不動産業界には「専任返し」という言葉があります。
この記事ではその理由を説明するために、専任返しにおけるふたつの代表パターンをご紹介します。
「専任返し」を超かんたんに説明すると?
「専任返し」をかんたんに説明すると、格安でいい物件を買主に紹介し、転売する時に「専任媒介」で売出しを任せてもらうことをさします。
不動産業者としては、
- 買主に紹介する時に手数料をもらえる
- 買主がまた売る時に手数料をもらえる
という、2回目の仲介手数料が約束される取引。かなり魅力的です。
なお、媒介契約(仲介契約)など不動産売買の基本については、以下の記事で詳しく解説しています。
「共同仲介」「片手」「両手」「専任」「一般媒介」など不動産売却の基礎知識|関連記事
新築分譲メーカーによる、普通の専任返し
新築分譲を行う建売メーカーは、常に商品化するのによい土地を探しています。土地の仕入れには特別の担当者がいることも多く、仕入れ担当者は不動産仲介業者を回ったり、密に連絡を取って、分譲住宅を建てたらすぐに売れて、儲かりそうな土地を探しています。
不動産業者から土地仕入れ担当者には、そんな電話がかかってきます。そのおかげで、仕入れは円滑に進み、分譲住宅の商品化が着々と進んでいきます。
建売住宅が完成したら専任返しでお返し
建売住宅のメーカーは、よい土地を紹介してくれた不動産仲介業者にお礼の意味を込めて専任返しをするわけです。
建売住宅メーカーの専任返しは3か月間で、その間に売れなければ一般媒介に移行します。ほとんどの建売住宅メーカーでは、専任返しを含めた不動産仲介業者への対応を行っています。
不動産買取業者による専任返し
不動産買取業者も、良物件を紹介してくれた不動産仲介業者に専任返しで報いることがあります。これも、普通に仲介している分には問題がありません。
こういうケースで買取り業者に紹介し、現金で即買取ってもらった場合。これは誰も損をしていない、問題のない買取りですし、それに対して買い取り業者が仲介業者Aに専任返しでお礼をしても、誰も責める人はいません。
囲い込み+買取り業者+専任返しはワルい組合せ
囲い込み行為についてはいくつかの観点から記事を書いています。ざっくり概要を理解していただくとしたら、次の記事が参考になると思います。
参考不動産の囲い込み行為とは? 囲い込みを防止する方法も紹介
囲い込み行為というのは、専任媒介などで物件を預かった業者が情報を囲い込んでしまい、他社に紹介せず売らせないという行為。売り手のみならず、買い手も自社でみつけることで、売・買双方からの仲介手数料をもらおうという、自己中心的な行為です。
宅建業法に違反しているので悪質な行為なのですが、仲介手数料を2倍にできるという魅力が大きいため、今でもよく見かけます。
この囲い込み行為の中でも悪質なのが、自社で売ることさえせず抱え込み、物件を干す行為。売りさえしない、というのは一見すると無駄な行為のようにも思えますが、そうではありません。
ウラにはちゃんと意図があるのです。
その意図は、売主を弱らせて「誰でもいい、安くてもいいから早く買ってほしい」という状況を作ることにあります。
確認しておくと、囲い込み行為は、仲介手数料を2倍にしようというルールに違反した行為でした。
ところが、専任返しを狙う悪質な囲い込み行為では、仲介手数料を4倍にすることを目的としています。
買取り業者に激安で物件を流すために売主を干す。そのための囲い込み行為は、考えられる中でも最悪の囲い込みです。その結果、一種のキックバックとして返される専任返しは、ワルい専任返しだといえます。
というわけで、物件売却中の方は買取り業者が登場した時点で警戒度を上げてください。買取り業者が「高く買い取る」ということはビジネスモデル上ありえませんので、そういう点を正直に言ってくれる場合を除いては、あまり信用すべきではありません。
また不動産仲介における囲い込み行為については、以下の記事で詳しく解説しています。
不動産一括査定サイトの功罪
このような広告を見たことはありますか?
こういう広告はだいたい不動産一括査定サイトに誘導するためのもの。いかにも「私の自宅が通常より高く売れるのか!」と思わせる雰囲気ですが、それはウソです。
不動産一括査定とは、単に複数社に査定を出してもらえるサービスです。査定は「見積もり」とは違い、相場ではいくらでうれるか? を推定しただけの数字です。
今となっては不可欠だが問題も生んでしまった一括査定
不動産一括査定は次のような仕組みで運営されています。
査定依頼をする売主が情報を入力すると、一括査定サイトは最大6社にその情報を送信します。各不動産会社は情報料(1件15,000円くらいのことが多いです)を支払って、その情報を購入しています。
各不動産業者はライバル同士ですから「ウチのほうが高く売れる」というアピールをせざるを得ず、実際より高い査定書を出すことが横行しています。
駅前の不動産屋に1軒1軒飛び込みで回る……という時代より効率的ですが、「ウソ査定書を増やしてしまった」という問題が生まれてしまったのです。
一括査定サイトで不動産業者間の競争が激化し、消費者をぬか喜びさせる高額査定を出す習慣が定着してしまった。
不動産一括査定サイトについてさらに深く知りたい方は、以下の記事を参照してみてください。
参考家の査定がネットでできる!不動産一括査定のメリットとデメリット
不動産業界の構造的な問題
ここまで見てきた問題の背景には、不動産業が「仲介とったもん勝ち」という構造になっていることがあげられます。
消費者には、不動産屋の査定額を盲信するのではなく、自分でも価格を概算できる知識が求められるようになってしまいました。
時間のある方は以下の記事を参照しながら、自分の不動産の価格を概算してみてください。概算で十分ですから「自分で価格を出せる」ということが大切です。
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自分でできる不動産査定。自宅や土地の大まかな値段を出す方法
2021年6月1日追記。自分で不動産価格(特に土地価格に強いです)を出せる無料のソフトウエアを公開しました。どなたでもダ ...
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