レインズ(REINS)とは、不動産会社のみが利用できる大規模な不動産情報ネットワークシステムのことです。宅地建物取引業法(宅建業法)に基づき、国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しています。
家を売却するときには、このレインズが大きな役割を果たします。一般の人は直接利用できませんが、不動産会社がレインズに情報を登録することで、全国的な情報流通をはかることができます。
不動産取引では、できるだけ多くの購入希望者に売却物件を知ってもらうことが成功の鍵ですから、レインズに物件情報を登録し、全国の不動産会社に情報を共有してもらうことが重要なのです。
またレインズは過去の膨大なデータを蓄積しており、不動産価格査定のための情報源としても重要です。
この記事では、不動産仲介業務に欠かせないレインズについて、一般ユーザー目線でわかりやすく解説していきます。
レインズとは?法令上の位置づけや仕組みを解説

レインズ(REINS:Real Estate Information Network System)は、国土交通大臣が指定する「指定流通機構」によって運営される不動産情報ネットワークシステムです。その根拠法令は、宅地建物取引業法(宅建業法)です。
宅建業法第34条の2では、不動産会社が売主と「専属専任媒介契約」または「専任媒介契約」を締結した場合、一定期間内に物件情報を指定流通機構(レインズ)に登録する義務があると定められています。
具体的には、専属専任媒介契約では契約締結日から5日以内、専任媒介契約では7日以内に登録することが求められます(いずれも営業日で数えます)。
つまり、全国規模のデータベースであるレインズへの登録義務を課すことで、不動産会社が情報を囲い込むことなく、広く流通させることを促進しているわけです。
国土交通大臣が認可する4つのレインズ
レインズは、国土交通大臣から指定を受けた4つの「指定流通機構」によって運営されています。それぞれの指定流通機構は、以下のように担当する地域を受け持っています。
全国4つのレインズ
名称 | 担当地域 |
---|---|
東日本不動産流通機構(東日本レインズ) | 北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県 |
中部圏不動産流通機構(中部レインズ) | 富山県、石川県、福井県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県 |
近畿圏不動産流通機構(近畿レインズ) | 滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県 |
西日本不動産流通機構(西日本レインズ) | 鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県 |
各機構は、担当エリア内の不動産情報の登録・情報提供を行い、地域の不動産流通の円滑化を図っています。
またそれだけでなく、各機構は相互に連携しており、全国の不動産情報を共有するシステムを構築しています。
全国4つのレインズがお互いに乗り入れ・接続しているイメージで、不動産会社はどこに所在していても、全国すべての情報にアクセスできます。
結果として、全国規模の大規模な情報ネットワークが形成されているわけです。
レインズはなぜ作られたの?
1980年代以前、不動産業界の不透明な体質や、囲い込みなど不正行為の蔓延が問題化していました。そこで、建設省(現在の国土交通省)が「21世紀への不動産業ビジョン」をとりまとめ、その中でレインズについても言及しました。
ざっくりいうと、小規模業者が多く、参入・退出率が高く(つまり入れ替わりが激しい)、世の中から信頼されていなかった不動産業(宅建業)を、より信頼性の高い産業へと発展させることが、当時の建設省の狙いでした。
実は1970年代以前には「大手不動産会社は新築、中小企業は中古流通」と棲み分けられており、中古流通部分が「暗黒大陸」とも評される、不透明な体質だったのです。
この暗黒大陸に、三井のリハウスなど大手不動産会社が切り込んだ経緯については、以下の記事で詳しく解説しています。
このように「不動産流通を正常化させる」という時代の要請を受けて、レインズが設置されることになりました。また、最近の法改正により、レインズの重要性はいっそう増しています。
21世紀への不動産業ビジョン(建設省)|J-Stage
媒介(仲介)契約とレインズ登録義務

