出版社のダイヤモンド社が運営する「ダイヤモンド不動産研究所」というサイトでも、高すぎる不動産価格は「撒き餌だ」と指摘しています。
撒き餌に飛びついてしまったユーザーの中には、売却期間が無駄に長引いてしまい、その結果相場以下で売却することになった人もいます。
筆者が実際にマンションを売却した時も、明らかに高すぎる査定額が混じっていました。その実態については、以下の記事で解説していますが、2分の1から4分の3程度の価格査定が「不当に高すぎる査定額」を提示していました。
この記事では不動産価格査定のウラ側の仕組みと、正しい査定額を見極め、安全確実に不動産を売却するコツを紹介します。
高額査定を「撒き餌」としてユーザーを釣る戦略に注意
不動産の一括査定サイトは今も増え続けており、日本国内だけでも30サイト前後存在しています。
その結果、不動産会社同士の競争がどんどん過激化しており、「実態よりも高い査定書」を出す不動産会社が増えています。
不動産に詳しくないユーザーは、高い査定書を見ると喜び「ウチをそんなに高く売ってくれるなら」と、その査定を出した不動産会社に仲介を依頼します。
しかし、実態より高い不動産査定は「撒き餌」にすぎません。
あまり質の良くない不動産会社は「撒き餌」を利用して、手っ取り早く仲介契約を取り、その後にじっくりとその不動産を料理しようと考えています。
高すぎる不動産査定額を信じた結果、起きること
高すぎる撒き餌にだまされ、実態より高い価格で不動産を売り出してしまったユーザーは、最終的に以下のような状況に陥ってしまいます。
- 不動産がなかなか売れずに売却チャンスを逃す
- 「売れ残り物件」としてダンピングを繰り返して安く売却
- うまくいいくるめられて激安買取業者に買われてしまう
撒き餌として利用される高額査定は、実際の相場より高い価格ですから、当然なかなか売れません。売れずに、長い間「さらし物件」として広告だけが残り続けます。
その結果、多くの売却チャンスを逃すことになります。
さらに「売れ残り物件」として市場に嫌われてしまうと、相当程度値下げしないと成約すらできない場合もあります。
最も怖いのは、仲介業者が「ダブル両手」を狙って激安での売却を迫ってくること。激安で買取業者にたたき売ることで仲介手数料を満額受領し、そのお礼に、買取業者がその物件を販売するときにも仲介させてもらうという手法です。
囲い込み行為とダブル両手について、詳しくは以下の記事で解説しています。
首都圏で中古マンションの成約率が下がり始めている
高値で売り出して、売却が長期化すると怖い理由は他にもあります。上のグラフは首都圏の中古マンション成約率ですが、このところ下降を始めていることがわかります。
中古マンション価格自体は高止まりしていますし、まだ値段が下がる局面ではありませんが「売れにくくなっている」というのが実情です。
その理由は2つ考えられます。
- 不動産価格が高くなりすぎて買いづらくなっている
- 住宅ローン金利が上昇し始めている
そしてこの傾向はしばらく続くはずですから、中古マンションの成約率が上がる可能性は低いでしょう。
そう考えると、撒き餌価格の不動産査定にまどわされて、不動産売却が長期化することはぜひとも避けたいといえます。
そもそも不動産査定の仕組みとは?
不動産の価格査定方法はいくつかありますが、通常の住宅などで多用されているのが「取引事例比較法」です。
レインズ(不動産流通機構)に登録された取引データなど、過去の事例に基づき、事例地と査定地を比較することで価格を算定します。
そして、上の図のように各種の特徴をポイント化して比較し、査定物件の価格を算定します。
いろいろな考え方がありますが、筆者はこの方法がもっとも実践的で「今売れる」という価格を出すのに適していると考えています。
しかし、悪意があると査定額をすぐに調整できてしまう点には注意が必要です。
本来は「3か月で成約する価格」を推定するもの
不動産の価格査定においては、本来「売り出してから3か月程度で成約すると考えられる価額」を算出します。
そのために、適正な取引事例を選び、精密な不動産価格査定ソフトを使用して査定する必要があります。
ところが、以下の記事で実際に不動産一括査定を試してみたところ、いまだに手作業で査定額を出している不動産会社が多いことがわかりました。
そして、そういった不動産会社は、実態より高い査定額を出してくる傾向がありました。
手作業であっても、正確な査定額が出せないわけではありませんが、簡単に数字を操作できてしまう点は気がかりです。
不動産査定の具体的方法と情報源
一般の方であっても、不動産会社がどんな手順で価格査定を行っているのか、概要を押さえておくことにはメリットがあります。
実は、手作業での価格査定には、恣意的な調整が入る余地があるからです。実際の手順を見てみましょう。
査定不動産を調査する
査定地の登記簿謄本などでデータを確認。通常は机上査定であってもおおまかな現地確認を行います。
取引事例を選択する
レインズなどのデータから、適切な取引事例を選びます。実態より高い「撒き餌」を作るために、ここで不適切な事例を選ぶ場合があります。
データを入力する
査定不動産と取引事例のデータを査定ソフトに入力します。正しく入力すると、査定ソフトが様々な条件をポイント化して比較し、査定額を算出します。
おおまかに、このような流れで査定書を作成します。一戸建ての場合は、上記の手法で土地価格を査定し、別途建物の価格を査定して合計します。
もし自分で査定してみたい、という場合は、筆者が作成した以下の記事で「EXCEL形式の査定シート」をダウンロードできます。
簡易的なものですが「こうやって査定するのか」という体験ができます。
不動産の3つの査定方法と実際に使える計算式・EXCELシートダウンロード|トーマ不動産MAGAZINE
