるようなら最大で3社の業者を活用してもいいですし、2社でも問題ありません。
とにかく得意ジャンルが異なる大手業者と地場業者の2つを、うまく組み合わせることができればOKです。
一般媒介契約であってもちゃんとした業者であればツキイチ業務報告などは行なってくれます。
業務報告が一切ない業者の場合はどこかで一度線を引いて、媒介契約を解除し、別の業者と入れ替える対策も必要になります。
一般媒介契約で媒介をお願いする業者についてはどうしても不動産一括査定サイトを利用することになると思います。しかし一括査定サイトに関しても裏事情がありますので、以下の記事などを参照して状況を把握しておくと役立ちます。
デメリットから判断する不動産一括査定|関連記事
「専任媒介がいい」と推してくる業者を論破する
それでも「専任媒介契約がいい」とぐいぐい押してくる営業マンもいると思います。そういった営業マンがいつも使う営業トークはだいたい決まっています。
専任媒介契約なら「レインズに登録され報告義務がある」のウソ
専任媒介契約が欲しい仲介業者が口を揃えて言うセリフは「専任媒介契約にすればレインズに登録され2週間に1度以上の報告義務がある」というものです(注2)。
しかしそれにはウソが含まれています。
一般媒介契約であってもレインズには登録可能ですし、そもそもレインズは実質無料で登録できるものですから、登録をしない理由がほとんどありません。
そこで、通常は一般媒介であってもレインズに登録します。
また確かに専属専任媒介・専任媒介では、宅地建物取引業法により業務状況を報告する義務が課せられています。しかしその実態を見ると、法律に定められた頻度で業務状況の報告がなされていないことが分かります。
上のグラフは公益財団法人日本住宅総合センターによる調査データに基づいていますが、実際には法律で定められた業務処理状況報告書を送ってこない業者がいることが確認できます(注3)。
このように専任媒介が欲しい仲介業者がよく口にする営業トークを以下の記事で全て論破していますので、仲介契約を結ぶ前に一度目を通してみてはいかがでしょうか。
注2……レインズとは国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営するネットワークシステムで、不動産取引のインフラとして整備されています。法律上、専任媒介の物件はレインズへの登録が義務づけられています。
注3……2015年3月18日~19日にかけて、2500人を対象としたインターネット調査を行い集計したもの。
不動産一括査定サイトで良心的な経営をしているのは?
100%よい面ばかりではないとはいえ、今の状況で、効率よく複数の仲介業者とコンタクトをとるなら不動産一括査定サイトを使うことになります。
不動産一括査定サイトの選び方に関してはウラ事情があり、いくつかの記事で解説をしています。
自社保有マンションを実際に売って一括査定サイトの実力を判定|関連記事
上記記事でも、不動産業者として約10年間不動産屋の立場で一括査定サイトを利用してきた経験から、比較的良心経営をしているサイトとしてRe-Guide(リガイド)という一括査定サイトをあげています。運営会社がガツガツしたもうけけ主義を感じさせず、良識を持って運営していると感じます。
派手な宣伝をしていないのでそこまで知られていませんが、全国の7市町村で実際に対応可能な業者を調査してみたところ、リガイドが最も優秀な成績を収めました。
RE-Guide(リガイド)|公式サイト
不動産売却では、こういった査定サイトの裏側も知った上でうまく利用し、一般媒介契約で最高の効果を上げることをおすすめします。