市街化調整区域の土地は「建物が建てられない」「売れない」と思われがちですが、そうとは限りません。
確かに市街化区域と比べて制限は多いですが、法規制と自治体の条例をクリアすれば、十分に活用できる資産になります。
市街化調整区域内の不動産売買において、成否を分けるのは「不動産物件調査の質」です。
建築許可が下りる見込みがあるか、どのような用途で活用できるか……こういった「出口」を明確にできれば、売買は成立します。逆に、この見通しが立たないまま取引を進めると、契約後のトラブルや想定外のコスト負担に苦しむことになります。
本記事では、10年以上にわたり市街化調整区域の取引に携わってきた筆者の実務経験をもとに、売買を成功させるための具体的な知識と戦略をお伝えします。
市街化調整区域の売買における「3つの壁」

市街化調整区域の土地売買では、3つの大きな障壁があります。それは①建築制限、②住宅ローン、③インフラコストです。これらをクリアできるかどうかが、取引の成否を決めるといっても過言ではないでしょう。
建築制限という第一の壁
市街化調整区域は「市街化を抑制すべき区域」として定められているため、原則として建築が禁止されています。ただし、都市計画法第34条と第43条に基づく許可制度があり、一定の条件を満たせば建築が可能になります。
都市計画法第34条の主な例外規定(11、12号)
11号(条例指定区域)では、自治体が条例で指定した区域内であれば、既存集落との連続性などの条件を満たすことで住宅建築が認められます。多くの人が建物を建てられる可能性がある点で、売買しやすい土地といえます。
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12号では、分家住宅やその地域に長期居住している親族のための住宅など、特定の「人」に対して許可が下ります。これを「属人性」といいます。
属人性のある土地は売買が難しい
実務上注意が必要なのが、建築許可に際して属人性のある土地です。前の所有者は建築できたけれど、新しい買主は再建築できないというケースがあるからです。
たとえば、分家住宅として建てられた建物がある土地を購入しても、買主が分家の要件を満たさなければ建て替えができません(都市計画法第34条12号)。こういった土地は、重要事項説明書で必ず「どのような許可で建築できるのか」を明記する必要があります。
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はやめに重要事項説明書を見ておく
市街化調整区域の土地を購入する場合、重要事項説明書と売買契約書は契約当日ではなく、数日前には受け取るようにしてください。多くの不動産会社は契約当日に書類を渡しますが、市街化調整区域は複数の法律が絡むため内容が複雑です。どうしても間に合わない場合は、ドラフト(下書き)をメールで送ってもらい、事前に確認しましょう。
既存宅地制度の廃止と経過措置
平成13年の法改正で「既存宅地」の制度は廃止されました。改正前は、一定の要件を満たせば建築できる宅地として扱われていましたが、現在は各自治体の経過措置や提案基準に基づいて個別に判断されます。
一部では、沖縄県のように独自の条例で既存宅地制度を許可制として残している自治体もあります。
筆者の経験としては、地目が「畑」だったため他社が建築不可と判断して安く売り出していた土地を調査したところ、宅地課税されていたため既存宅地として扱われ、アパート建築も可能だったケースがありました。
このように、自治体によって運用が大きく異なるため、「市街化調整区域だから建てられない」と安易に諦めるのはもったいないことです。とことん調べてダメだと分かるまで調査するのが正解です。
住宅ローンという第二の壁
建築許可の見通しが立っても、次に立ちはだかるのが融資の問題です。市街化調整区域の土地は担保評価が低く、住宅ローンが組めないケースが少なくありません。
メガバンクは原則として慎重
三菱UFJ銀行や三井住友銀行などのメガバンクは、「建物が再建築可能であること」を融資条件としますが、流通性が低い市街化調整区域の土地は評価額が売買価格を大きく下回るか、門前払いになることがあります。
フラット35は可能性あり
住宅金融支援機構のフラット35は、接道義務などの建築基準法を満たしていれば、市街化調整区域であっても融資対象になるケースも多く見受けられます。
地方銀行・信用金庫が狙い目
その地域に根ざした金融機関であれば、独自の評価基準を持っており、市街化調整区域でも積極的に融資を行うケースがあります。特に市街化区域に近く条件が良い土地であれば、市街化区域と変わらない価格で売買され、銀行の担保評価も高くなり、ローンが組みやすくなるケースもあります。
