「三井のリハウス」は、三井不動産リアルティの「ブランド」で「住み替えする」という意味があります。1980年代、宮沢りえを起用したCMで「リハウス=住み替え」を強く印象づけました。
三井はなぜ、このブランドを作る必要があったのでしょうか?
この記事では資料をもとにその背景を解説し、今再び宮沢りえさんを起用するきっかけとなった「高齢期の住み替えの促進」についても触れています。
三井のリハウス|公式サイト
上記の公式サイトで「正確な価格査定」を訴求していることからわかるとおり、リハウスは不動産流通の適正化をひとつのテーマとしてきました。
リハウスとはなにか?
「三井のリハウス」は、1981年10月に三井不動産販売(当時の社名)が社運を賭けたCI(コーポレートアイデンティティ)の一環として打ち出したブランド名です。
1987年には、宮沢りえさんが初代リハウスガールとしてCMに登場しました。彼女はこれをきっかけにトップアイドルへの階段を駆け上がります。
34年ぶりに宮沢りえがリハウスのCMに出演
2021年6月、34年ぶりに宮沢りえさんがリハウスのCMに起用されました。不動産業者の目から見ると、このCMには2つの意味が込められています。
- 三井が34年間業界トップを維持してきたこと(歴史)
- 50代・60代をターゲットにした住み替え市場を開拓(新戦略)
①の「34年間業界トップ」というのは、三井のリハウスブランドが継続して結果を出しているというシンプルなメッセージです。
②の「50代・60代ターゲット」については補足が必要かもしれません。
リハウスはリフォームとはまったく違う意味
リハウスというブランド名は「リフォーム」と似ていますが、意味はまったく違います。
リハウスとは「住み替えする」という意味で、特に持ち家を売却して新しい家に住み替えることを指します。
しかしなぜ今、三井不動産リアルティは新たなキャンペーンを展開して「リハウス」を推進しているのでしょうか? それにも理由があります。
高齢期の住み替えが円滑に進まない現状に対策
子育てが終わった夫婦2人世帯には、これまでの4LDK2階建て住宅などは広すぎて、手入れも大変です。
また、段差や水回りの使いにくさも、高齢期には問題になります。
そこで、「子育てが終わったら、ちょうどいい広さの平屋やマンションに引っ越す」というライフスタイルが理想ですが……。
年齢階級別5年移動率
実際には、高齢期を目前にしたプレシニア期に住み替えをする人はほとんどいません。広すぎる不便な家に、ガマンして住み続けるのが今の高齢者のライフスタイルとなっています。
そこで、三井不動産リアルティでは「シニアデザイン室」を設けるなど、高齢期の住み替えサポートに力を入れるようになりました。
老後を見すえたプレシニア期の住み替えについては「フドマガ」でも取材を続けています。
「老後の理想の住まい」。新しいマンションを作った会社に聞きました|関連記事
もちろんビジネスチャンスととらえている面もあると思いますが、三井不動産リアルティがシニアの住み替えサポートに力を入れるはじめた背景には、そのような社会的要請がありました。
定年を機に住み替えを考えている場合、この点に力を入れている三井のリハウスに相談する意義は大きいと思います。
三井のリハウス|公式サイト
「今の家がいくらで売れるのか?」を前提に、できれば体力のある60代のうちに住み替えを考えておきたいところです。
かつて中古不動産仲介は「暗黒大陸」と呼ばれる無秩序な業界だった
ではなぜ三井不動産販売は、1980年代に「三井のリハウス」というブランドで、不動産流通の流れを変えようとしたのでしょうか?
