家の傾きを調べるとき、ビー玉を転がすだけでは不十分です。
傾いているかどうかより、なぜ傾いているかを把握することが大切です。原因によって修繕の難易度も費用も、相談すべき相手もまったく変わります。大工さんが直せる局所的な床下の問題もあれば、地盤改良が必要な不同沈下もあります。
同じ「傾いている家」でも、原因によって「買うべきかどうか」の判断もまったく変わります。
たとえば、1つの部屋だけが傾いている場合と、複数の部屋が傾いている場合では、原因も修繕範囲もまったく異なります。全部屋に同程度・同方向の傾きがある場合、地盤の不同沈下など深刻な不具合も疑われます。
そこで、この記事では、家の傾きの具体的な調べ方から、傾き方のパターンで原因を絞り込む方法、相談先の選び方までを解説します。「傾いているかどうか」で終わらせず、「なぜ傾いているか」まで把握できる状態を目指してください。
この記事は、アップライト合同会社の立石秀彦(宅地建物取引士)が制作しました。不動産の調査・マーケティングを専門とし、複数の不動産メディアを運営しています。
ビー玉でわかるのは「違和感」まで。原因特定はできない

筆者は、中古住宅の内覧時にビー玉を持参することはありません。
なぜなら、ビー玉が転がるほどの傾きがあるなら、その部屋に立った時点で違和感を感じ、目視でもある程度の傾斜を疑うことができるからです。
つまり、ビー玉は「体感できるレベルの傾きを確認する」レベルの道具にすぎません。YouTubeなどでは面白くキャッチーなのでよく取り上げられますが、タコ糸に5円玉をぶら下げる方法(簡易サゲフリ)も、体感できるレベルの傾きを確認できるだけです。
問題は傾いているかどうかではありません。
どのように傾いているか。そして傾きの角度はどれくらいか。建物全体が傾いているか、一部だけが傾いているかを調査することにあります。
筆者の場合、建物の傾きを見るならビー玉ではなく、レーザー墨出し器、デジタル水平器、サゲフリを利用します。この記事では、その目的や確認内容から、「傾きの種類」と「傾きの対策方法」そして、修繕の難易度を解説します。
傾きが3/1000未満あるいは6/1000以上で危険度が変わる

家の傾きを感覚で語る記事は多いですが、実は国土交通省やJSHIの判断基準があります。
「なんとなく傾いている気がする」「ドアが閉まりにくい」「床が滑る」……といった感覚は入口として間違っていないのですが、それだけでは判断できません。数値基準を理解しておき、その基準にてらして判断します。
たとえば、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)に基づく技術的基準では、傾斜を3段階で評価しています。
| 範囲 | 説明 |
|---|---|
| 3/1000未満 | 瑕疵が存する可能性が低い |
| 3/1000以上6/1000未満 | 瑕疵が存する可能性が一定程度ある |
| 6/1000以上 | 瑕疵が存する可能性が高い |
ここで注意してほしいのは、これが「ただちに倒壊するかどうか」の判定ではないという点です。構造耐力上主要な部分(基礎・柱・梁など)に不具合が潜んでいる可能性を示す目安であって、「6/1000を超えたから今すぐ危険」というわけではありません。
ただ、6/1000以上ともなると、背後に不同沈下や基礎の損傷、構造材の劣化といった問題が隠れている可能性が高まります。
新築と中古住宅の判断基準の違い
新築と中古では扱いも異なります。新築では3/1000以内が施工精度の許容範囲として厳格に扱われます。一方、中古住宅では木材の乾燥収縮や経年変化による歪みが不可避なため、実務では6/1000未満までを許容範囲として扱い、是正や二次診断の目安を6/1000以上に設定するケースが一般的です。
3m以上離れた2点で測る理由
傾斜を数値化するとき、測定距離の取り方にも注意が必要です。
短い距離で測ると、床材の反りやフローリングの継ぎ目の段差、部分的なたわみを拾ってしまいます。たとえば50cmのスパンで測れば、1mmの床材の浮きだけで2/1000という数値が出てしまいます。床全体の傾きではなく、仕上げ材の表面の影響を受けてしまうわけです。
そこで、床の傾きを正確に見るには、3m程度以上離れた2点を結んで測る必要があります。
柱や壁の垂直を確認する場合も同じ考え方です。2m以上のスパンで測定することで、壁紙の浮きや下地の不陸の影響を抑えた測定ができます。
数値だけで「安全」と断定できない理由
傾斜が3/1000未満だから問題ない、とは言い切れません。
たとえば床の傾きが2/1000程度でも、基礎に斜めのクラックが走っていたり、床下でシロアリの被害が進行していたりすれば、話は変わってきます。数値はあくまで「現在の傾斜の大きさ」を示しているにすぎません。その傾きを生んだ原因が何かは、別に調べる必要があります。
逆に6/1000以上でも、原因が床下の束石のゆるみや根太のたわみといった局所的な問題であれば、大工工事で修繕できる場合があります。数値が大きいからといって、必ずしも大規模な地盤改良が必要になるとは限りません。
原因の特定までして初めて、最終的な判断が可能になります。
自分で調べるなら、部屋ごとの「高さの差」と「傾く方向」を記録する