法律の用語で、仲介契約を「媒介契約」といいます。媒介契約には主に以下の3種類があり、契約類型によってはレインズへの登録義務が異なります。
複数不動産会社と契約できる一般媒介ではレインズへの登録義務がなく、「1社だけと媒介契約を結ぶ」という場合は、必ずレインズに登録する必要があります。
つまり、1社だけに媒介を任せた場合には囲い込みされやすいため、レインズによってその囲い込みを防止しようという意図があるわけです。
しかしそれでも、法やルールの網目をかいくぐって囲い込みをする不動産会社もあります。
>>「囲い込み」について解説した段落にジャンプする場合はこちら。
次の章で、媒介契約の3つの類型とレインズへの登録義務について整理し、わかりやすく解説します。
媒介契約に関する宅地建物取引業法の規定と契約類型の選び方
項目 | 一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任媒介契約 |
---|---|---|---|
複数の不動産会社への依頼 | 可能 | 不可 | 不可 |
自己発見取引(自分で買主を見つけること) | 可能 | 可能 | 不可 |
レインズへの登録義務 | なし | 契約締結日の翌日から7日以内に登録 | 契約締結日の翌日から5日以内に登録 |
業務処理状況の報告義務 | なし | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
契約有効期間 | 制限なし | 最長3ヶ月 | 最長3ヶ月 |
媒介契約に関する規定は主に宅地建物取引業法の第34条の2に定められています。
上の表の通り、媒介契約には「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があり、それぞれ特徴とメリット・デメリットが存在します。
一般媒介契約
一般媒介契約は、複数の不動産会社に同時に仲介を依頼できる契約形態です。また、売主自身が直接買主を見つけて取引を行うこと(自己発見取引)も可能です。
この契約類型では、不動産会社に対する指定流通機構(レインズ)への登録義務や、売主への業務報告義務はありません。ただし、通常は一般媒介であってもレインズに登録します。「一般媒介だったらレインズに登録しません」という不動産会社は、そもそも信じるべきではないでしょう。
専任媒介契約
専任媒介契約は、1社の不動産会社のみに仲介を依頼する契約です。売主が自ら買主を見つけて取引を行うこと(自己発見取引)は可能ですが、他の不動産会社に重ねて依頼することはできません。
不動産会社は、契約締結日から7営業日以内にレインズへの物件情報登録が義務付けられ、2週間に1回以上の頻度で売主に販売活動の状況を報告する義務があります。
この契約類型では売却依頼先が1社に限定されるため、その会社の販売力に大きく依存する点がデメリットです。
専属専任媒介契約
専属専任媒介契約は、専任媒介契約と同様に1社の不動産会社のみに仲介を依頼しますが、売主が自ら買主を見つけて取引を行うことはできません。不動産会社は、契約締結日から5営業日以内にレインズへの物件情報登録が義務付けられ、1週間に1回以上の頻度で売主に販売活動の状況を報告する義務があります。
筆者は、この契約形態にメリットはほぼないと考えます。説明もなく専属専任媒介を推してくる不動産屋は信用しないでください。
結論として、一般媒介か専任媒介の2者択一であり、売却したい物件の特性に合わせて選択すべきです。物件ごとに適した契約類型については、以下の記事で解説しています。
レインズが提供する情報サービス

レインズは、現在流通している不動産の情報を広く公開しているだけではありません。
レインズには、全国の不動産業者から「成約情報」が寄せられ、膨大なデータベースとして保管されています。
我々プロはここからマーケットの動向を探り、また過去の取引の推移から、今後を予測する作業を行っています。
また一般の方向けに「自分の物件情報がちゃんとレインズに登録されているか」を確認する方法も用意しています。
不動産市場とその動向をつかめるレインズデータライブラリー

どちらかというとプロ向けですが、レインズは不動産市場に関する各種統計資料を公開しています。
このサイトは「レインズデータライブラリー」という名称で、以下のようなデータを公開しています。
月例マーケットウォッチ:毎月、不動産市場の最新動向をまとめたレポートが公開されています。
首都圏不動産流通市場の動向:首都圏における中古マンションや戸建住宅、土地の成約状況、新規登録、在庫状況などを、暦年(1月~12月)および年度(4月~翌年3月)別にまとめた資料が用意されています。
レインズデータライブラリー|公式サイト
上記は東日本レインズのサイトですが、他の3つのレインズ(中部レインズ、近畿レインズ、西日本レインズ)でも、同様のデータを公開しています。
ここで公開されるデータは「自分の不動産を今売ったらいくらなのか?」という判断には、あまり役に立ちません。それよりも、不動産市場がどのように推移してきたか、また将来どう動くかを考えるための重要な資料となります。
一般の人がレインズで過去の取引を調べる方法

レインズは不動産情報を広く流通させるだけでなく、過去の膨大な取引データを保存しています。不動産会社はそのデータを元に、不動産の価格査定を行います。
現在、一般の方でも「レインズ・マーケット・インフォメーション」を活用できます。
レインズ・マーケット・インフォメーション|公式サイト
このサイトでは、全国のマンションや戸建ての成約事例を閲覧でき、物件の所在地、価格、面積、築年数、成約時期などの情報を確認できます。
筆者としては、不動産の価格査定を依頼する際、あらかじめこのサービスで相場感を把握しておくことをおすすめします。個別の取引事情や物件の特性によって価格は異なるため、参考情報レベルにすぎないのですが、それでも「不動産屋が正しい査定を出しているのか?」と考えるときに役立ちます。
また、2024年4月からは、国土交通省が運営する「不動産情報ライブラリ(旧:土地総合情報システム)」でも、レインズのデータが反映された取引情報を閲覧できるようになっています。
こちらはスマートフォンでも操作しやすい仕様となっており、かなりおすすめです。
不動産情報ライブラリ|国土交通省
これらのサイトを活用することで、不動産の価格設定に際して主体的に判断することが可能になります。
「囲い込み」など悪質行為の防止と情報流通の促進