一方で、市街化区域から相当離れていて不便な場所や、今後インフラが整備されるか分からない地域では、担保評価が低くなりがちです。こういった場合、買主は自己資金を多めに用意する必要があるでしょう。逆に、売りたい場合は専門の買取業者に打診した方が早い場合もあります。
インフラコストという第三の壁
市街化調整区域の土地は、目先の価格の安さに隠れたコストの把握が重要です。
上下水道の引き込み費用
上下水道が未整備の場合、前面道路からの引き込み工事に数百万円かかることがあります。浄化槽の設置費用も自己負担です。
筆者が実際に経験したケースでは、沖縄県の海沿いでオーシャンビューの優れた景観の土地がありましたが、水道本管まで3km以上離れていました。水道を引けないわけではありませんが、3kmもの距離をどう引くかという問題があり、費用が膨大になるため現実的ではありませんでした。
電気は電力会社が費用負担して引き込んでくれることが多いですが、水道は公営なので簡単には引いてもらえません。自治体の予算や計画に左右されるため、短期的な見通しが立ちにくいのが実情です。
受益者負担金
下水道整備時に1回だけ支払う負担金です。自治体によって金額が異なりますが、事前に確認しておかないと想定外の出費になります。
とはいえ、調整区域では下水道が整備されていないこともよくあります。その場合、下水道に関する費用は負担しなくてもかまいませんが、浄化槽を設置するなどの費用が発生します。
道路の状況
市街化調整区域でも建築基準法上の接道要件はあります。田舎の方に行くと、目の前の道路が建築基準法上の道路ではないという例も多いため、どのような道路に接しているかの調査は重要です。
一方で、市街化区域に近い比較的便利な場所にある市街化調整区域内の土地であれば、道路はきちんと市町村道になっていることも多く、インフラ面でのリスクは比較的低いといえます。
【売主向け】手放せない土地を「売れる資産」に変える戦略

市街化調整区域の土地を売却する場合、一般的な不動産売却とは異なる戦略が必要です。買主を絞り込み、土地の特性に合った売却方法を選ぶことで、「売れない」と思われていた土地でも買い手が見つかります。
ターゲットを絞り込む
市街化調整区域の土地は、誰にでも売れるわけではありません。購入後の活用方法が限られるため、買主のニーズと土地の特性がマッチする相手を見つけることが重要です。
隣地所有者
最も有力な買主候補は隣地所有者です。隣接地と一体で利用できれば、開発許可のハードルが下がる場合があります。また、農地の場合は農業従事者でなければ購入できないため、近隣の農家が主なターゲットになります。
特定の事業主
都市計画法第34条では、コンビニエンスストアなどの日常生活に必要な店舗や、ドライブイン、給油所といった特定の用途であれば建築が認められる場合があります。
ただし、法律上は建てられそうでも、実際に役所から許可が下りるかどうかは別問題です。かなり高いハードルがあるため、「コンビニが建てられますよ」と軽く説明して売却すると、後でクレームになる可能性があります。市街化調整区域に詳しい不動産会社に仲介を依頼し、問題のない契約書を作ってもらう必要があります。
農地転用を視野に入れた売却活動
地目が「農地」の場合、農地法第5条の転用許可が必要です(農家ではない一般の人に売る場合)。この手続きには1か月から2か月、場合によってはそれ以上の期間がかかります。
農業振興地域内の農地は売却が難しい
農業振興地域(農振地域)に指定されている農地は、ほぼ売却は難しいと考えた方が良いでしょう。農家の人しか買えないため、買い手が非常に限られます。実際に売却を仲介したことがありますが、非常に時間がかかりました。
農振指定が外れている場合は、農地転用をして売買という可能性もありますが、これも相当ハードルが高く簡単ではありません。価格としては宅地見込み地の価格になるため、農振が外れていても安く、農振が指定されていればさらに安い価格になります。
優秀な行政書士を見つける事の重要性
農地転用には行政書士の力を借りたいところですが、優秀な行政書士を見つけるのは非常に難しいのが現実です。行政書士は業務範囲が広いため、農地転用に関する専門性や経験値には大きなばらつきがあります。
私が沖縄県の北部で依頼していた行政書士は、元々市役所の職員で、農業関連の部署に長く勤務し、農業委員会の担当も長年やっていた方でした。こういった経験豊富な人を見つけると、一見無理かと思われた案件でも農地転用ができる可能性が出てきます。
ただし、そのような優秀な行政書士はめったにいませんし、出会える機会も限られます。現実的には、農地転用をたくさん手がけている不動産会社を入り口にして、そこから紹介してもらうという流れが良いでしょう。
専門買取を検討すべきケース
属人性が強い土地や、インフラが未整備で開発コストが高額になる土地は、一般の買主を探すより専門の買取業者に売却する方が早く確実です。
