久しぶりに確認しようとしたら、日経ビジネスのサイトにあった「賃貸派vs持ち家派 因縁の戦いについに完璧な理論で決着がつく」という記事が消えていました。
その記事は、『サラリーマンは自宅を買うな』という本を書いた石川貴康さんによるもので「家は買ったらソン」ということを、わりと無理のある理屈で説明したものでした。
内容にムリのある記事だったんですよね……。
現在でも「賃貸派vs持ち家派 因縁の戦いについに完璧な理論で決着がつく」というキーワードで検索する人が多いため、この記事では、書籍『サラリーマンは自宅を買うな』をもとに記事内容を再現しつつ、その間違いを指摘していきます。
【参考】買わなくてOK!
この本を買う必要はないと思いますが、矛盾点に冷静に突っ込んでいるレビューは読んでみてもいいと思います。
ポイント
家賃には大家さんの経費と利益が乗っていますから、お得になるはずがありません。大家さんの固定資産税も、将来の修繕費用も乗せられています。したがって、コストだけを見れば、必ず持ち家がトクになります。
※記事の末尾にあるコメント欄でぜひご意見をお寄せください。
自称「完璧」な理論に普通に反論!賃貸はソンなんです!
ホリエモンさんにしろひろゆきさんにしろ、賃貸がおトクという人は、だいたい重大なポイントを見逃すか無視しています。
大家さんは慈善事業ではありません。
大家さんは、人に部屋を貸して儲けようとしています。したがって、家賃には経費も利益も乗せられています。
気づいていない人もいますが、不動産屋の管理費(家賃の5%くらい)も含まれています。
家賃の正体
それでおトクになるはずがありませんよね。
この記事ではそういった理屈・背景をきっちり説明しながら、賃貸派vs持ち家派の論争に、一定の結論づけを行なっていきます。
持ち家より賃貸がトク(=間違い)
『サラリーマンは自宅を買うな』の著者である石川さんは「持ち家より賃貸がトクだ」といいます。
しかし「持ち家より賃貸の方が経済的にトクだ」という人の理論に、欠けている重大な論点が2つあります。
- 実際に詳細な計算をしていない
- 賃貸住宅は狭くてクオリティーが低い点を無視
詳細な計算をしてみると、賃貸よりも持ち家の方がかなり安いということがわかります。理由はすでに述べました。
賃貸物件の家賃には大家のコストと利益が乗せられているからですよね。
それなのに、なぜか「家賃の方が安い」と思ってしまうメカニズムも明らかです。
日本の賃貸はとても狭い
上のグラフを見てわかるとおり、賃貸物件の床面積は非常に狭いから安く住めるのです(データ出典は一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会)。日本の持ち家は世界的に見ても十分な広さですが、賃貸住宅は驚くほど狭いことがわかります。
それを、同じ縮尺で視覚化したものが以下の図です。
かつて「うさぎ小屋」と呼ばれたものの正体は、日本の賃貸住宅なのです。
そこから、「賃貸の方が安い」と思ってしまう理由は、こういったデータを見ていないのが原因だといえます。
具体的な実在物件で比較してみましょう。
同一駅の実在物件で比較すると…
同じエリアで同じくらいの月額支出(家賃と住宅ローン)を支払ったときの、間取りの違いが上の図です(大阪府堺市/深井駅周辺の実在事例で比較)。
この2つを比べて「持ち家より賃貸がトク」というのは、論理的には誤りでしょう。
詳しくは以下の記事で解説しています。
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関連記事「賃貸と持ち家で1300万円の差」は本当なのか検証してみました
結論からいうと、同一エリアで同程度の広さ・グレードの住宅に35年住んだ場合のコストを詳細に計算すると、賃貸の方が約130 ...
