借地権付きの空き家を相続した場合、地主への報告義務から始まり、解体・売却・活用まで複数の重要ポイントがあります。処分方法を間違えると高額な費用負担や地主とのトラブルにつながるため、適切な対策が不可欠です。
借地権とは、他人の土地を借りて建物を建てる権利のことで、借地借家法によって保護されています。建物が存在する限り継続的な土地使用権が認められ、相続の対象にもなるという強力な権利です。
しかし借地権付きの空き家は今後も増加すると見込まれます。
2024年には最新の空き家数・空き家率が公表され、いずれも過去最高を更新しており、全国の空き家総数は約900万戸(899.5万戸)となり、過去最多となっています。特に2025年には、1947年〜1949年までのベビーブーム時代に産まれた団塊の世代のすべての方が後期高齢者を迎えることで、全人口の20%以上が75歳以上になるとされ、相続発生件数の急増が予想されています。
そんな時代を前に、私たちが借地権の空き家をどうすべきかを解説していきます。
借地権付き空き家を処分するための5つの方法

まず最初に、売却のみにとどまらない、借地権付き空き家の処分方法を整理しておきましょう。どうしても処分が難しい場合には地主に返却するという方法も含めて、主な処分方法を5つあげました。
地主の承諾を得て、一般の市場で売却するのが最も一般的な処分方法でしょう。ただ、地主が土地上の家を「自分で使いたい」と考えているような場合は、地主に借地権と建物をあわせて買い取ってもらうという方法もとれます。
第三者に売却する
一般の不動産市場で、第三者に売却するのが一般的な処分方法です。土地と借地権をあわせて売却します。
借地権を第三者に売却する場合、地主の承諾が必要ですが、適切な承諾料の支払いを前提とすれば承諾してもらえる可能性は十分あります。承諾料は地主の権利を保護するための対価であり、法的に認められた費用ですから、その点を認めて十分な価格を設定してください。
地主の承諾が必要な理由は、借地権者が変わることで地主の権利に影響を与える可能性があるからです。新しい借地権者の信用力や土地の使用方法について、地主が判断する権利があります。
譲渡承諾料は借地権価格×10%が一般的な相場です。借地権の譲渡の際には地主の承諾が必要で、地主が承諾するのと引き換えに、"承諾料"の支払が行われるのが一般的です。
地主の承諾が得られない場合、裁判所の許可を得ることで第三者への売却が可能になる場合もあります。
次の章で、一般的な借地権付き建物の売却手順を詳しく解説しています。
地主に買い取ってもらう
地主による買い取りは最も手続きが簡単で確実性の高い処分方法です。地主は借地権を解消することで土地の完全な所有権を取り戻せるため、双方にメリットがあります。
この方法の理由は、地主が借地権の負担から解放され、将来的な土地活用の自由度が高まるからです。地主にとって借地権は土地の価値を制限する要因であり、解消することで土地の有効活用が可能になります。
具体的な進め方として、まず地主に相談し、借地権の買い取り価格を協議します。価格は一般的に借地権価格の70~80%程度が相場となります。【例:2025年地価公示/東京都世田谷区砧6-12-8=487,000円/㎡】といった最新の地価データを参考に、適正価格を算出することが重要です。
ただし、買い取り価格が市場価格より低くなりがちな点には注意しておいてください。
底地と同時売却
底地所有者(地主)と共同で空き家を売却することで、借地権の問題を解消でき、より高い売却価格が期待できます。底地と借地権が一体化されることで、買い手にとって魅力的な所有権物件となるためです。
この方法が有効な理由は、借地権付き物件の最大の弱点である「土地の利用制限」が解消されるからです。借地でなく所有権の物件は住宅ローンの融資も受けやすく、その意味でも「買ってもらいやすくなる」というメリットがあります。
実際に売却を進める上では、底地所有者(地主)との事前協議が最も重要です。売却価格の配分比率を明確にし、売却活動を共同で進める必要があるからです。専門業者による価格査定などを通じて、借地権割合に応じた適正な配分を算出します。
ポイントは、地主との信頼関係構築と、不動産会社による専門的なサポートです。
賃貸物件として活用する
立地条件が良好な借地権付き空き家は、賃貸物件として継続的な収益(インカムゲイン)を生み出すことができます。初期投資を抑えながら資産価値を維持できる点が最大のメリットです。
賃貸経営が有効な理由は、空き家を放置するリスクを回避しながら、定期的な収入を確保できるからです。特に駅近や商業施設に近い立地では、安定した賃貸需要が期待できます。
実際の進め方として、まず建物の状態を点検し、必要に応じて修繕を行います。賃貸条件の設定では、周辺相場を参考に適正な家賃を設定します。地主への報告も忘れずに行い、賃貸運営について事前に相談しておくべきでしょう。
ただし、建物の老朽化が進んでいる場合は、修繕費用が収益を上回る可能性があるため、あらかじめ見積りを取った上で検討してください。
更地にして返還する
更地での返還は、他の活用・処分方法が取りづらい場合や、長期的な負担を回避したい場合に有効です。特に建物の老朽化が激しく、売却や賃貸が難しい場合に検討してみてください。
更地での返還は、解体費用はかかりますが、地主との契約関係を完全に解消できる最も確実な方法といえます。
解体費用は木造住宅で1坪あたり3~5万円が相場で、30坪の建物なら90~150万円程度が目安です。自治体によっては解体費用の補助制度があるので、この点は事前に調べておいてください。
解体業者の選定では、複数社から見積もりを取り、近隣への影響も含めて検討することが重要です。
借地権付き空き家を解体せずに売却する方法