買取価格は市場価格より低くなりますが、買主を探す時間と労力、売却後のトラブルリスクを考えれば、合理的な選択肢といえます。特に相続などで急いで現金化したい場合や、遠方に住んでいて土地の管理が負担になっている場合は、買取を積極的に検討すべきです。
【買主向け】安易に購入して後悔しないためのチェックリスト

市街化調整区域の土地は価格が安いため魅力的に見えますが、安易に購入するのは禁物です。以下のチェックリストで、購入前にリスクを洗い出してください。
ハザードマップと地盤の状態
市街化調整区域は未開発地が多いため、災害リスクが高い場合があります。購入前に必ずハザードマップで浸水リスクや土砂災害警戒区域に該当しないか確認してください。
また、地盤の状態も重要です。軟弱地盤の場合、建築前に地盤改良工事が必要になり、数百万円の追加費用がかかることがあります。
将来の資産価値を見極める
市街化調整区域の土地は流動性が低いため、1か月や2か月といった短期間での転売は困難です。長期保有を前提に、将来的な資産価値を慎重に見極める必要があります。
市街化区域に近い土地は有利
市街化区域に近く、将来的に市街化区域に編入される可能性がある土地であれば、資産価値の上昇が期待できます。自治体の都市計画マスタープランで、将来の土地利用方針を確認してください。
インフラ整備の予定
上下水道や道路などのインフラ整備が計画されている地域であれば、将来的に利便性が向上し、資産価値も上がる可能性があります。自治体の都市計画課で確認しましょう。
自治体独自の条例を確認する
市街化調整区域の規制は、自治体によって大きく異なります。国の法律だけでなく、都道府県や市町村の条例を必ず確認してください。
34条11号区域の確認
都市計画法第34条11号に基づく条例指定区域であれば、比較的自由に建築できる可能性があります。自治体の都市計画課で、購入予定地が条例指定区域に該当するか確認してください。
既存宅地の経過措置
前述のとおり、沖縄県のように既存宅地制度を独自の条例で残している自治体もあります。同じ感覚で別の都道府県の土地を購入しようとすると、法令が全く違っていて建築できないということになりかねません。
全国一律のルールではないため、購入予定地の自治体ごとに条例を確認することが決定的に重要です。
開発許可の見通しを立てる
市街化調整区域では、都市計画法第29条に基づく開発許可がほぼ必須です。市街化区域では、3大都市圏などでは1000平米以上の開発行為に開発許可が必要ですが、市街化調整区域では原則として必要なのです。
そう考えると、かなり厳しいルールが課されているわけです。
こういった点もきちんと押さえた重要事項説明をしてくれる不動産会社を選ぶのが良いでしょう。
購入する場合は、本当に開発許可が下りるのかどうか、できれば建築確認申請を担当する建築士と一緒に役所でチェックするという対応が必要になります。
信頼できる「実務に強い」パートナー選びが不可欠

市街化調整区域の売買を成功させるには、専門知識と実務経験を持ったパートナーの存在が不可欠です。一般的な不動産会社では対応しきれない法的解釈や自治体との調整が必要になるからです。
不動産会社の実力が試される領域
市街化調整区域の取引は、不動産仲介業者の真の実力が問われる領域です。都市計画法、建築基準法、農地法といった複数の法律が絡み、さらに自治体ごとの条例や運用が異なるため、専門知識と経験値が成否を分けます。
市街化調整区域に詳しい仲介業者であれば、かなり実力があると判断できます。それくらい、この分野は難易度が高く、実力のバロメーターになるといえます。
こんな専門家の力を借りられれば安心
市街化調整区域の売買では、以下の専門家との連携が必要になる場合があります。
建築士 建築確認申請や開発許可の見通しを立てるため、市街化調整区域の建築に精通した建築士の協力が必要です。
行政書士 農地転用や開発許可の手続きに必要です。前述のとおり、農業委員会や都市計画課での勤務経験がある行政書士が理想的ですが、見つけるのは容易ではありません。
土地家屋調査士・測量士 境界確定や分筆が必要な場合に必要です。
税理士 相続や贈与、譲渡所得税の計算など、税務面での相談が必要な場合があります。
これらの専門家を個別に探すのは大変なので、信頼できる不動産会社を入り口にして、そこから紹介してもらうのが現実的です。
最後に
市街化調整区域の土地は、確かに制限が多く取引のハードルは高いですが、「売れない」「建てられない」と決めつけるのはもったいないかもしれません。法規制を正しく理解し、自治体の条例を確認し、信頼できる専門家と連携すれば、十分に活用できる資産になります。
大切なのは、目先の価格の安さに惑わされず、「許可の見通し」という出口戦略を明確にすることです。とことん調べてダメだと分かるまで調査する姿勢が、市街化調整区域の売買を成功に導きます。