ビー玉やスマートフォンアプリでも傾きの有無はわかります。ただ、それでわかるのは「何かおかしい」という感覚までです。
原因を推測するには、どの部屋がどの方向に、どの程度傾いているかを記録する必要があります。そのためのツールと手順をここで確認しておきます。
レーザー墨出し機で床の高低差を見る
建物全体の傾き傾向を把握するなら、レーザー墨出し機(自動整準機能付き)が最も実用的です。
設置場所は建物の中央付近が基本です。水平レーザーラインを四方に投影し、各部屋の四隅・中央・柱際などで「レーザーラインから床面までの距離」をスケールで計測します。この値を記録していき、最も高い点を基準(±0mm)として、各点の高低差をmm単位で整理していきます。
たとえばリビングの北東隅が基準で、南西隅が−12mm、隣の和室が−18mmといった具合に記録します。全体を見渡したとき、一定の方向に向かって数値が下がっていくなら、建物ごと傾いている可能性があります。一部屋だけ突出して沈んでいるなら、その部屋の床下に局所的な問題がある可能性が高まります。
横に1mの2点間で3ミリの高低差がある場合、床の傾きは3/1000となります。
デジタル水平器で傾斜を数値化する
各部屋の傾斜を手軽に確認するには、デジタル水平器が便利です。
測定前にまず床を清掃してください。小さなゴミが器具の下に入り込むだけで、角度センサーの読み取りが狂います。できれば1.5m〜2m程度のまっすぐなアルミ定規や板の上に水平器を乗せて測定します(専用の脚も販売されています)。これだけでも、フローリングの反りや継ぎ目の影響を受けにくくなります。
測定は部屋ごとに4~5か所行い、少なくとも1階全室について測定します。。
スマートフォンの水平器アプリは、あくまで簡易確認の道具として使う程度にとどめてください。端末自体の歪みや温度変化によるセンサーのズレがあり、1/1000の精度で再現性のあるデータを取ることは難しいからです。
サゲフリで柱や壁の傾きを見る
床の傾きを確認したら、柱や壁の垂直も確認します。ここで使うのがサゲフリ(垂球)です。重力を頼りに垂直を計測するシンプルな道具です。
使い方は単純です。天井付近(床から2m以上)に糸の上端を固定し、おもりを吊るします。振れが完全に止まったら、上部と下部それぞれで「糸から柱・壁までの距離」を計測します。この2点の距離の差が、傾きの量になります。
床が傾いているのに柱が垂直を保っているなら、床下側の問題である可能性が高いです。床と柱の両方が同じ方向に傾いているなら、建物全体が傾いていると考えたほうがよいでしょう。
屋外や風のある場所では振れが止まりにくいため、屋内で窓を閉め、空調を止めた状態で測定します。
平面図に「方向」と「数値」を書き込む
測定した数値は、その場でメモするだけでは全体を把握できません。平面図(手描きでも可)に落とし込んでいきます。
各部屋に計測値を記入し、傾いている方向を矢印で書き添えます。高低差が大きい方向に向けて矢印を引くイメージです。
記録が揃ったとき、次のどのパターンに当てはまるかを確認します。
- 1階の全部屋が同じ方向に傾いている→不同沈下の可能性(不同沈下の解説へ)
- 一部屋だけ中央に向かって沈んでいる→床下・束石・重量物の問題の可能性(一部だけ傾いている場合へ)
- 2階だけ傾いている→梁のたわみや荷重の問題の可能性(2階の梁のたわみ等へ)
このように記録しておくと、次に誰に相談すべきかを決める材料になります。大工に相談すべきなのか、建築士を呼ぶ必要があるのか、地盤業者まで手配すべき問題なのか……それを判断するのには、感覚ではなく数値と方向のデータが必要です。
複数の部屋に傾きがある場合は不同沈下を疑う

