両親が住んでいた田舎の一戸建てを相続したけど、売ったら税金が高額になりそう。そんな心配をしている方もいるはずですが、税金がゼロになるかもしれない特例措置があります。それが、空き家にかかる譲渡所得の特別控除の特例(空き家特別控除)。
一定の要件に当てはまるとき、相続した家(土地)を売った譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができる制度です。つまり、3000万円以下で売却した場合非課税。それ以上であった場合、3000万円までの部分について非課税です。
この特例、利用できればかなり効果が大きいのですが、要件が多くてわかりにくいのが問題。要件が多いということは当然に、減税対象者に該当しない人も多いということです。
細かい要件をチェックする時間がない人は、リガイドなど地方圏に強い見積もりサイトで地域密着型の不動産業者を紹介してもらう手もあります。
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イエス・ノーで特例が適用されるか判定!
そこで、田舎の家を相続した! という方向けに、セルフでできるチェック方法をまとめてみました。上から順にイエス・ノーで判定していくと、おおよそ「特例を受けられそう」「ダメそう」という判定ができます。
チェック項目 | チェック | |
---|---|---|
Check.1 | そこに被相続人が住んでいた? | ○・× |
Check.2 | 昭和56年5月31日以前に建てられた? | ○・× |
Check.3 | マンションではない? | ○・× |
Check.4 | 相続してから3年以内に売る? | ○・× |
Check.5 | 令和5年末までに売る? | ○・× |
Check.6 | 売却代金は1億円以下? | ○・× |
Check.7 | 相続後に事業に使ったり貸していなかった? | ○・× |
Check.8 | 耐震基準を満たしている? | ○・× |
Check.9 | 他の特例を受けていない? | ○・× |
Check.10 | 身内に売ってない? | ○・× |
上記のチェック項目すべてに「○」であれば、特例控除の対象と考えられます(対象外の場合、更地にして売却すると特例の対象になる場合があります)。
実際には税理士など専門家に相談することをお勧めしますが、税務署でも教えてもらえます。
ここからはもう少し詳しい要件を解説していきます。
Check.1 そこに被相続人が住んでいた?
相続または遺贈によって取得した不動産で、そこに被相続人(亡くなった方)が亡くなる直前まで住んでいたことが条件です。しかも相続の直前まで、被相続人のみが住んでいたことが要件。ノーなら脱落。イエスなら次へ!
ただし、ノーの場合でも下記注釈の特例措置あり! ノーの人は本ページの一番下を見てみてください。
Check.2 昭和56年5月31日以前に建てられた?
ノーなら脱落。イエスなら次へ進みます。
Check.3 マンションではない?
マンションなら脱落。ただし、ちょっと注意したいのは、実際には「区分所有建物登記がされていないこと」という要件なのです。したがって区分登記されているテラスハウス(連棟式建物)などであればアウトな可能性あり。区分所有建物に該当しない人は次へ進みます。
テラスハウスの場合登記簿を見て区分登記されていないかチェックします。
Check.4 相続してから3年以内に売る?
正しくは「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。」とされています。「4年以上前だったかな」という場合は脱落。イエスなら次に進みます。
Check.5 令和5年末までに売る?
国税庁によれば「平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売る」とされています。該当しなければ脱落。該当すれば次に進んでください。
Check.6 売却代金は1億円以下?
「以下」ですから1億円はギリギリセーフです。また、分割して売却した場合は「相続の時からこの特例の適用を受けて被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等を売却した日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に分割した部分や他の相続人が売却した部分も含めた売却代金により」判断されます。
注意したいのは「他の相続人が売却した部分も含めた売却代金により」という部分。分割した結果「弟も1億、俺も1億」みたいなのはアウトということになります。「俺と弟、あわせて1億」ならセーフ。
ということで1億円を超えると脱落、それ以下なら次へ。
Check.7 相続後に事業に使ったり貸していなかった?
これも具体的には「相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸し付けの用又は居住の用に供されていなかったこと」が要件とされています。相続してから売却するまでの間に、事業で使ったり、貸したり、自分で住んだりしていたら脱落。そうでなければ次へ。
Check.8 耐震基準を満たしている?