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上記間取り例は大阪府堺市南区の同一駅周辺で、ローンの支払いが10万円と家賃10万円の物件を比較したもの。住宅ローンの支払い額は、頭金無し、ボーナス払い無し、35年償還、金利1%で試算しています。※ただし、筆者は35年ローンをおすすめする立場ではありません。
自宅は自分のものといえない(=間違い)
これもかなり強引な理屈ですが、石川さんは「住宅はローンで買っているから、その家は厳密にはあなたのものではない」といいます。
ローンを払えなかったら手放さないといけないし、税金を滞納したら差し押さえられる……。
それが「自宅は自分のものといえない」理由のようです。
しかし、住宅ローンの滞納率は1.2%です。 石川さんの理屈はこのように、小さな事を大げさに表現して、さも危険であるかのようにあおるというケースが多いようです。
以下も、大げさな表現の事例です。
自宅の維持に莫大なお金がかかる(=ウソ)
これは故意に数字を盛っているように思えるので、ちょっと悪質です。
著書の中で、石川さんは、戸建て住宅の維持に莫大なお金がかかると説明しています。
最近私の実家でかかった修繕費を大きいものだけ明らかにしましょう。築25年目ごろに外壁塗装400万円、屋根の修理200万円、給湯設備30万円ほどかかっています。30年目に配管補修30万円、その他10年から15年の間にエアコン付け替えが数台、また、床の張り替え、雨漏り修理で各十万円かかっています。(中略)バリアフリー化や車椅子でのトイレ使用のための改造、階段の自動昇降設備設置など、まもなく100万円ずつ使う予定です。
『サラリーマンは自宅を買うな』
これが事実だとしたら、ぼったくられていますね。
よほどの豪邸でなければ、外壁塗装に必要な金額は100万円前後です。一般的な相場観としては80万円くらい~。屋根は外壁と同時に施工するのが一般的で50~60万円くらいでしょう。
外壁塗装パートナーズ |公式サイト
上記サイトにアクセスして、少しだけ下へスクロールすると施工金額例が掲載されています。外壁+防水で110万円だったり、屋根塗装が67万円となっていますね。
400万円というのが、相場の4倍に相当する無茶な金額だとわかります。
また、バリアフリー化にも助成金が使えたり、階段の昇降機はケースワーカーに相談すればリースを紹介してくれます。そもそも、賃貸では不可能なバリアフリー化ができるのは、持ち家のメリットでは? と考えてしまいます。
しかも、逆にシロアリ防除工事費用が含まれないのも「なんだかなー」という感じです。
このように、石川さんの主張には信じられない記述・数字が多く、うさんくさく感じます。
細かい点を指摘すると、屋根の修理に200万円もかけたと主張するのに、別途「床の張り替え、雨漏り修理で各十万円かかっています」と、また雨漏り修繕をしています。欠陥工事だったのでしょうか?
高齢者になっても賃貸できる(=微妙)
よく「高齢者は賃貸住宅を借りづらい」といわれます。
しかし石川さんは、そういった話はウソだと断言しています。その理由は「私は2010年3月末時点で65戸を持つ大家ですが、高齢者だろうと(中略)部屋を貸しています。」という、個人的な話のようです。
また「きちんと家賃が取れる仕組みがあって、賃貸契約が守られるのであれば、問題ないのです」とも述べています。
しかし「高齢者に部屋を貸したくない」という理由は、そういうことではありません。
心配なのは孤独死や、急病などの緊急事態。
一般的に、大家さんとしては「孤独死されたらその部屋は事故物件になってしまい、人に貸せなくなる」という点が怖いわけです。
家賃保証会社も、そういった点までは補償できません。そのため、高齢者は賃貸住宅を借りづらい傾向があるというのは厳然たる事実です。
地価はもう上がらない(=ウソでしたね)
石川さんは2011年に出版した本の中で「地価はもう上がらない」と述べています。
しかし、その後三大都市圏の地価は上昇を続けましたし、マンション価格は大幅に上昇しました。下の図のように、近年も右肩上がりで上昇を続けています。
あの当時、石川さんを信じて泣く泣くマンション購入を断念した人がいたとしたら、かなりソンをしてしまったことになります。
そもそも、マンション価格や土地価格が下落したとしても、相当程度の価値は残ります。その点、賃貸の場合は家賃を払い終わって残るものはゼロです。
こういうものは詭弁
- 土地価格は上がらない。下落する
- ローンを払い終わった時点で家の値段は半減している
- 不動産には価格下落リスクがある
すべて致命的な問題ではありません。
いえいえ、半分残るんです。
賃貸ならゼロなのに、持ち家は半分残るとしたら?
半額がいいに決まっている以上、持ち家を「持たない理由」にはなりません。
ただ「首都圏では、今後も地価が上昇する」と楽観視するのは危険かなと思います。
自宅を買うお金を投資に回すべき(=完全に間違い)
賃貸派の人たちは、家を買うより「そのお金を投資に回せばいい」と言います。この考えはホリエモンさんもよく述べていますが、理屈としておかしいですよね?
例えば、住宅ローンで月10万円を支払う場面を考えてみましょう。「その10万円を投資に回せばいい」というのですが、住宅ローンを支払わないとしたら、どこで生活するのでしょうか。
賃貸住宅ですよね。
そして、その場合、家賃を支払わなければなりません。
一般的に、住宅ローンの月額と家賃はそれほど変わりません。つまり、住宅ローンの10万円を支払わない代わりに、家賃として10万円を支払うことになります。
結局、10万円払うじゃないですか……。
投資のための資金はどこから捻出すればいいのでしょうか。
家を買わないで投資すればいいという意見の人たちは、家賃がゼロ円で住めると想定しているのでしょうか?