不動産業界における「囲い込み」とは、売主から売却の仲介を依頼された不動産会社が、物件情報を他社に共有せず、自社のみで買主を見つけようとする行為を指します。
なぜそんなことをするのかというと、売主と買主の双方から仲介手数料を得る「両手仲介」を増やし、収益を最大化することを狙っているからです。
具体的には、物件情報をレインズに登録しないとか、登録しても他社からの問い合わせに「もう申込が入りました」と嘘をついて紹介を断るなどの手口があります。
また、物件を囲い込まれると以下のようなデメリットがあります。
デメリット | 説明 |
---|---|
売却機会の損失 | 他の不動産会社に物件情報が共有されないため、潜在的な買主に情報が届かず、売却のチャンスを逃す可能性があります。 |
売却価格の低下 | 競争入札が行われないことで、適正価格より低い金額での売却となるリスクがあります。 |
売却期間の延長 | 買主が見つかるまでの期間が長引く可能性があり、売主の計画に支障をきたすことがあります。 |
もし専任媒介契約や専属専任媒介契約を結んでいる場合、不動産会社にはレインズ(指定流通機構)への物件情報登録が義務付けられています。
囲い込みが疑われる場合は、物件の売主に発行される「登録証明書」の交付(後述)を受け、物件情報が適切に公開されているか確認しましょう。
なお、不動産の囲い込みについて、詳しくは以下の記事を参照してください。
価格査定の正確性を担保する膨大なデータ
レインズに蓄積された豊富なデータは、不動産の価格査定において非常に重要な役割を果たします。
一般に不動産会社は、レインズの取引事例を基に、物件の所在地、面積、接道などの条件を考慮し、現在の市場動向を反映した適正な価格を導き出すことで価格査定を行っています。
さらに、近年ではレインズのデータを活用し、機械学習やAI技術を用いた高度な価格査定システムの開発も進められています。筆者がサイト運営を行うトーマ不動産(沖縄県)でも、AIを活用した不動産査定システムを導入していますし、大手不動産会社も採用しています。
トーマ不動産マガジン|公式サイト
ちなみにレインズのデータが蓄積されていない農地などの査定では、今でも手探りで価格を推定していく作業を行います。
筆者は農地を多く査定した経験を持つのですが、それだけにより一層「レインズのデータは重要だ」と痛感します。
ただし、レインズのデータを悪用(わざとイレギュラーな取引事例を元に査定するなど)ことで、あえて相場より高い査定書を出す手法も存在します。その点、以下の記事も参照してみてください。
不動産会社でなくてもレインズを見る方法
レインズは主に不動産会社が利用する情報システムですが、売主が「自分の物件がどのように登録されているか」を確認する方法もあります。
レインズ登録をした不動産会社に「登録証明書」を発行してもらい、以下の手順で確認します。
レインズ確認手順
登録証明書の受領
不動産会社から登録証明書を受け取ります。交付手段は、書面や電子メールなどがあります。登録証明書に記載されたIDとパスワードを確認します。
専用確認画面へのアクセス
レインズの専用確認画面にアクセスし、IDとパスワードを入力してログインします。
物件情報の確認
登録された物件情報に誤りがないか、適切に公開されているかをチェックします。購入の申し込みがないのに「申し込みあり」など虚偽の記載がないか確認してください。
レインズ証明書の発行について(PDF)
この手順を踏めば、売主は自身の物件情報がどのように管理・公開されているかを直接確認できます。また、不動産会社に登録証明書を請求することは「ちゃんとレインズ登録しないとまずいな」と感じさせ、確実にレインズに登録させる効果もあります。
もし登録証明書を発行してくれない場合は、媒介契約の更新をせず、他の不動産会社に変えるよう検討すべきでしょう。
まとめ「現代の不動産流通に欠かせないレインズ」

レインズ(REINS)は、不動産会社のみが利用できる情報ネットワークシステムであり、不動産取引の透明性を高めるために設立されたものです。国土交通大臣の指定を受けた4つの流通機構が運営し、全国の不動産会社が物件情報を共有できる仕組みを提供しています。
特に専属専任媒介契約や専任媒介契約では、物件情報を一定期間内にレインズへ登録する義務があり、不動産会社の「囲い込み」行為を防ぐ効果もあります。
また、レインズは過去の膨大な取引データを蓄積しており、不動産の価格査定にも役立っています。
一般の人でも「レインズ・マーケット・インフォメーション」や「不動産情報ライブラリ」を利用すれば、過去の成約事例を確認できます。さらに、売主は「登録証明書」を通じて自分の物件が正しく登録されているかチェック可能です。
不動産の売却を成功させるためには、レインズを活用する不動産会社を選ぶことが重要です。正しく運用されているか確認しながら、より良い取引を実現しましょう。