1室のみの傾きではなく、全室が傾いている場合は不同沈下を疑います。たとえば、全室で6/1000の傾斜がある場合、家が一定方向に傾く不同沈下が起きている可能性があります。
ただし、不同沈下にも部分的に傾斜する変形傾斜もありえますから、単純に判断するのは危険です。
いずれにせよ、複数の室になんらかの傾斜が見られる場合は「専門家に任せるべき」だと判断し、自己判断は避けたほうがいいでしょう。
筆者が経験した事例では、崖上のオーシャンビューの邸宅で、建物の半分が崖方向に傾斜し、基礎に亀裂が入っていたケースがあります。

このケースではインスペクションを行った時点で購入しない判断を下しました。沈下の程度は軽微ではあったものの、補修は極めて難しいと考えられたからです。
一部屋だけ傾いている場合は床下・束石・重量物の問題の可能性

建物全体ではなく、1室のみに傾斜が見られる場合は基礎か床下の不具合の可能性があります。
筆者は建物を見るときにまず外観をチェックします。その時点で基礎に不具合がある場合、内部に入ったら床の傾斜を疑います。床が基礎の不具合箇所にむかって傾斜している場合は、基礎の修補に加えて床下の木材部分(もしくは束など)の修理も必要になる可能性があります。
傾斜が一定ではなく、部屋の一部分に向かって傾斜している場合は、そこにグランドピアノや金庫などの重量物が置かれていた可能性もあります。
いずれの場合でも、筆者であれば大工さんに相談して補修のプランを検討します。基礎に関しても、大工さん経由で型枠大工などを紹介してもらえます。
2階だけ傾斜している場合は梁のたわみなどを疑う

1回では傾斜が認められないが、2回のみ傾斜がある場合は、建物そのもの傾きではなく梁などが長年の荷重によって変形している可能性を疑います。
ただし、温暖なエリアでは2階からシロアリが侵入している可能性もあり、拙速に判断すると原因を読み間違えることもあります。
判断法としては、畳部屋があれば畳を外し、板も1~2枚外してみて内部を確認します。シロアリ被害や腐朽の有無を確認し、なければ梁や床の変形を疑います。
この場合の補修も、大工さんに相談するといいでしょう。シロアリの有無も大雑把に見てもらえますが、確実な判断は専門のシロアリ業者に来てもらう必要があります。シロアリ調査は、たいてい無料で行ってくれます(以下のシロアリ110番は調査無料)。
シロアリ110番
|公式サイト
なお、シロアリがいる兆候に関して解説している記事も、あわせて読んでみてください。

基礎に斜めやX状のクラックがある場合は耐震診断も考える

建物傾斜に加えて基礎や、鉄筋コンクリート造住宅の壁に斜め方向のクラックが入っている場合、地震時のせん断力による建物変形も考えられます。
過去に一定規模の地震があったエリアでは、地震による建物の変形も疑う必要があります。また、耐震性能が落ちていることも考えられるため、このケースでは耐震診断を受けておくほうがいいでしょう。
自己居住用のマイホームであれば、市町村の耐震補助が受けられるケースもあるので、一度役所窓口に問い合わせてみてください。
なお、耐震補強については以下の記事で解説しています。