実はその背景には、中古不動産市場がマスコミに「暗黒大陸」と書かれるほど不透明だったことがありました。1970年代以前「中古不動産流通は中小業者の聖域」と扱われており、大手不在の業界には、統一した査定基準さえなかったのです。
そんな中で、大手仲介業者として業界に参入するには、どうしても不動産流通の近代化を進める必要がありました。
今でこそあたりまえになった重要事項説明書のフォーマット化や、不動産流通機構(レインズ)の原型ともいえる仕組みを作ったのは、三井不動産販売でした。
それから40年以上「三井のリハウス」ブランドは続いており、最近、宮沢りえさんが34年ぶりにCMに登場したことで話題となっています。
1980年代と現在とでは、不動産流通の透明性に大きな差が生まれています。
「三井のリハウス」で家を売る時のポイント
三井のリハウスを利用するとしたら、やはり都市部の物件を効率よく売却する場合に強みを発揮します。特に、今の家を売却して住み替えるという場合はリハウスの特性を生かすことができるので、かなりおすすめできるでしょう。
以下、詳しく見ていきます。
リハウスの強み・弱点と大手仲介業者の傾向
大手仲介業者と駅前の小さな不動産会社では、それぞれ得意・不得意な物件が違っています。
得意 | 不得意 | |
---|---|---|
大手仲介業者 | 都市部の一般的な物件 | 地方の物件・難あり物件 |
駅前業者 | 規模を問わず地元の物件 | しっかり広告して迅速に売るのは苦手 |
大手仲介業者全体にいえる傾向として、権利関係に問題があるなど面倒な物件にはやや弱い傾向があります(営業マンが忙しく時間がないため)。その反面、都市部の良物件などは迅速に売却する力を持っています。
マンションや特に問題のない一戸建て物件であれば、大手仲介業者を中心に売却プランを考えるといいでしょう。
とりわけ、三井のリハウスが得意とするのは、後で説明するように「正確な査定」です。査定額(売出し価格)と実際の売却額の差を「価格乖離率」といいますが、三井はこの価格乖離率がきわめて低く、査定業務において非常に優秀だといえます。
そこで、大手仲介業者の中でも特に三井のリハウスが得意といえるのは……
- 都市部を中心に正常な物件の売却に力を発揮する
- 正確な査定を生かして無駄のない売却活動をする
- コンプライアンスに強く契約業務を安心して任せられる
といった点があげられるでしょう。
三井のリハウスで売却すべき物件、避けるべき物件
大手仲介業者、なかでも三井のリハウスにどんな物件を任せるべきかははっきりとしています。
- 地方中核都市を含む都市部の一戸建て
- マンション全般
- 住み替えにともなう手持ち物件売却
①と②は大手仲介業者共通ともいえますが、良物件をしっかりと売却して欲しい時は三井のリハウスが有利です。駅前業者にはない、強力な宣伝広告能力を持っていますから、早めに成約できる可能性が高いといえます。
③については、特に三井のリハウスが有利と考える点です。
住み替えの場合は手持ち物件をスムーズに売却する必要があります。住み替え先の物件が見つかっても、手持ち物件が売れてくれないと困るからです。
その点、正確な査定と強力な宣伝広告を併せ持つ三井のリハウスであれば、住み替え時の安心感が高いのが理由です。
三井のリハウス|公式サイト
正常な物件、とくに住み替え時の持ち家売却では、正確な査定を前提に「確実に」「早く」売り切るのが鉄則です。
リハウスの弱点は「地方に弱い」こと
リハウスに限らず、大手仲介業者の弱点がいくつかあります。
- 田舎の物件に対応できない可能性あり
- 問題があって売却しにくい物件には弱い
たとえば栃木県宇都宮市在住の知人が不動産の査定依頼をした時、見事に大手仲介業者は対応していませんでした。人口52万人の県庁所在地で、中核市に指定されている宇都宮でも、リハウスで対応できないということです。
ここから「大手は地方都市に弱い」ということができます。
また、土地境界に深刻な紛争があったり、権利関係が複雑で解決に時間がかかるような物件もまた、大手が苦手とするところです。
大手仲介業者の営業マンは担当業務が多く多忙です。あまり問題がなく売りやすい物件をより効率的に売却するのは得意ですが、問題のある物件はどうしても後回しになりがちです。
そこで、三井のリハウスと相見積をとるとしたら、地方に強い地場業者を集めた査定サイトがいいでしょう。筆者が長年不動産業者の立場で利用してきた中で、一括査定サイトのRE-Guideは「地味ながら、地方に強い」「難物件に強い」と感じます。
RE-Guide(リガイド)|公式サイト
また、農地や山林などであればリビンマッチが強いと感じます。
リビンマッチ|公式サイト
ただし、農地などの手ごわい物件は、エリアにより対応業者があったりなかったりします。一括査定サイトをいくつか試してみて、複数業者に相見積を取る必要があるかもしれません。
「三井のリハウス」が掲げる「正しい査定額」とは?
