不動産買取は、不動産業者(宅建業者)みずからが買い取るため「仲介ではない」のがポイントです。仲介ではないため、仲介手数料は発生しません。
しかし問題は一般的な相場の7掛け程度でしか買ってもらえないこと。不動産屋も商売ですから、転売して利益を出せなければ買取を実施できません。
その仕組みを理解した上で、買取にすべきか仲介で売却すべきかを決める必要があります。
この記事では、
について解説しています。
たとえば価格1000万円の物件を売却する時、仲介で売り出すより、不動産買取では260万円ソンするという計算が成り立ちます。
不動産の仲介と買取の違いをおさらい
不動産会社は物件を買い取って再販売する場合、税金などの諸経費や利益を上乗せして販売する必要があります。
上のグラフのように経費や利益によって仕入れ価格が圧迫されるため、どうしても買取価格は安くなります。
売却の流れで見てみましょう。仲介による売却であれば買主と直接の取引になるため、相場の価格で販売することができます。
一方、不動産業者が買取を実施する場合は、安く仕入れて経費や利益を上乗せする必要があります。エンドユーザーが購入可能な金額から逆算して、ソンをしない価格でしか買えません。
つまり不動産の買取の仕組みは、転売ヤーに売却するのと同じです。
このように、不動産買取では安くしか買い取れない理由があります。自動車買取業者が「高く買いますよ」と言いながら、メルカリよりもずっと安い値段でしか買ってくれないのと同じことです。
不動産査定と「見積り」の違いも押さえたい
せっかくならここで、不動産の「価格査定」と「見積り」の違いも押さえておきましょう。
査定 | 市場で売れそうな額 | その値段で売れるとは限らない |
---|---|---|
見積り | その値段で買うという約束 | 必ずその値段で売れる |
不動産を仲介で売却する場合は、価格査定を出してもらいます。
価格査定とは「今の市場で、この値段であれば売れそうだ」という額を出すもので、必ずその価格で売れるという保証はありません。
不動産買取の場合は、名前こそ査定ですが、実質的に見積りと考えてよいでしょう。
見積りの場合はその値段で買ってもらえるという、約束された価格です。
不動産買取の場合は見積価格で必ず買ってもらえるため、それは数少ないメリットのひとつだといえるでしょう。
不動産「買取」の致命的な注意点(デメリット)
不動産買取のデメリットはたったひとつしかありませんが、そのデメリットはかなり致命的です。
買取では一般的な相場の7割以下でしか買ってもらうことができません。この点は絶対に押さえておくべきです。
相場の7割ならいい方で、半額程度や半額以下で買取られている例も目にします。買いたたかれる可能性にも注意しましょう。
1000万円の物件なら「300万円安く」買われてしまう
不動産の買取では、比較的条件がよく売りやすい物件であっても、相場の7割程度での買取になると説明しました。
不便な場所の土地や上物付き土地、管理状態が悪いマンションなどであれば、 より安い価格でしか買い取ってもらえません。
不動産業者の立場になってみればわかりますが、条件のよくない物件は、そもそもちゃんと再販できるか分かりません。リスクを考えると、高い価格で買い取ることはできず、価格は安くつけざるを得ません。
では実際の収支や内訳はどうなっているのでしょうか? 私自身が手掛けたマンションの買取再販事業の事例で解説していきます。
実際の収支計算大公開!「買取」はなぜ安い?