住宅ローンも家賃も、結局は自分の収入に見合った適切な金額を計画的に支払うことが大切です。そして、その上で可能な範囲で投資に資金を回すべきでしょう。
結論として、投資をするかどうかと、持ち家を持つかどうかは、関係のない話です。
35年もローンを支払う収入は保証されない(=そうとも言えない)
石川さんは、35年間にわたって安定した収入が保証されていない中で、35年ローンを組んで家を買うのはリスクがあると主張しています。
筆者も、その点には同意します。
しかし、35年ローンで家を買うという決まりは存在しません。むしろ、筆者は短期間でローンを返済できるような物件を選ぶことが有利だと考えています。
石川さんの「35年間の仕事が保証されていない」という論拠は、家を買わない方が良いという結論が先にあるためのものだと感じます。
住宅ローンは35年償還でなければならない、という勘違いもしくは先入観も問題です。
筆者の場合、35年ローンを組んで家を買った経験はありません。これまで、15年程度の短期ローンやキャッシュでマイホームを購入してきました。それでも、十分に満足できるマイホームを手に入れることができました。
しかも最近は、スマホさえあれば住宅ローンについて、すぐに調べられる時代です。
以下の記事で詳しく紹介しているモゲチェックは主要銀行と提携し、「いくら借り入れできるか」「月々の返済は?」といった情報を、無料で提供してくれます。
モゲチェックは銀行が支出する広告費で運営されている点も安心です。課金の心配がないだけでなく、借入可能額などの判定の正確さも安心材料です。
モゲチェック|公式サイト
チャット利用になりますが、住宅ローンについての質問にも回答してもらえるので、登録しておいてソンのないサービスといえるでしょう。
まとめ「賃貸派vs持ち家派 因縁の戦いについに完璧な理論で決着がつく」
「賃貸派vs持ち家派 因縁の戦いについに完璧な理論で決着がつく」という記事は、日経ビジネスのサイトから消えましたが、『サラリーマンは自宅を買うな』という本を読むと、その趣旨がわかります。
【参考】買わなくていいですよ!
ただし、筆者としてはこの本をおすすめするわけではありません。理屈として間違っている記述が多いからです。
筆者がこの記事で言いたいことは「コスト面、クオリティー面で比較すると、賃貸より持ち家がトクだ」ということです。そこから『サラリーマンは自宅を買うな』という意見は間違いであると判断しています。
参考までにAmazonの秀逸なレビューのごく一部を紹介しますが、納得感があります。
前半でリスクは大家に丸投げ!と説いておいて、後半は逆に「不動産投資して大家さんになりなさい!」と説きます。 リスクを丸投げする側になればいいと説いて、その一方でそのリスクを引き受ける側になりましょうって、 オイオイ・・・・話が前後で矛盾しているじゃないですか。
Amazonのレビュー
その程度の本だし、その程度の理屈だったということです。「家を買っていいのだろうか」と心配になった方は、いったんこういった本のことは忘れて、もう少し信頼性の高い人に相談するのがいいと思います。
本当に論理的に考察した記事は?
「賃貸は持ち家より得」と主張する人に欠けている視点、生涯コストは天と地の差|DIAMOND Online
持ち家と賃貸、損をするのはどちらか…お金のプロが出した「老後に後悔しない住まい」の最終結論|PRESIDENT Online
上記はいずれも、しっかりと理屈が通った記事です。
なかでも、午堂登紀雄さんの次の記述は納得がいきます。
定年退職と同時にローンの返済が終わるようにしておけば、多少は修繕費がかかったとしても老後の住居費はかなり抑えられます。持ち家は負債と言われることもありますが、こう考えれば「老後の住居費の前払い」と言えるでしょう。
「持ち家は老後の住居費の前払い」というのは重要な論点です。
2019年に金融庁の金融審議会が発表した資料で話題となった「老後2000万円問題」。その計算では、老後の住居費は月額15,000円未満でした。
つまり、持ち家であっても老後に2000万円不足するということです。
持ち家でない場合、老後の資金はより慎重に準備する必要があります。
老後も家賃を払い続けるとしたら、より深刻な資金不足が待っているといえるでしょう。
一般論として、経済面のみを考えれば、持ち家にしておいたほうが安心なのです。