この記事の冒頭でも述べたように、もともと「暗黒大陸」と呼ばれていた不動産流通業界に、正確な価格査定や業界統一の契約書フォーマットを導入したのが、三井不動産リアルティ(旧三井不動産販売)でした。
今もその姿勢は変わらず、地味ではあるのですが「正確な価格査定」を打ち出しています。
もし「他社で出してもらった査定に納得がいかない」という場合は、「三井のリハウス」で再査定を依頼してみてください。もちろん無料で、精度が高い価格査定が手に入ります。
三井のリハウス|正確な査定が特徴
正確な査定は入手困難多少補足すると、実は「正確な査定」を打ち出している会社は希少です。
どう考えても、儲かりそうなキャッチフレーズではないからです。
逆に「ウチは高い査定を出しますよ」という会社はたくさんあります。
ユーザーをカンタンにだませるからです。
では、三井の査定はどれくらい正確なのでしょうか?
「三井のリハウス」は本当に査定が正確?
査定額と成約額の「乖離率(かいりりつ)」といいますが、査定で出した金額と売れた金額に差がなければ、「その査定は正確だった」ということができます。
一般的には、この乖離率は6%強です。
それに対して「三井のリハウス」ではエリアによるものの、2%を切っているケースもあります。
三井不動産リアルティの2020/10?12の集計データ。
— 2LDK (@2ldk18) February 21, 2021
単価上昇もさることながら注目すべきは売出と成約単価の乖離率の低さ。
乖離率が100%に近づけば値引無しでの成約が多いことを意味する。
豊洲は圧巻の99.35%、ほぼ値引は行わず売出価格で成約している。完全に売手市場なので優良中古の指値は厳しい。 pic.twitter.com/hmFZzOjE4r
これは売り手市場である豊洲の事例ですが、正確な査定を出す一方で指し値は拒否して、確実に相場の価格でクロージングしていく姿勢が読み取れます。
一方で、仲介契約が欲しいばかりにバカ高い査定額を出す業者もありますが、結局高く売ることはできず時間を浪費する結果になります。
このあたりは、以下の記事で詳しく解説しています。
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その意味で「三井のリハウス」であれば、安心して査定額を信頼し、きちんとした売却戦略を立てることができます。
とくに単純売却と違って住み替えの場合は、売出価格を間違えて長期化するとかなり危険です。
「三井のリハウス」で家を買う人が気をつけるべきことは?
不動産を売る時と違って買う時は、「どこで買うか」よりも「どの物件を買うか」が大切です。
そのため「必ずしも三井のブランドが必要」とはいえません。
たしかに「三井のリハウス」の営業マンは宅建士資格を持っていますし(もしかして「全員資格を持っている?」くらいの勢いです)、コロナの時代にあってバーチャル内覧に対応するなど、業務内容も進歩しています。
しかしそれでも「これだ!」と思える物件を持っている仲介業者を優先すべきでしょう。
「三井のリハウス」に掘り出し物は少ない!?
三井不動産リアルティは価格査定が正確な印象があります。
レインズで物件情報を漁っていても「三井の物件は激安とか、めちゃめちゃ高いとかはないなぁ」と感じます。
なんとなく激安物件に期待したり、ネットにない非公開物件に期待しても、見つかりそうな感じはしません。
ポジティブにいえば、「三井のリハウス」では、適正価格で納得して買うことができます。
「三井のリハウス」で悪い口コミ・評判に共通する点とは?
これはYahoo!知恵袋への投稿ですが、「三井の営業マンは感じが悪い」という話です。TwitterなどのSNSでも、類似の書き込みが見られます。
うぬーーー(._.)
— とーも@Gacharic Spin (@tomo_y_mp) April 19, 2014
物件見てきたけど、三井のリハウスの担当者の態度最悪だった!!!!
2度と行かない!!!!三井のリハウスでは部屋借りない&買わない?(?`ε´?)?
「三井のリハウス」についての悪い口コミを探してみると、典型的なのは「態度が悪い」でした。
これについては2つの論点があります。
①フランチャイズ制度が「人」の質をブレさせていた?