マンション名を明かすことはできませんが、これは私が実際に買い取りを実施して、リフォーム再販した物件の間取りです。
まず、相場の価格が500万円程度の築古中古マンションを350万円で購入しました。
そして、リフォームした結果880万円での売却に成功しています。こう聞くと「すごく儲かってるな」と思われそうですが、実際の利回りは29%でした。
総コスト購入価格 | ¥3,500,000 |
---|---|
工事費 | ¥1,530,000 |
諸経費 | ¥1,210,920 |
合計 | ¥6,240,920 |
リフォーム工事費や税金などの諸経費を合わせると、原価は6,240,920円に膨らみます。すでに中古相場の価格(500万円)を超えているため、工事費用を抑えつつフルリフォームするのが腕の見せ所です。
収支計算仕入原価 | ¥6,240,920 |
---|---|
販売価格 | ¥8,800,000 |
販売利益 | ¥2,559,080 |
この時は幸いにも売出価格の880万円で成約しましたが、値引きして販売することもあるため、利回29%という設定は妥当でしょう。
また、この販売利益からさらに法人税などが差し引かれることを考えると、あまり利益を削ることはできません。
そういった理由で、不動産買取の場合は市価の7割以下でしか買い取ってもらえない事がわかります。
結局、仲介手数料無料でも260万円ソンする構造
このように不動産業者に買取を実施してもらった場合は、市場での相場に比べてかなり安くなってしまうことがわかります。
1000万円の物件を仲介で売却した場合と、不動産業者の買取で売却した場合の比較をしてみましょう。
売却価格 | 仲介手数料 | 手取り | |
---|---|---|---|
仲介 | 1000万円 | 39万6000円 | 9,604,000円 |
買取 | 700万円 | 0円 | 7,000,000円 |
差額 | 2,604,000円 |
買取の場合は仲介手数料こそかからないものの、元々の価格が安いため、仲介で売却したときに比べて260万円ソンをしていることがわかります。
そこで特に理由がない限り、不動産買取は利用すべきでないといえます。まずは仲介で売り出してみて、直接エンドユーザーに販売するのがおすすめです
「急いでいるなら買取」は本当か、間違いか?
よく「急いでいる時は短期間で売却できる不動産買取が有利だ」といわれます。
しかし筆者はそれについても「思考停止せず他の方法を模索する方が有利だ」と考えています。
一般的に価格査定で算出した金額で不動産を売却するには、3か月から半年ほどかかります。
そうであれば、その間だけ不動産担保融資で必要資金を借り入れておき、仲介による不動産売却が完了したらそのお金を返済すれば良いのです。
不動産売却の手順や売却期間については、以下の記事で解説しています。
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不動産売却は以下の流れで進めていきます。 Step.1 あらかじめ価格相場を調べておく Step.2 不動産会社に査定を ...
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結論:不動産は仲介で売却するほうが有利。では業者の探し方は?
結論として、よほどの理由がない限り不動産の「買取」は利用せず、仲介で売却することを強くおすすめします。その方が高く売れるからです。
ただし、仲介で売却する場合も、ある程度戦略をもって不動産仲介業者を選ぶ必要があります。
もし筆者が所有不動産を売却するとしたら、都市部であれば大手仲介業者を選び、地方であれば中小の業者を2社選んで売却を依頼します。それにはもちろん、理由があります。
都市部で正確な価格査定を出してもらうなら
三大都市圏などの人口密集地であれば、三井不動産リアルティや住友不動産販売など、大手仲介業者の実力が役に立ちます。
そこで、都市部ではまず大手の瞬発力に期待して、適正価格での早期売却を目指します。中でも「正確な査定」をうたっている唯一の会社「三井不動産リアルティ」が最有力候補です。
三井のリハウス|公式サイト
「三井のリハウス」で知られる業界最大手の会社ですが、伝統的に「正確な価格査定」を掲げており、ここ1年ほどは特にホームページで強く打ち出すようになりました。
持ち味は精密査定で、それを元に3か月以内という適切な期間で売却できることが強みです。
遠方の相続案件など地方に強いサービスは?