借地権付きの空き家を処分するにあたって「めんどうだから解体して地主に返そう」と思っている場合、いったん立ち止まって収支を計算してみてください。
建物解体は思わぬ追加費用も心配です。できれば売却してしまうほうが有利ですから、まずは借地権に強い不動産会社を探すところから始めてみましょう。
解体する場合は想定外の費用がかかる心配も…
解体費用は建物の構造や立地条件によって大きく変動し、想定外の費用増加リスクもあります。同じような構造の建物でも、査定してみないとわからない問題も多数存在します。
解体費用が高額になる理由は、建物の構造や周辺環境、廃材処理費用などが複合的に影響するからです。特に古い建物では、アスベストや鉛などの有害物質の処理費用が追加で発生する可能性があります。
木造住宅の場合、1坪あたり3~5万円が相場ですが、鉄骨造では4~6万円、鉄筋コンクリート造では6~8万円と構造によって大きく異なる点にも注意が必要です。さらに、狭小地や道路から離れた立地では、重機の搬入が困難で費用が割増になるケースもあります。
リスク要因として、近隣住民への騒音・振動対策費用、予期しない地下埋設物の発見、廃材処理費用の変動などが挙げられます。
そういった点を考えると、解体するより売却してしまった方が有利といえます。
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解体せずに売却する方法
一般的には、現状のままでの売却が第一の選択肢となります。
現状のまま売却することで、解体によるリスクや費用負担を回避しつつ、空き家を処分することができます。買い手にとっても、自分の用途に合わせた活用が可能になるメリットがあります。
買い手が建物の再利用やリノベーションを通じて、自分なりに住みやすい家に改装することが一般化しつつあります。特に最近では、古民家再生やリノベーション物件への需要が高まっています。
具体的な販売戦略として、建物の現状を正確に開示し、買い手の用途に応じた提案を行うことが大切です。解体費用相当分を売却価格から差し引いた設定にすることで、買い手にとって魅力的価格設定になります。
地主との事前協議では、新しい買い手による建物の活用方法や、将来的な建て替え計画について説明し、承諾を得ておくようにしてください。
ここからは、借地権付き空き家を売却する流れとコツを紹介します。
解体せずに借地権付き空き家を売却する流れとコツ

借地権付きの空き家を売却する場合のポイントはふたつ。
- 地主との良好な関係を築く
- 借地に詳しい不動産会社を見つける
上記2点に気をつけるだけで、成功の確率がグンとアップします。
地主との関係を築いておく
地主との良好な関係が売却成功のカギを握ります。事前に丁寧な説明を行うことや、日ごろからの信頼関係があることで、売却がスムーズに進みます。
場合によっては、相談をするなかで、地主本人が買取たいと考える可能性もあります。
また、地主の協力が不可欠な理由は、借地権の譲渡には地主の承諾が必要であること。地主が協力的でない場合は売却がかなり大変になります。地主にとっても、新しく優良な借地権者が決まることで、長期的な安定収入を確保できるメリットがありますから、その点も説明しておきましょう。
またこの時点から借地権に強い不動産会社が協力してくれれば、交渉をスムーズにすすめやすくなります。
沖縄県であれば、当社と提携しているトーマ不動産がおすすめです。また、東京の多摩エリアであれば、同じく提携しているクラシエステート株式会社がおすすめです。
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その他のエリアの場合は、大手不動産会社のみに相談・査定依頼ができる「タクシエ」というサービスを利用してみてください。タクシエは三菱地所の関連会社が運営しており、信頼性が高いのが特徴です。
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適切な価格設定と買い手の探索
借地権物件の価格査定は気をつかう作業です。慣れた不動産会社でないと難しいでしょう。
価格設定の具体例として、同エリアの完全所有権物件の70~80%程度を目安に設定する方法も考えられます。ただし、駅近などの好立地では、借地権の割合が高くなる傾向があります。また、エリアによって借地権割合は大きく異なるため「そのエリアの借地権の状況に詳しい」という点も、不動産会社選びのポイントになります。
そこで、信頼できる不動産会社に依頼して市場相場を正確に把握することからスタートしてください。そのうえで、借地権の特性を理解する買い手を見つけることが成功の鍵です。この点も、借地権物件の特徴を適切に説明できる不動産会社との連携がカギを握ります。
買い手探しでは、借地権のメリット(初期費用の低さ、固定資産税の負担軽減)を理解する顧客層をターゲットにします。特に投資目的の購入者の中には、借地権物件のメリットを評価している人が多い傾向があります。
Q&A:借地権の空き家を巡るトラブルと解決策