シロアリ・腐朽で傾斜している場合は相当なリフォーム費用を想定

筆者の経験では、シロアリの被害があったとしても、床が傾斜していることはまれです。逆にいえば、床が傾斜するほどの被害にあっている場合、木部に致命的なダメージがある可能性も考えられます。
筆者の経験で、シロアリで傾斜していたのは沖縄県の今帰仁村にある古民家など、ごく限られた事例のみです。この古民家は、同業者が「ワンチャン修理できる方に賭けてみる」ということで購入されましたが、諦めて更地化していました。
腐朽が進行している場合も同じで、床が傾くほどの被害があれば、相当なリフォーム代がかかる可能性があります。
そこで、建物が傾いている原因がシロアリや腐朽の場合は、相当程度の警戒が必要です。
買う前・売る前の判断は「直せる傾き」と「買ってはいけない傾き」を分ける

筆者は、かなりの棟数のボロ家、古家を見てきました。その過程で、傾きがある家をいくつも内覧・チェックしてきました。
その中で、買ってもいい・買うべきではないという判断の基準は「予算内で直せるかどうか」にかかってきます。
買ってはいけない傾いている家
筆者が絶対に購入しないのは、以下の条件の場合です。
- 不同沈下がある(建物全体の傾き)
- 建物に変形傾斜がうかがえる
- イエシロアリの被害がある
- 基礎コンクリートに構造クラックがある
- 傾斜があり、なおかつ再建築不可である
上記の要件に該当する場合は、即リストから外します。不同沈下は、建物全体が同じ方向に傾いているケース。すでに説明しましたが、粘土質などの軟弱地盤で起きがちな不具合です。変形傾斜とは、土地の一部が沈下することで、建物が折れ曲がりながら沈下しているケース。いわば、家の半分が不同沈下しているような状態です。
そのほか、蟻害や腐朽が進んでいるケース、鉄筋コンクリートに構造的な問題があるケース、法令上の問題と複合しているケースは検討から外します。
安ければ買ってもいい可能性があるケース
逆に、筆者が「十分に安ければ買ってもいい」と考えている条件は以下の通りです。
- 傾きが局所的であること
- 基礎や躯体構造部分に影響が少ないこと
- 十分に値引き交渉ができること
もちろん、上記に該当するから安全とはいえず、自己責任になりますが、価格とのバランスで判断します。
建物の一部に傾きがある程度であれば、その傾きを理由に価格交渉をしてみて、修繕費用以上の譲歩を引き出すことができればよいわけです。
逆に、傾いている家の売主の場合は、傾きの種類を特定し「修繕にいくらかかるか」を把握しておく必要があります。そうしないと、買主の価格交渉に対抗できないからです。
東京・大阪・沖縄であれば、私たちがインスペクションに入ることも可能です(売却仲介の場合は無料)。お気軽にご相談ください。
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まとめ「家の傾きは原因追求こそが本丸」

家の傾きを調べるとは、「傾いているかどうか」を確認することではありません。どの部屋が、どの方向に、どの程度傾いているかを記録し、原因を絞り込むことです。
品確法の基準では6/1000以上で瑕疵の可能性が高いとされますが、数値だけで判断はできません。6/1000以上でも大工工事で直せる局所的な問題もあれば、3/1000未満でもシロアリや基礎クラックが進行しているケースもあります。重要なのは数値の大小ではなく、「全室が同じ方向に傾いているのか」「一部屋だけ中央に沈んでいるのか」「2階だけに傾きがあるのか」というパターンの読み取りです。
この記事で紹介した調べ方を一通り実践すれば、相談すべき相手がある程度見えてきます。傾きがあるから「ダメ」と判断する前に、まず原因の見当をつけることが、売買後のトラブルを防ぐ一番の近道です。
東京・大阪・沖縄エリアは、当社仲介の場合インスペクション無料。傾きのある家は、原因次第で「格安の掘り出し物」にも「手が出せない問題物件」にもなります。判断を急がず、まず確実なインスペクションから始めてみてください。


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