大手仲介業者は都市部に強く、地方には対応しないケースがあります。たとえば、栃木県宇都宮市でも、ほとんどのエリアをカバーできていませんでした。
筆者が事務所を構える南大阪エリア(和歌山県に近いエリア)でも、大手仲介業者はまったくといっていいほど対応できていません。
そこで、地方都市圏では、不動産一括査定サイトを利用して複数の中小業者に価格査定を出してもらうのが効率的です。
中小業者は当たりはずれが多いので、必ず複数見積もりをとってください。
筆者は沖縄県のリゾートエリアで不動産会社を経営していましたが、営業担当者がそこまで足を運んでくれた査定サイトが1つだけありました。イエウールというサイトですが、まずはそこを利用してみることをおすすめします。
イエウール|公式サイト
イエウールを運営する株式会社Speeeさんは地方圏の開拓に熱心な印象があります。
その他、筆者自身が不動産業者の立場で利用していたのは以下の2サイトです。
RE-Guide(リガイド)|公式サイト
リビンマッチ|公式サイト
イエウールを含めてこれら3サイトで長らく査定依頼を受け付けており、どんな山奥でも対応していました。また農地でも査定を受け付けていました。
地方圏の売れにくそうな物件は、あえて1つあげるとすればリガイドが強いと思います。
なお、2社以上の不動産業者に売却を依頼する「一般媒介契約」については、以下の記事で解説しています。
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それでも不動産買取をおすすめする3つのパターン
ただし、それでも不動産の買い取りを検討をしてもいい場合が3つあります。
次のような理由がある時は、売却金額にかかわらず不動産買取を検討していいと思います。
訳あり物件を手間なく売却したい
訳あり物件の売却には手間と費用がかかることがあります。
- 相続人が多数いて意見がまとまらない物件
- 老朽化しているが再建築できない物件
- インフラが十分整備されていない物件
その他さまざまな訳あり物件の場合、訳あり物件専門の買取業者に相談してみる価値は十分あります。
以前「訳あり物件買取プロ」さんを取材させてもらったことがありますが、この会社であれば「相談だけで実際には売却しなくても大丈夫」とのことです。
訳あり物件買取プロ|公式サイト
業務の性格上相談だけというパターンもよくあるそうなので、まだ処分方法を決められない物件について意見を聞いてみるのもいいでしょう。
2~3日で現金化したい
超緊急に資金が必要だ、という場合に限っては「急いでいるから不動産買取にする」という判断はあり得ると思います。
不動産担保ローンで当面の資金を借り入れるとしても、やはり審査はありますので、一週間程度は時間がかかってしまいます。
不動産買取の場合は、業者によりますが1日か2日程度で資金を用意してくれるケースもあります。
時間がないので全てまかせたい
最後に実際にあった事例をご紹介します。
沖縄の赤瓦の古民家は非常に人気が高いのですが、国頭郡本部町の古民家の査定依頼を頂いた時「買取だといくらになりますか」と尋ねられました
正直に「仲介であれば多少時間はかかるが800万円程度の査定となり、買取であれば7掛けの560万円になります」とお伝えしました。
お客さんの返答は「では面倒なので買取でお願いします」というものでした。
もちろんすぐに売買契約を締結し資金をお支払いしました。
このように「面倒なので手間なくサッと売却を済ませてしまいたい」という希望をもつ方もいます。通常より安くなってしまう仕組みを理解した上でなら、不動産買取を利用してみてもいいと思います。
付録「不動産買取でもかかる諸費用」
すでに述べたとおり、不動産買取では仲介手数料は不要です。しかし、税金を含めた諸費用は支払う必要があります。ここでは簡単に「不動産買取でも支払が必要な諸費用」をまとめておきます。
登記費用 | 抵当権がついている場合は抹消登記が必要。2~5万円くらいが多い |
譲渡所得税 | 不動産を売却して利益が出たら課税される。利益の2~4割くらい |
収入印紙 | 契約書に貼付する収入印紙代 |
繰上返済手数料 | 銀行ローンが残っている場合に支払う手数料 |
注意が必要なのは譲渡所得税でしょう。もし不動産を売却して1000万円もうかったとしたら、400万円近く課税される可能性もあります(所有期間などにより異なります)。詳しくは以下の記事で解説していますので、お時間があれば目を通しておいてください。
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