「三井のリハウス」では、かつて三井式フランチャイズシステムが採用されていました。そのため、
「三井さんに頼んだはずなのに、よくわからない住販会社が来た……。」
という話は、確かにあったそうです。
三井のブランドに期待したのに違う人が来た、という違和感が、担当者不信につながっていたかもしれません。また、フランチャイズに参加している中小業者の質を、他の大手仲介会社並みに揃えるのが難しかったのかもしれません。
しかし、2018年に「三井のリハウス」ブランドはすべて直営体制に移行されています。その時点で279店舗すべてが直営ないしは完全子会社化されました。
これにより、サービスの均質化がはかられ、悪い口コミも減少していくと考えられています。実際、少し上で紹介したネガティブな口コミも2013年や2014年のものですね。
②そもそも論として不動産業は「人」の質にバラつきがある
ただし、そもそも論として不動産業は「人」が間に入らないと成立しない産業です。製造業であれば人による品質のばらつきは考えられません。
しかし不動産業の場合は、どんなに努力しても「人」による品質のばらつきは必ず出ます。
そのあたりも考えて、1社目の担当者に納得がいかないなら、2社目に相談できる会社をリストアップしておくことをおすすめします。
この「人」によるサービス品質の違いは、不動産仲介業の永遠の課題といえます。
「三井のリハウス」名前の意味や基礎データ
1969年 | 会社設立(旧三井不動産販売) |
---|---|
1977年 | 三井式フランチャイズシステム導入を発表 |
1981年 | 「三井のリハウス」のCI導入 |
1984年 | 価格査定コンピュータシステム稼働開始 |
1985年 | 「三井のリハウス」が登録商標に |
1987年 | 宮沢りえがCMに起用される |
1991年 | 東証一部上場 |
三井不動産リアルティ(旧三井不動産販売)は、1960年代末期に設立されました。当初は親会社である三井不動産の新築物件を販売することが、会社の主たる目的でした。
1970年代にはいり、当時の経営陣がアメリカの不動産流通を学び、日本でも中古不動産流通市場を成熟させる必要があると考えるようになりました。
アメリカをモデルに、当時「暗黒大陸」と呼ばれていた日本の中古不動産流通を正常化し、透明化するための仕組みづくりをはじめたのもその頃です。
しかし、「大手は新築、中古住宅の仲介は中小業者」と住み分けられていた当時、様々な苦労が待ち受けていたようです。中小業者は大手である三井が中古不動産市場に進出することを恐れ、当時の建設省に陳情し、それを阻止する姿勢をみせていました。
そんな中で、三井不動産販売と東急不動産の2社が先頭に立ち、日本の中古不動産市場を現在の形に近づけていった……というのが宅建業の歴史だったのです。
その上で現在、三井不動産リアルティは、会社の方針として納得できる「正確な査定」を掲げています。
この部分の参考文献:『不動産流通経営協会五十年史』(一般社団法人不動産流通経営協会)
リハウスは和製英語?本来の意味は?
最後に豆知識ですが、英語でrehouseというと、他動詞で「~に新しい家を与える」という意味になります。
一部の辞書では「put up in a new or different housing.」とも説明されており、この場合は「今までと違う(新しい)家に宿泊する」ということになります。
CMの中で宮沢りえさんは、リハウスとは「人とおうちが巡り会うこと」と説明しています。これは記事冒頭で説明したように、三井不動産リアルティが中古住宅市場に進出した時期から一貫しています。
三井は中古市場を透明化し、住み替えを合理化したい……という意思表示なのだと思います。
不動産仲介、住み替え市場で存在感を持ち続ける三井不動産リアルティ。一貫した戦略で経営されていることがわかります。
三井のリハウスvsその他大手仲介業者
不動産売却時に大手仲介業者を選ぶメリットは、広告宣伝に強く、適正価格であれば早期に売却してくれる可能性が高いこと。また、コンプライアンス的には安心感があり、買主との間でトラブルになりにくい点も期待できます。
また、すべての大手仲介業者は類似のサービスを打ち出し、切磋琢磨する形で競い合っています。
大手仲介業者の中で売上げが大きい会社を7つピックアップすると、上のリストのようになります。
どの会社も、以下のような付帯サービスをつけています(専任媒介の場合)。
- 取引後に万が一のトラブルが起きた場合の保障
- 建物チェックや保障
- 清掃サービス
- 緊急時の駆けつけサービス
こういう付帯サービスの細かい違いを競うというのが、全体的な傾向です。ただ、三井のリハウスには、他と違う2つのポイントがあります。
- 仲介物件数は日本でナンバーワン
- 唯一「正確な査定」を打ち出している
そこから「大手仲介業者に売却を依頼するなら、三井のリハウスをメインに考えていいだろう」と結論づけることができます。
三井のリハウス|公式サイト
参考文献
陣内 一徳(2011)『「住みかえ」マーケットを創った男たち: 三井のリハウス物語』丸善 ISBN:978-4-86345-071-4