これはCheck.2と真っ向から対立しそうな厳しい要件。新耐震基準は1981(昭和56)年6月1日以降の建築確認において適用されている基準なので、ほとんどCheck.2と両立し得ないと思われます。ほとんどの人がここで脱落しそうですが、回避策はふたつあります。①耐震改修する、②建て壊して更地にする、の二択となります。更地にしても、この特例措置は適用されるからです。
被相続人が存命の間であれば行政の補助を受けて、自己負担の少ない耐震改修が可能ですが、亡くなってからでは行政の補助が受けづらいという問題があります。費用対効果の面から「耐震改修して売る」よりは、「更地にして売る」ほうに軍配があがりそう。
というわけで、Check.8で脱落した人は、下の「更地にして売る場合」を参照してください。イエスなら次へ。
Check.9 他の特例を受けていない?
売った建物や土地について「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと」が要件とされます。また、同じ相続人から相続等で取得した不動産についてこの特例を受けている場合は、重ねて特例を受けることはできません。
他の特例を受けている場合は脱落、そうでなければ次へ。
Check.10 身内に売ってない?
親子や夫婦など、特別の関係がある人に対して売ったものの場合は脱落。特別の関係とは「生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人」なども含まれます。
そういった特別の関係がある人に対して売った場合は脱落。
そうでない場合は、適用を受ける可能性あり! かなりの難関を勝ち進んだあなたはラッキーといえます。
とはいえ、各要件にさらに細かい条件があったり、一つの土地に2以上の建物があった場合どうするかという規定があったりするので、専門家に相談した上で最終判断をしてください。
更地にして売る場合
実はこの特例、相続をした後に建物を壊して更地にしてしまっても適用を受けることができます。解体費用もけっこうかかるとは思いますが、たとえば「親が長年住んだ一戸建てを3000万円で売却できた」というケースで何もしなければ譲渡所得税は500万円を超える可能性があります(取得費がわからない場合など)。それと比べたら、さすがに解体費用のほうが安いケースが多いはず。
耐震改修をしてから売却しても、もしかしたら譲渡所得税より安くつくので節税効果があるかもしれません。しかし、耐震改修の費用と解体費用を比べたら、どちらかというと解体費用の方が安い(ケースバイケースなので、逆転することもあり)ので、更地にする方向で心づもりをしておいてよさそうです。
更地にするための建物解体は、どこに見積りを依頼すればいいかもわからないのが通常。その場合、地域に詳しい不動産業者を見つけて訪ねると「ここが安くていいですよ」と教えてもらえる場合が多いです。
地域に詳しくない不動産業者だと、格安で受けてくれる小規模な解体業者を知らない可能性が高いです。そこで、地域密着系の不動産業者を見つけられる、以下のような不動産売却査定サイトを利用し、「もしかしたら売るかも知れないから相談に乗って欲しい」と頼んでみるのがよいと思います。
イエウール|公式サイト
当社の独自調査で、上記のイエウールは比較的都市部において、対応できる地場業者・地域密着系の業者が多い傾向がありました。
RE-Guide(リガイド)|公式サイト
一方で、リガイドというサービスは地方に強く、地方都市7か所で行った調査で上位を独占しました。
耐震改修については以下の記事にまとめています(住んでいないと補助金・助成金が出ない可能性大です)。また、更地売却の方が有利な傾向があるので、あまり期待はできないと思います。
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更地にした場合「取り壊し等の時から譲渡の時まで建物又は構築物の敷地の用に供されていたことがないこと」という要件もありますので、注意してください。
注1……被相続人が老人ホーム等に居住していた場合の被相続人居住用家屋であった場合、特例を受ける可能性あり! 敗者復活戦のようですが、一定の要件を満たせばこのケースでも特例を受けることができます。ただし、例によって要件は細かくてめんどくさいです。
ざっくりいうと、要介護認定や要支援認定を受けて一定の施設に入院していた場合や、認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居などに入居していた場合は対象となる可能性あり。その場合、施設に入居する直前まで、その空き家に住んでいたなら対象となります。
さらに、施設に入居しても引き続きその家屋が被相続人の物品の管理その他の用に供されていたこととか、空き家になったけれど誰も住んでいなかったことなどの要件もあります。相当細かいので、この辺は専門家(税理士など)に相談しておいた方が確実です。