このような知識を押さえておくと「実態より高い撒き餌査定は、意外と簡単に作れてしまうものだ」とわかるはずです。
また、その点を押さえておくことで、高すぎる不動産査定にだまされる確率を引き下げることができます。
信頼できる不動産会社の選び方3つのポイント
不動産会社も適材適所で選ぶ必要があります。都市部なら、正確な価格査定を出す大手不動産会社に依頼するのが安心でしょう。しかし、大手は田舎に弱いという弱点があります。
そこで、地方エリアでは地元企業のなかから優良不動産会社を見つける必要があります。
都市部なら大手不動産会社が安心できる2つの理由
以下の公式サイトを見ていただければ分かるとおり、三井不動産リアルティ(三井のリハウス)は、公式サイトで「正確な査定」を大きく打ち出しています。
筆者の知る限り、「正確な査定」という、あまり儲からないキャッチコピーを前面に掲げているのは三井のリハウスだけです。
三井のリハウス|公式サイト
三井のリハウスが正確な価格査定を打ち出す背景には、1980年代に同社が中古不動産業界に乗り出した時のいきさつも影響しています。
当時は不透明だった中古不動産流通を正常化するため、三井不動産リアルティ(当時の社名は三井不動産販売)は、査定の手法を統一し、契約書の雛形などを整備。さらに、リハウス流通機構を立ち上げて、中古不動産流通に革命を起こしました。
詳しくは以下の記事で解説しています。
また、大手は不動産売買にあたっての様々なサービスを用意しています。筆者が重要だと考えるのは、売買した物件に瑕疵があった場合の保証サービスです。
売主も気付かなかった建物の劣化などは、どうしてもあり得ます。そこで、後から問題点が発覚した場合にも無料で保証を付けてくれるという点は、大手ならではのメリットでしょう。
地方部・過疎地に強い不動産査定サービス
栃木県宇都宮市のような県庁所在地であっても、大手不動産会社がどこも対応していないケースがあります。
大手不動産会社は大都市を中心に営業しており、地方には弱いからです。
そこで、地方エリア、地方都市では不動産一括査定サイトを利用して、地元不動産屋を探すことになります。
筆者が不動産会社の立場で実際に利用していた、イエウール、リビンマッチ、リガイドなどは、地方の地元業者と提携しており、田舎の物件の売却にも利用できます。
まずはこういった不動産一括査定サイトを利用してみて、少なくとも3~4社とコンタクトを取ってみてください。その中から、なるべく信頼性が高い会社を探す必要があります。
イエウール|公式サイト
リビンマッチ|公式サイト
不動産会社探しの具体的なチェックポイントは、次の章で紹介します。
不動産査定は金額よりも「人物」を見る
ここまでに述べた通り、不動産一括査定の査定額は、必ずしも正確ではありません。筆者の経験上、2分の1から4分の3程度の査定額は実態より高すぎました。
そこで、不動産一括査定サイトを利用する場合、以下のように考えてください。
- 査定額は高ければよいわけでなく、平均的な額が妥当
- 不動産屋選びは査定額でなく「人物本位」で決める
具体的には、査定書についての疑問に答えることができ、「なぜその取引事例を選んだのか」という質問にも根拠を提示できる不動産屋を選んでください。
また、担当者が信頼できそうかという点も重視してください。
地元不動産屋の選び方について、より詳しい情報は以下の記事に掲載していますので、ぜひ参照してみてください。
売出し価格は売主が決めていいもの
査定額が高い会社がいい会社ではありません。
上述したように、相場の範囲内で査定を出してくれた不動産会社に仲介を依頼すべきです。
しかし、必ずしも査定額で売り出さないといけないわけではなく、査定額より高い価格(いわゆるチャレンジ価格)で売り出すことも可能です。
不動産の売出価格は、最終的に売主が決断して決定すべきものです。そこで、時間がかかってもいいから高く売りたい場合は、査定額より高めの売出価格とすることもあります。
不動産売買につきもののトラブルを避けられる担当者を選ぶ
不動産売買は複雑な取引なので、トラブルが発生しやすい傾向があります。そこで、不動産会社の担当者には、トラブルを避ける知識と、落ち着いて事務処理ができる能力が求められます。
不動産会社を選ぶ際には、対応してくれた担当者が法令の制限や近隣エリアの相場、生活情報をどれくらい把握しているか、会話の中から引き出すようにしてください。
たとえば、最近どんな物件を仲介したか、よく経験するトラブルは何かを聞いてみるのもいいでしょう。
その際、トラブルにどのように対応したかを論理立てて説明できるか確認してみてください。
まとめ「高すぎる『撒き餌』査定に注意!」
不動産一括査定サイトは便利ですが、不動産会社間の競争に拍車をかけています。その結果「とりあえず高めの査定額を出してユーザーを喜ばせておこう」という、実態より高すぎる価格査定が増えています。
しかし高すぎる査定額は「撒き餌」のようなものです。
高すぎる価格で売り出しても、実際には長期間買い手が付かず、塩漬け物件となってしまいます。そうなると市場に嫌われてしまい、ダンピングを繰り返してやっと成約することになります。
不動産一括査定サイトは便利ですが、査定額にダマされない! という意識は必要でしょう。もし、正確な価格査定を出してもらいたい場合は、大手不動産会社に依頼する方が確実です。
大手はコンプライアンス上の問題から、いい加減な査定額は出しませんし、そもそも高価な査定ソフトを導入しており、正確な査定を出す能力があります。
なかでも、筆者が知る限り唯一「正確な価格査定」を全面に打ち出している、三井のリハウスがおすすめです。
三井のリハウス|公式サイト
上記の公式サイトでも、正確な査定に基づき、値引きせずに売り切っている(価格乖離率が低い)という点をまずアピールしています。