不動産屋さんから重要事項説明を受けたけれど、よくわからない。重要事項説明書を受け取ったけど、どこが要点かわからない。そんな心配はありませんか?
でも内心では「これは何のことを言っていたのだろう?」「どこが要点だったのだろう?」と疑問を持つ人が大勢いると思います。
この記事では明日にでも宅建士の重要事項説明を受ける人のために、重要事項説明書と売買契約書の最低限の注意点を解説します。
ポイント
不動産の売買契約では、重要事項説明書と売買契約書というふたつの重要な書類を作成します。どちらかというと重要事項説明書にはその不動産の要点、売買契約書には「こんな契約を結びます」ということが書かれています。
重要事項説明の最重要点は?
今回の記事は初心者向けに解説しています。書いてあるのは「もうすぐ重要事項説明を聞く」という方に、最低限記憶しておいてほしいことだけです。テストでいえば一夜漬けでヤマをはるような感じです。詳細は飛ばして、とにかく危険な箇所だけに焦点を当てているので、余力がある人は下記の記事もあわせて読むことをおすすめします。
参考【不動産売買】重要事項説明書の読み方<完全版>土地・一戸建て・マンション
超重要なポイントに絞って解説します
重要事項説明書(重説)と売買契約書(売契)はワンセットで考えるべきものです。この記事でも重要事項説明書をメインとしながら、一部では売買契約書にも言及しています。
ここでは国土交通省標準契約約款に基づいている宅地建物取引業協会のフォーマット(土地売買用)を例に、重要事項説明書の構成をみていきます。重要事項説明書には法律で定められたことを書くので、その他のフォーマットを利用していても、順番が違うだけで書いてある内容はだいたい同じです。
ページ | 記載内容 |
1 | 表示・取引を仲介する宅建業者について |
2 | 登記簿表題部に記載された事項・測量図について |
3 | 登記簿権利部に記載された事項・第三者占有 |
4 | 主に都市計画法に基づく制限 |
5 | 主に建築基準法に基づく制限 |
6 | その他の法令に基づく制限の概要・私道負担 |
7 | その他の法令に基づく制限・インフラ関係 |
8 | 取引の内容確認・契約の解除について |
9 | 手付金保全措置等(主に宅建業者に課せられた制限) |
10 | 添付書類・その他の事項 |
11 | 売主・買主の署名押印欄 |
これを頭から読んで聞かされると理解しにくいのですが、最も重要なのは4ページ目の「都市計画法に基づく制限」と5ページ目の「建築基準法に基づく制限」および、10ページ目の「その他の事項」です。もちろん重要事項説明書は全体的に重要なのですが、この3つのポイントを抑えてメリハリをつけて聞いた方がよいと思います。
都市計画法に基づく制限
ものすごく大切で、絶対に見ておきたいのは都市計画法上の「区域区分」です(特に田舎の場合)。ここは本来、重要事項説明を行う方も聞く方も、結構な知識を要求されるはずなのですが、法律ではとりあえず「説明すればよい」というアバウトな規定なので、現場の運用もアバウトです。
まず、区域区分の説明でどこにチェックがあるかを見てください。超ざっくり説明すると以下の表のようになります。
都市計画区域内の市街化区域 | ◎ | 都市計画法上再建築できる可能性が高いです |
都市計画区域内の市街化調整区域 | △ | 建築(再建築)できるかどうか要注意です |
準都市計画区域 | ○ | 市街化区域に近い条件です |
都市計画区域外 | ◎ | どちらかというと制限が緩いエリアです |
細かいことをいうと非常に論点が多いのですが、ひとことで言うとすれば「市街化調整区域」には気をつけましょう! ということになります。
市街化調整区域は「市街化を抑制しよう」という区域なので、基本は建築(再建築)不可です。不可ではあるけれど、緩和される条件があり、そのおかげで建築(再建築)が可能になっているはずです。つまり、緩和条件に該当しなければ、建築許可(開発許可)がおりません。
都市計画制限や用途地域、建ぺい率や容積率の制限も重要ですが、区域区分に比べると少しだけ気が楽な論点です。ただし「どういった建物が建築できるか」というイメージがわかない場合は、説明をする宅建士に質問をしてください。
市街化調整区域については以下の記事も参考になります(少し上級者向けです)。
参考【激安不動産】お宝が眠る(かもしれない)市街化調整区域入門
建築基準法に基づく制限
ここはまず「敷地と道路の関係による制限」の部分を、目を皿にしてチェックしてください。できれば道路の種類が「ア.建築基準法42条第1項1号の道路」であってほしいのですが、イ~オでも建築(再建築)可能なのでOKです。