最後にトラブル対応の注意点や、押さえておきたい交渉ポイントなどをQ&A形式にまとめました。
地代や承諾料を巡るトラブル
地代の値上げや高額な承諾料の請求といった問題は、最も一般的なトラブルです。ただし交渉方法や対処方法を誤らなければ、多くの場合問題を解決できます。
地代トラブルが発生する理由としては、長期間にわたる経済情勢の変化により、当初の地代設定が現実とかけ離れていることがあげられます。地主側は地代を上げたいし、借地権者側は負担増を避けたいと考えるため、利害が対立します。
これについては経験豊富な不動産会社が、データを明示しながら適切な地代設定を出すことで解決できる可能性があります。
譲渡承諾料は借地権価格の10%が一般的な相場ですが、地主によっては高額な承諾料を要求する場合があります。また建て替え承諾料の相場は、更地価格の3%~5%程度とされていますが、これらの相場を無視した承諾料請求もあり得ます。
解決策として、まず契約書の条項を確認し、地代改定や承諾料に関する規定を把握します。それでも難しそうな場合は、弁護士に相談するのがベストでしょう。まずは市町村の無料法律相談などを利用して、考え方を整理し、方針を出すところから始めましょう。
売却時の地主との交渉ポイント
地主との交渉では、お互いの立場を重視し、双方にメリットがある提案を行うことが成功の秘訣。一方的な要求ではなく、地主の立場も考慮した提案を行うことで、円滑に合意できる確率がアップします。
具体的な交渉ポイントとして、新しい借地権者がどんな人かを早めに説明しておき、地主の不安を解消することがあげられます。承諾料の支払いについても、相場に基づいた適正な金額を提示し、一括払いなど地主にとって有利な条件を検討してみてください。
ところで空き家特例とは何ですか?
空き家特例(被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除)は、相続により取得した空き家の売却時に譲渡所得から3,000万円を控除できる制度です。適用には、旧耐震基準の建物であることや、相続開始から3年以内の売却などの条件があります。
そもそも借地権とは何ですか?
借地権とは、他人の土地を借りて建物を建てる権利です。土地の所有者(地主)と契約を結び、地代を支払って土地を使用します。借地借家法により保護され、建物が存在する限り継続的な使用権が認められます。
借地権について、詳しくは以下のサイトがおすすめです。
借地権と私道|トップページ
空き家の解体費用はどのくらいかかりますか?
解体費用は建物の構造や立地により異なりますが、木造住宅で1坪あたり3~5万円が相場です。30坪の住宅なら90~150万円程度が目安となります。アスベストなどの有害物質がある場合は追加費用が発生します。
ただし、個別の物件によってかなり大きく違ってきますので、早めに見積りを取っておくことをおすすめします。
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まとめ

借地権付きの空き家を相続した場合、適切な処分方法を選択することで、費用負担を抑えながら問題を解決できます。2025年の大相続時代を迎え、空き家問題はさらに深刻化する中、早期の対策が重要といえるでしょう。
借地権付き空き家の処分方法は主に、第三者への売却、地主への買い取り打診、底地との同時売却、賃貸活用、更地返還の5つがあげられます。それぞれにメリット・デメリットがあり、物件の立地条件や建物の状態、地主との関係性を総合的に判断して選択する必要があります。
特に解体費用の負担を避けたい場合は、現状のまま売却する方法が有効です。地主との信頼関係構築と、借地権の特性を理解する買い手探しが成功の鍵となります。
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