「カ.同条第2項道路」の場合はセットバックが必要になる可能性が高いですが、まずまずOKです。
「キ.建築基準法第42条の道路に該当しません」という場合は要警戒です。
ポイント
建築基準法第42条の道路に該当しないが再建築できる、と説明されて売買に臨んでいる場合。これはすなわち「建築基準法43条の認定または許可を得る」などして再建築できるという意味ですが、43条の許可は申請後に特定行政庁から許可されてはじめて安心できるものです。こういった物件を契約するときは、契約書の特約条項に「万が一建築が許可されないときは契約を解除できる」等の規定を入れておいてください。重要事項説明書は売主側の宅建士が作ることが多いのですが、売主の立場を優先すると、こういう特約が入っていないケースがあります。次の章で出てくる事例が、まさにそれです。
接道に関しての詳細は、以下の記事で解説しています。長いのですが、この記事を頭に入れておけば「重要事項説明書を理解する」レベルなら十分以上だと思います。
参考【接道義務】土地がどんな道路に接していれば建築できるかまとめ
レアケースですが、道路の種類が「ア.建築基準法42条第1項1号の道路」なのに幅員が4mを切っている場合、都道府県によっては超キケンです。東京都や大阪府ではセットバックすれば建築可能ですが、沖縄県では建築許可がおりません。その他の都道府県の場合も細心の注意を払ってください(調べた範囲では沖縄県以外は建築そのものは認められるようですが、漏れがあるかもしれません)。
「その他」が実は重要
重要事項説明書の最後のほうにある「その他」と売買契約書の「特約条項」に、大体同じ内容を入れる業者と、全然違う内容を入れる業者があります。いずれにせよ、その両方をあわせて読んでおいてください。
「その他」や「特約条項」には、通常の条文に入っていない「この物件に特徴的な事柄」が盛り込まれます。だからふたつの意味で重要なのです。
- 宅建協会が作った定型部分は弁護士もチェックしているので安心。しかし特約条項は法律素人の事務員が書いていたりするので、問題があるかもしれません。
- 定型部分に収まらない内容を「その他」や「特約条項」に入れ込みます。ということは、その物件特有の危険なポイントがあるかもしれません。
以下は実際に存在する特約条項の一部です。
<容認事項> 買主は、次の点を予め確認し、容認するものとします。 1.本物件は建築基準法に定める接道義務を満たしていないため、原則として建物の新築、増改築はできないこと。 2.ただし、建築基準法第43条第1項但し書きの規定に基づき、特定行政庁が建築審査会の同意を得て許可したものについては、この限りでなく、本物件においては別紙「沖縄県建築審査会の審議の特例」の適用により、建物の新築、増改築が可能との見解を得ていること(XXX土木事務所XX氏見解)。 3.建築審査会の構成によっては異なる見解になることもあり得ること。
「異なる見解になることもあり得る」ということは、建築できない可能性もあるということです。建築主事がいる省庁で建築(再建築)が許可されるという見解を得ているので、概ね大丈夫だろうといえますが、役人が口頭で述べたことの責任を取ってくれるわけではありません。その行政の判断は、いつ覆ってもおかしくありません。
土地の場合は特約に「万が一43条の認定や許可が得られなかった場合は契約を解除できる」と書くようにしてください。でないと建築できなかったときに誰にも責任を問えなくなります。中古戸建ての場合はいつ再建築するかわからない以上そんな特約を付けられないので「それでも買う判断をするか?」と、もう一度よく考えてみてください。
この点に関しても、以下のリンク先の記事が参考になります。
参考【接道義務】土地がどんな道路に接していれば建築できるかまとめ
最後に宅建士の立場でいいわけを
実は重要事項説明書と売買契約書を、頭からしっかり読んでいくだけで1時間や1時間半は普通にかかってしまいます。これをお客さんに飽きずに聞いてもらう……というのもけっこうしんどいのです。
これまでの経験上「重要事項説明書に何が書いてあるか」を勉強してから契約にのぞむお客さんは極めてまれでした。そうなると、「ご質問があればいつでもストップして尋ねてくださいね!」と言っておいても、なかなか質問も出てきません。
そういう状況になれてしまうと、宅建士もだんたん「とにかく頭から流して読んでおくか」という風になっていくのだと思います。不動産の重要事項説明を聞くことになったら、ぜひここであげたポイントだけでなく、色々と勉強しておき、鋭い質問をしてあげてください。
そうやって宅建士に緊張感が取り戻されると、業界もいい方向に向かいそうな気がします。